ぼんやりとした理由
野口マッハ剛(ごう)
後輩の女の子
怒りは不思議となかった。
後輩の女の子、女友達が妊娠したと聞いて、オレは自分のことのように祝福してあげた。相手は知らない。その女友達は本当に嬉しい様子だった。よかったな、オレが言うと女友達は何も言わないけど笑顔だ。
けれども、女友達が出産する予定日、その相手は逃げた。オレは何も言えない。女友達は表情が上手く出せないようだった。そして、予定日から3日経ってからその後輩の女の子は無事に女の子を出産した。
あとからわかったこと、それは女友達に知的障害の診断があったこと。オレはそれを聞いて、ワケがわからなかった。女友達の女の子は、ちょっと詳しいことまでは忘れたけど、とある病院に預けられたらしい。
怒りは不思議となかった。オレと女友達はたまに二人で遊びに出かける。女友達は、オレに赤ちゃんの写真を見せてくれる。かわいいね、オレはそう言って女友達は、ありがとう、と答えた。
その内に、オレは女友達と会えなくなって、メッセージのやり取りをしている。このままだと、赤ちゃんはどこかで育てられるようになるらしい。オレはそのメッセージを見ては、女友達の心配をした。
ぼんやりとした理由。
オレはそう言えば、お父さんとは血がつながっていない。オレはお父さんに聞いてみる。どうしてオレを育ててくれた? って。そうしたらお父さんは、たまたまお母さんと再婚したからだ、だってさ。
女友達とのメッセージは相変わらずしている。オレはアルバイトを複数している。ぼんやりとした理由、オレってアイツのために何か出来ないかな? って。オレは次の日曜日に女友達と会う約束をする。
正直に言って、オレに自信はないし、女友達がこの事を受け入れてくれるかはわからなかった。でも、オレはその女友達のことを好きだった。赤ちゃんとオレは血がつながっていない。けれども、言わなきゃ。
オレと女友達が日曜日に会う。いつものように二人で遊び、笑顔で、もう本当に会えなくなるって女友達から聞かされて。オレは全てを話した。オレは貴女と、その赤ちゃんの面倒も見る、って。すると、女友達から表情が消えた。
涙が女友達の目からポツポツと雨のように流れる。オレは不思議と怒りはなくて、その逃げた相手だけを憎んだ。女友達と赤ちゃんに、罪はない。オレは女友達を力強く抱き締めた。
ありがとう、女友達は声を振り絞ったように泣きじゃくってオレにそう言った。オレは、女友達に知的障害があろうと、そんなのは関係ない。オレは女友達の笑顔と、赤ちゃんの未来を守りたいだけだった。
ぼんやりとした理由。背中を押したのは、それだけだった。
終
ぼんやりとした理由 野口マッハ剛(ごう) @nogutigo
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