帰路。
「なるほど、ヤタと比和子ちゃんは付き合っちゃっと、なるほどな~」
多分アイさんは色々質問をしたそうだけど、グッと言葉を堪えてありのままを受け入れたらしく、何も言わずにソファーに座るとクガさんに入れてもらったホットココアを口に含んでホッと一息入れる。
「クガ、なんかどうでも良くなったから膝貸して」
「…あいよ」
こうして二人が膝の上に座るという、謎のシチュエーションのまま会議が始まる…いやこれどういう状況だよ、なんで誰もツッコまないんだよ! 特にアイ。
「………ん」
いやアイもこれウチはせぇへんの? って言いたそうな目をしている!? 嘘だろおい、ツッコミがいないじゃないか!!
「それでまず最初のお話ですが、現状についてです」
いやこの空間でよくイチゴさんはさも普通に話を開始できますね!?
「今回は時間をかけて帰路に着くことになります、場所は宇宙ステーションハヤブサで到着予定は4月18日、怪我人が多いこともあって牡牛座には間に合わないと予想されます、ここまではいいよね」
「はい!」
比和子が勢いよく手を挙げて質問をしたそうにイチゴさんにアピールする。
「どうぞ比和子ちゃん」
「とすると牡牛座には何処が向かうのでしょうか?」
「リヒトさんとベッグさんのパンゲアの第一、第二艦隊を主力に複数傭兵会社だけど、戦力が絶望的に今回足りてないので、地球政府各国から正規軍が出る事になったから、戦線の維持だけなら問題ないかな~」
「なるほど、私の会社も間に合わなさそうですね…くびぃ…」
「その比和子ちゃんの会社を次にするね」
「なにかあったのでしょうか…?」
「んっとね~、やっぱり厳しいっぽい」
「やはり…」
やはり比和子は薄々わかってはいたようだけど、大きなため息混じりに天を仰ぎなが心は沈んでいる様子だ。
「そこで宇宙ステーションに入ったら予定を変更して、パンゲアにレンタル…というか派遣して働いてはどうか、っていう話が出てるよ」
「パンゲアで…?」
「不服かな?」
「いえいえ、不服といいますか、合わないでしょうアソコと
「うん、そんな気がする」
パンゲアは基本的にチームプレイを大事にするし連帯意識が強い、それに比和子の様なハイリスク・ハイリターン戦法よりも、ローリスク・ローリターンを積み重ねるタイプなので、相性が悪そうだ。
「じゃあ休業しても良いと思うけど」
「それでは首………もとい、手柄があげれないではないですか!」
「うーん、でも比和子ちゃんを受け入れれるところとなるとなぁ…」
イチゴさんは頭を抱える、お世話する以上最後まで見てあげたいという面倒見の良さはいいのだけど、この場合送り出すのが比和子という戦場では問題児と化す人物なので、半端に送ると受け入れた側の
「ここはどうなんだ?」
ヤタさんが比和子を
「ここ? ここも結構チームプレイ重視だし堅実だよ~?」
「「「「「えっ!?」」」」」
イチゴさんの何気ない発言に全員が驚嘆の声をあげる。
「はてはてはてはてはて…イチゴさんも面白い冗談を仰る」
「え~、冗談じゃないんだけど~」
「イチゴ、聞いてくれ」
ポーカーのヤタさんが珍しく真剣で、すこし
「堅実な艦長は、敵陣に特攻しない」
「ぬ、それは人数が少ない時に一回だけじゃん」
一回でもやれば十分だと思うのは自分だけだろうか?
