一話一分ホラー短編集

瀧川 鯉舟

心霊スポット

 心霊スポット巡りが趣味の私は、ある日の夕方、20年前に一家惨殺事件が起こったという有名な一軒家に行ってみた。


 日本全国を震撼させた事件で犯人は捕まっていない。


 現場に着き、早速廃墟探検をしようと思い、嬉々としてドアノブを回したが、鍵が掛かっていた。


 インターホンを鳴らすと、怪訝そうな顔をした住人が出てきた。


 廃墟かと思いきや、普通に人が住んでいるようだった。


 家の周囲も特段嫌な空気を感じられず、平和に暮らしている住人の姿を見て肩透かしを食らい、ひどく残念な気持ちで家へと帰った。


 その夜、私は布団に入り実話系のホラー小説を読み耽っていた。


 突然、インターホンが鳴った。


 時計を見ると深夜1時。客人が訪ねてくるような時間帯ではない。


 何かの間違いだろうと思った私は、寝過ごしてしまおうと思い、布団を頭から被った。


 ……暫くすると、再びインターホンが鳴った。


 私は無視を決め込んだ。


 すると、……ガチャリ、玄関のドアが開く音が聞こえた。


 そして誰かが早歩き気味でこちらへ向かってきた。


 (ヤバい! 入ってきた、泥棒か?)


 私は飛び起きて明かりを点けた。


 誰もいない。


 玄関に目をやると、鍵もチェーンもちゃんと掛けてある。


 (さっきのは一体何だ?)


 家の中を確認したが、誰かがいるような気配は感じられない。


 私は、その時何を思ったのか、玄関のドア穴から外の様子を確認してしまった。


 やめておけば良かった。


 玄関の前に、見知らぬ家族が並んで立っていた。


 そして全員、赤黒い血で服が汚れている。


 一家惨殺事件で殺された家族と同じ家族構成だった。


 私は腰が抜け、玄関にへたり込んだ。


 その時、


 「お前がやったのか?」


 ドア越しに男性の声が聴こえた。


 (違います!違います!すみません!興味本位で訪ねました!申し訳ございません!申し訳ございません!)


 私は手を合わせ、頭の中で一心不乱に謝った。


 私は、明け方になるまで玄関から動くことが出来なかった。


 興味本位で心霊スポット巡りをしてはいけない。

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