突入。

 最高速で三人で敵艦に近づく、瞬間速度が一番早いのはアイの機体だけど、巡航速度が一番早いのは自分の機体だ、そこでアイの機体を追い越さないように真後ろに付けながら大型艦エイリークの壁面に沿うように侵入経路を探す。


「どうやって入る? ウチとしてはカタパルトからがオススメやけど」

 エッダのカタパルトはオモイカネの様に戦艦上部にあるのではなくて、内蔵式で

 巨大で分厚い隔壁で閉まっている、だがアイにかかれば簡単に破壊できるし、奥に通路があるとは限らない両サイドや武器が密集している前面部分より侵入しやすい場所で間違いない。


「賛成だ、アイの言う通り背部カタパルトににしよう、左舷側のだ」

 エイリークは両サイドの一番後方部分にカタパルトがそれぞれついている、現在位置が左舷に近いために、そこの隔壁を破壊して侵入しようという事で作戦が決まる。


「あ、比和子さんおるやん」

「……ほんとだ」

 左のカタパルト前に比和子さんがいる、場所はカタパルト前の隔壁で折れた刀の破片と隔壁の弾痕や刀痕とうこんから比和子さんと時義ときよしさんが破壊を試みた跡がわかる。


「あら…おやおやおあやパンゲアの一行ではないですか!」

「お疲れさまです」

「丁度よいところにいらっしゃいました!」

 比和子さんはそういうと目をキラキラと輝かせながら、まるで宝物を見つけたかのようにアイの手を両手で優しく握りしめる。


「な、なんや?」

「アイ殿どの…でよろしかったですか?」

「あ、うん、でも殿はやめてーた、呼び捨てとかせめて…ちゃんとかさんでお願い」

「わかりました! ではアイちゃんは隔壁を壊すのが得意と聞き及んでおります!」

「あー、うん、得意やで!」


 アイは相手のテンションにどうしようかと、たじろいでいたが一周回って自然体に行くことに決めたよう笑顔を返しながら答えた、ビジネススマイルだけど。

「えぇ、えぇえぇ、これは僥倖です! ねぇ父様!!」

 話を振られた時義さんが渋い顔をしながら首を縦に振って肯定する。


「…ええんやろか」

 アイは少し迷った様子でペイルハンマーを装填する。

「いいよ、どっちみちだし…エッダが決めたことだから」


 迷った理由は俺にもわかる、敵の艦内には非戦闘員やArcheを装備していない人間が沢山いるのがわかっている、当然Archeに乗っていなくても手持ちの武器で攻撃してくる人間もいるだろうが、あの比和子さんは戦闘員か非戦闘員かなど気にせずに、容赦なく全員殺すかも…という懸念がある。


「一緒に見てよう、それで酷かったら2人で止めよう」

「わかった」


 アイはペイルハンマーを思いっきり隔壁の打ち付け隔壁を貫く、まず一発目は小さい穴で、Archeが通れるか微妙な穴、続いて間髪入れず同じ大きさの穴を隣にいれ、最後に三角形を描くように二つの穴の中心の上部分を破壊して、丸が三つでできた大穴を作る。


「素晴らしい! 父様! あれ私も搭載していいですか!?」

「…ダメだ、お前の機体じゃ反動で使えん」

「…む、それもそうです」

 比和子さんはがっかりしたように穴を覗き込む、すると大穴めがけて大量に弾丸が飛んできて思わず比和子さんは頭を引っ込めて回避する。


「おやー、必死みたいですよ」

 敵も侵入口のひとつがココであるとわかっていて戦力を集中させている様子で、防衛線を張っているようで、絶対にここを通さないという強い意思を感じる。


「下がっておれ」

 そこに時義さんがガトリングガンを大穴に向けて乱射する、数十秒に及ぶ言う乱射はかなり縦断をバラけさせ、ターゲットも定めず、できるだけ穴の中へ万遍なく当たるように射撃している、当然これは単なる威嚇射撃なのだが、一発一発の威力は重いためもしも当たればタタでは済まないと、敵を萎縮させるのには十分だ。


