案山子

 中学校の通学路にあった案山子はとても変わっていた。


 マネキンの首に木の棒を無造作に刺した物が、何十体も地面に刺さっており、それぞれが全方向の鳥を見逃さないかの様に、四方八方、別々の向きを向いている


 明るい時間帯でも相当不気味だったが、夜、部活終わりに自転車で横を通る時などは、怖くて堪らないので、見ないようにグッと下を向いて通っていた。


 学校でもそこそこ有名で、怖くて通れないという生徒も多かったため、PTAの会長をやっていた私の母親が、畑の所有者に対して撤去をお願いするという流れになった。


 その日の夜、いつもの様にその畑の横を通った。


 (ああ、もう首だけの案山子ともお別れか。一回だけ見てみようかな)


 撤去される前にもう一度見ておこうと思い、自転車を止めた。


 よせばよかった。


 暗闇のなか、自転車の薄い明かりに照らされて、全部のマネキンの顔がピッタリと、私の方を向いていた。


 ギョッとして猛スピードで家へと帰った。


 あんな何十体もある首を動かすなんて、畑の所有者が、クレームを入れた生徒達に対して、腹いせで嫌がらせでやったのだろう。


 母親に告げ口してやろうと台所へ行くと、母親の方から話をしだした。


 「あの畑、去年から所有者不明なんだって。取り敢えず明日、法務局の人が見に来るそうだから。撤去はその後ね」


 そう言った母親の手は、土で汚れていた。

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