10年前に戻っても幼なじみとデートするはずがないだろう ②
次の日の一時頃。
俺は約束の場所であるイオンに約束の時間より少し前にやってきていた。
イオンは俺たちの家から最も近いデパートであり、田舎のわりに規模は大きく、家具や雑貨、食事処、映画館はもちろん、なぜか屋上に観覧車も併設されている。
そんなイオンの入り口前で待っている佐伯ゆいの姿を見つけ、少し焦って走り出した。
「悪い。待ったか?」
デートでは女の子を待たせるなと昨日天塚に教えられていたので時間より少し前にやってきたが、佐伯ゆいの方が幾分か早く来ていたらしい。
「いえ、わたしも今来たところです」
何ともデートっぽいやり取りで正直、息が詰まる。
佐伯ゆいは白いブラウスに黒のシフォンスカートに高めのヒールといつも見慣れている制服とは随分印象が違っていて可愛らしい。
その可愛らしい姿を見て俺は余計緊張してしまっていた。
「……やっぱり、家は隣なんだから別に現地集合じゃなくてもよかったんじゃねえか?」
俺はできるだけ平静を保つためにいつも以上にぶっきらぼうな口調で尋ねた。
このイオンは家の一番近いデパートとはいえ、自転車で30分、電車で20分ほどの場所にある。
そもそもいつものように俺の家に迎えにきてもらえれば、わざわざ待たせないでよかったんじゃないだろうか。
「ダメです。デートなんですから待ち合わせするべきだってわたしの友達も言ってました」
「そういうものなのか?」
「はい、待ち合わせして相手がいつ来るかなってドキドキしながら待つのもデートの一部らしいです」
そういうものなのだろうかと疑問に思うが、経験がないのでなんとも言えない。佐伯ゆいの友達は経験豊富そうだから、その友達が言うなら間違いないのだろう。
「昨日から思っていたのですが、そういえば直人くん、髪切りましたか? でもこの前散髪に行ってからそんなに時間たってないような……」
佐伯ゆいは俺をじろじろと見ながら言った。
「……よく気づいたな」
「えへへ、毎日見とけば気づきますよ? 何年一緒にいると思ってるんですか」
佐伯ゆいは照れたように笑うと、彼女は俺の全身を見回した。
「なんか着ている服も流行りのものだし……、いつもよりもっとカッコよくなった気がします」
「はいはい、お世辞はいらねえよ」
佐伯ゆいは顔を朱色に染めながら世辞を言う。
たしかに俺が着てきた服は白いシャツに真っ黒なアウターにブラウンのチノパンといつもよりは多少洒落た服を着てきたつもりだ。
昨日、天塚にこれが流行りの服だと買わされたものをせっかく買ったのだからと着てきたのだ。
まあだが、褒められただけで簡単に自分がカッコいいと認めるほど自己評価は高くないので俺はいつもの様に流すと、佐伯ゆいはムッとした表情に変わった。
「本当ですよ! 鏡見てないんですか⁉」
「鏡は見たけどよ。正直俺にはどんな髪型がカッコいいとかわからねえし……」
根っからの陰キャの俺は美的センスを養うような人生を送ってこなかった。そのため今まで男の服装や髪型をカッコいいと言われるものを見せられてもいまいちピンとこない。
まあ今まで身内以外に一度も見た目でほめられたことのない俺が、ちょっと高い美容院に行ったくらいでイケメンに早変わりなんてことはありえない。そんなことあり得るのはラノベの中でだけの話だ。佐伯ゆいの身内からの目線でのみ、やたらイケメンに見える現象だろう。
「本当なのに……」
「そういうんだったら、お前のほうがよっぽどかわ……」
俺はうっかり『可愛い』なんて言いそうになってぎりぎりで踏みとどまって固まった。
「直人くん……かわ……の続き、聞きたいです」
佐伯ゆいが頬を真っ赤に染めて俯いているのをみて気恥ずかしくなる。
「なんでもねえよ……ほら行くぞ」
俺は赤くなった顔を見られないように背を向けて、イオンの中に入っていく。
さすがに佐伯ゆいをおいていくつもりはないので、すぐに振り向いて待つことにした。
「えへへ、とりあえず、服でも見に行きましょうか」
佐伯ゆいは駆け足ですぐ追いついてくると、目を細めて微笑んでいた。
佐伯 ゆい
「なんでもねえよ……ほら行くぞ」
直人くんはそう言うと、ぶっきらぼうに足を急がせましたが、すぐに足を止めわたしを待っていてくれました。振り向いた直人くんにわたしは少しだけ見惚れてしまいました。
「えへへ、とりあえず、服でも見に行きましょうか」
わたしは何とか笑ってごまかしましたが、昨日から思っていましたが、やっぱり直人くんは髪型を整えてから、カッコよくなったと思います。
全体的に短く横は狩り上げられ、元々のパーマがかかったような髪質を綺麗に整えられていて、雑誌に載っているような髪型で、服も無難に流行りを意識しているようで、どこかの雑誌に載っていたとしても違和感を抱かないでしょう。
直人くんにはお世辞だと一蹴されましたが、お世辞なんかじゃなくて本当にカッコいいと思っていました。
わたしの偏見も多少はあると思いますが、今すれ違った女の子が、
『あの人カッコよくなかった?』
そう言っているのを聞こえてきて、一般的に見てもカッコよくみえていると確信しました。
直人くんの様子をちらりとみると、すれ違った女の子の声は聞こえてなかったみたいで平然としています。
やっぱり直人くんは自分の評価みたいなのが低い気がします。
多分カッコいいと言っている声が自分に言われているはずがないと確信を持っているのでしょう。
でも、わたしは直人くんの自分をカッコいいと思っていないそんなところも好きでした。
あ、でも一般的にかっこよく見えているということは直人くんの魅力に気づいてしまう女の子がわたしのほかにも現れる可能性も出てくるということです。
直人くんがもっとカッコよくなった分、わたしももっと可愛くなって直人くんに好きになってもらうように頑張らないといけません。
わたしはそう意気込んでアパレルコーナーで服探しをすることにしました。
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