ただの日常は尊い

大西元希

第1話 日常の始まり

 ハンバーガーに齧り付く。

 俺——大村 優は高校帰りにチェーン店のファーストフード店に寄っていた。

 注文したセットはポテトLサイズ。てりやきバーガー。コーラの三つ。

 俺は味を堪能していると、レジの方がざわついているので、視線を向けるとうちの学校の生徒が困っていて、その後ろに多くの客が腕を組んだり、イラついた表情で腕時計を覗いたりしていた。

 ——ああ、もしかして注文したのに金がないのかな。

 立ち上がって、生徒の元へと向かう。

「お客様?」

「うー、どうしよう。お金がない」

「これ、使えよ」

 千円札をさっと渡すと喜ばれる。それを使って会計を終了させた。

 席に着こうとすると何故か目の前にさっきの生徒も座ろうとする。

「いやいや、他にも席は大量にあるだろ」

「ここがいいので」

 と、言ってドリンクを飲む。俺はどうしたもんかなと思う。帰ってしまいたいけどまだセットが残っているしな。

 とりあえず習ってコーラを飲む。炭酸の弾ける感触がたまらない。

 目の前の生徒をじっくりと凝視する。

 ショートカットな髪に、甘いシャンプーの香り。いや香水だろうか。背丈は俺よりも小さくて、印象は……可愛い、だ。

 何故か守ってやりたくなるような魅力が、この生徒にはある。

 とりあえず名前を聞いてみるか。

「名前はなんて言うんだ?」

「谷口 光です。よろしく」

 手を差し出された。握手する。そういえば女と手を繋いだことは初めてだな。

「あ、さっきの千円札、また返せよ」

「はい」

「利息は十日で五割だ」

「いや、闇金業者なの? 暴利じゃん!?」

 的確なツッコミににやけてしまう。ああ、この会話のリズム心地いいとか思ってしまう。

「俺の名前は大村 優だ」

「あ、顔にソースついてますよ」

 ティッシュで顔を拭く。こんな姿で「これ使えよ」とか言って格好つけたのか。恥ずかしい。

「ふふ。可愛い」

 この子はなんて穏やかなのだろう。こんなブサイクな俺に「可愛い」だなんて。ラノベ主人公ならテンプレの一つだがここは現実世界。とてもじゃないがあり得ない。

「ありがと」

 とりあえず俯いて照れていることを隠す。


 店を出ると光は「また学校で」と手を振った。振り返す手は何故か赤かった。全身が風邪をひいたかのように熱いし、去っていく光の後ろ姿を眺めて、胸が締め付けられるような思いもした。

 ——まさか、恋か?

 頭を振る。そんなわけはない、と。


 翌日、高校のクラスにて。

 隣の席の山田は、教科書で隠しながら弁当を食っていた。早弁である。それも授業中にだ。

「おい、やめとけよ」

「うるさい、センコーに気づかれんだろ」

 センコーって……いつの時代だよ。

「あとで卵焼き、食わしてやるから」

「いや、いらねーわ!?」

「おい!! 山田なに早弁してんだー!!」

 教師の声。早弁が見つかったのだ。山田は俺を睨みつける。お前のせいだぞ、と。いやいや、弁当食ってたお前が悪いわ。


 授業が終わって、その後、山田になぜか説教されて、もうクタクタだった。

「もう家に帰りてーー」

 屋上で涼んでいると、

「ねぇ、大村くん」

 と、声がした。振り返ると光が立っていた。

「ちょっと話があるんだけど……」

「なんだよ」

「付き合ってくんない?」

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