 その間に比和子さんは大穴の上にいつでも入れるように待機し、その準備ができたのを見計らって最後に時義さんは手榴弾を投げ込んで内部で爆発させる。


 その爆発とほぼ同時に比和子さんが内部に乗り込む、沢山の発砲音は聞こえないが、レーダーで比和子さんが高速で動き回っているのが見て取れる。

「ウチらも行くで!」


 続いてアイが突撃していくので自分も後に続く、中では比和子さんに向けて攻撃が集中しており、縦横無尽に動き回って攻撃を避けていてコチラがフリーだ。

「今のうちや!」

「あぁ!」


 すかさず二人で発泡を開始して、比和子さんに気を取られた敵を倒していく、後続の二人も参戦して攻撃したこともあり、この場は簡単に沈黙した、残る生き残りは非戦闘員だけだろう。


 意外なことに、比和子さんは非戦闘員の首は攻撃しなかった、何人か斬ってはいたけど全て武器を持った人間だけであり、武器をもたず避難していた者達には手出しをしていない。


「ここは…終わりかしらぁ?」

 ぐるりと比和子さんは見渡して状況を確認する。

「…非戦闘員はどうします?」


「好きにしていいです、興味ありませんのでぇ…あぁあぁあぁ、でもこれで終わりとは寂しいです、奥にもっともっともっっと、首級があればいいのですが…」


 どうやら、比和子さんは非戦闘員には興味がないらしい、既に超えちゃいけなさそうな一線を超えた上で、更にその先にある一線はまだ超えてないらしい。

「意外やな、ウチ比和子さんのこと殺し屋かと…」


「んーんーんー、あってます、だって殺していいものは殺すのが常識ですから、えぇえぇえぇ、でもできるだけ殺すなってことは殺してはいけない…と教わったので、非戦闘員は殺して良くなるまで殺しません、だって非戦闘員を殺してしまったら武勲スコアが下がるじゃないですか、ソレはいけません、えぇ、だから殺すのは武勲になるものだけです」


 一応、彼女は彼女なりのルールやプライドがあるらしい、とりあえずそれがわかっただけでも少し安心できる。


「…だったらおいお主ら、非戦闘員投降するものだけこの脱出艇に乗って救助サインか投降サインを出せ、出さない場合は撃墜し、他の脱出艇は全て破壊する」

 時義さんが促すと、続々と救助艇に非戦闘員達や負傷だけでとどまった人間が入っていく、その中にアイの見知った人間がいたらしく、一人に駆け寄っていく。


「おやっさん、生きとったん!?」

「…アイか、久しぶりだな」

「他のみんなは?」

 おやっさんと言われた人間は目を伏せて首を横に振る、どうやら連れてこられたのはこの人だけなんだろう。


「あー、そっか…せやな」

 アイに現実として、元仲間が死んだことが突きつけられる。

「ワシ以外第二で連れてこられた下っ端はいねぇ…すまん」

「ううん、おやっさんのせいやないやん」

「あぁ…」


 おやっさんはアイのヘルメットに軽く大きな手のひらを乗せてから

「仇討ち…ありがとな」とだけ最後に伝えて脱出艇に入っていった。

「…これで全員やな」

 おやっさんが乗り込んだことで、全員脱出艇に入ったと見なして脱出艇は発進していった、方向はこちらの船団の方で要救助サインも出したのでコレで安心だろう。


「終わったようですねぇ…それでは行きましょう、いざブリッジへ」

 どうやら比和子さんはブリッジへ向かうらしい。

「どうしますヤタさん」

「ちょっと待て」


 ヤタさんは敵に聞かれないように、秘匿開戦でケームさんと会話し始める、この会話は自分にも聞こえないので話し終わるのを待つ他ない。

「パンゲアも右舷から入ったらしい、こっちがブリッジにいくから動力部は任せろだそうだ、このまま鬼に同行しよう」

「了解です」


 その返事を共用通信で聞いていた比和子さんは満足そうな笑顔を見せる。

「決まりですね! ではいざ鎌倉!!」

 その比和子さんの歩みは戦場を進んでるとはとても思えない、まるで花畑でも歩くかのように軽々としたものだった。

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