「堅実な艦長は、何度も小型艦で突撃しない」
「ぬぬ、だってそれが一番有効な戦略だもん」
「堅実な艦長は、小型艦でドリフトできるよう設計させない」
「ぬぬぬ、いやだってなんかできそうだったし」
「堅実な艦長は、
「うん、許可は出したけどその作戦の責任者はクガ」
「だが堅実な艦長は、敵のArcheを特攻で倒そうとしない」
どんどんヤタさんがイチゴさんに問い詰めていく、恐らくヤタさん自体多少今までの行為に思うところはあったのか、凄い迫力だ。
「…あれ? もしかして、本当に私って堅実じゃない?」
「せやで、イチゴさんはかなーり、豪快やで」
「はうっ!?」
イチゴさんはショックを受けて目を見開いて固まる。
「…別に無茶なのは嫌いじゃないんだが、自覚は持ってくれ」
「わかったよ~…」
とうとうイチゴさんはヤタさんに詰問された結果、自分が堅実な艦長ではないと自覚したようだ、これで少しは今のようなぶっ飛んだ作戦はマシになるかも。
「これからは自覚を持って、今まで以上に頑張るね」
「あぁ、頑張ってれ」
いやダメだ全然ダメだった、むしろなんか悪化しそうな空気すら感じるんだけど、これイチゴさんの中で色々吹っ切れてたりしないよね? 大丈夫だよね?
「はて…もしや無意識だったのかしら?」
「あぁ、いつか言おうと思っていたんだがな」
比和子とヤタさんの黒髪コンビが珍獣を見るかのような目でイチゴさんを見る。
「あ~もう、その目は止めて、わかったってば~」
イチゴさんは現実を受け止めたショックを受け入れつつも、落ち着くために飲み物を飲み、大きく深呼吸して再び真剣な表情に切り替える、クガさんの膝の上じゃなければそれも決まって見えたんだろうけど、イマイチ見えてる光景のせいで引き締まって見えないのが困る。
「それでも、比和子ちゃんを預かるのは難しいかも」
「何故だ?」
「まず、宇宙ステーションも月面基地も予約で一杯だからメンテナンスに時間がかかっちゃうのが一つ、アイが骨折してるのが二つ目、正直私達も暫く出撃できないよ」
「どのくらいだ」
「最低でもアイの手が完治するまで一ヶ月、それから移動に10日、宇宙ステーションの専用医療施設で回復は早いけど、それぐらいはかかるよね」
今回、戦艦にダメージ自体はなかったけれどArcheのダメージはどれも大きい、それをヤタさん一人で修理するのでやはり時間はかかるようだ、
「正直、二人のパーツがどれぐらいで届くか不明なんだ、現時点で既にかなりの量の発注がかかって在庫不足らしい、工場もフル稼働してるし、エース機体だから優先はかかると思うがどうなるか…」
「鬼ですか?」
「あぁ、大量に損害があったからな、鬼の修理だけでも在庫がカツカツらしい」
今回のエッダとの戦いは二日で終結したとは言え、自分達が到着した時入れ替わりに撤退した大量の艦隊は殆どが修理を要請したことだろう。
「それでも鬼が復旧するよりは早いですし、私はパンゲアよりもコチラが」
「それもね~、派遣ってことはレンタル料もかかるじゃん? それに比和子ちゃんって結構エースとして名前売れてるからお金が…」
それは結構切実な問題だ、現状ランキングは二位だし今回の報酬もかなりの額が支給されることが予測される、だが今回ランキングが高いのはコロニーを落とした功績によるものだし、牡羊座が終わるまではランキング精算は行われない、まだランキング報酬のお金が入ってきていないのだ。
「それに今でこそ二位だけど私達少数だから次も二位は取れないよ、しかも一ヶ月動けないってなると…十位に入れるかどうかかな~…」
「なるほど、よくわかりました!」
「うん、わかってくれて嬉しいよ」
「移籍しましょう!!」
「わかってない!?」
イチゴさんが焦って珈琲を少しこぼしてしまい、無重力空間を表面張力によって丸くなったコーヒーが、シャボン玉のようにプカプカ浮かぶ。
「あれだよ? 高いからね移籍料の方が」
「えぇ、存じております」
「じゃあダメだめだよね?」
「は、でも私鬼の正社員でもないので」
「…え?」
「私、父様の手伝いという目的で元々入ったので、アルバイトです」
「…嘘でしょ?」
どういうことだよ、と思っているとイチゴさんが急いでタブレットを操作して鬼の公開されている情報を検索し始め、その後艦長の銀さんに連絡する。
「ほんとだ…比和子ちゃんってアルバイトだって…しかも一番年下」
「はい、その通りです!」
あぁ、だから呼び捨てで良いって言い張ってたのか…。
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