エイリーク。

 船内ではArcheの抵抗は少なかったが、非Arche装備の敵からの抵抗は会った、しかしArcheを装備しない武器は生身で扱う反動のものや、熱量しか無いので大したダメージを与えることはできない。


 特にアイのArcheはRKSシールド性能が高いので地上でも使えるような、ライフルを斉射された所でかすり傷しかつかないのだが、一応対物ライフル等は警戒して進む。


「なんか、最初と立場逆やな」

「最初って」

「コルキス基地の中救援に行った時、ノルドはこういう気持ちで敵を追いやってったんやろうなぁって」


 なるほど、そう言われてみればこの数時間で本当に立場は逆転したんだ。

「けど…あんまり楽しくないね」

「…せやな」

「え? 楽しいですよ?」

 うん、比和子さんはそうでしょうね。


「敵基地の侵入ってワクワクしませんか? こう、エージェントみたいで」

「うーん…」

 どうだろうか、ゲームとかならワクワクするんだけど、実際逃げ惑う敵兵を見ているこの状況だとそんなに楽しめないんだけど。


「どうしよスノウ」

「なに、アイ?」

「ちょっと気持ちわかってまう」

「マジか」

「そうでしょうそうでしょうそうでしょう!」


 比和子さんが笑顔を向けながら、アイの手を握ろうとしてハッとする。

「いけません! 敵中で握手とは!!」

「せやな、正気になってくれて良かったわ」

 いや元から正気なの?


 しかし、このぐらい軽口を言いながら進めるのも緊張して入るが、ある程度余裕があるからと言うのが大きい。特にコルキス基地へ入った経験から監視カメラ型のセントリーガンを見分けることができ、対処できていることが大きい。


 セントリーガンを対処するのは自分とヤタさんの役目だ、アニーさんの様に早撃ちはできないけど、予め場所を一度目視で確認した後狙いを定めて発砲することで対処できる、単純に一回目の目視の時点で破壊できるアニーさんの方が破壊速度は早いけど、危なげなく破壊できるのでマシだろう。


「多くなって来たから…ブリッジも近いと思う」

「…コルキスん中でも、本命の近くの方が多かったもんなぁ」

 この曲がり角には三つセントリーガンがあった、自分の連射力では一機ずつ破壊するのが安定するので、目視に一回、破壊に一回ずつ射撃しては角に引っ込んでを繰り返すことで合計四回かけて丁寧に破壊し終わる。


「やれやれ、足止めとは厄介ですが…ブリッジが見ましたよ」

 比和子さんがブリッジ前の扉に駆け寄る、幸いにもこの周囲にはトラップは無いようで、後はこの中をどうにかすれば大型艦も制圧完了だ。


「どないする?」

「突入でしょ、もう」

「…人質もおらんしなぁ………やるん?」


 さすがにノルドと状況は同じだとしても一方的に中を燃やしたくはない、それにコッチには扉を破壊する強硬策を取る手段もあり、人数も揃っているので突入作戦のほうがいい気がしてくる。


「自分は賛成です、お二人は」

「俺は構わない」

「儂も任せる」

 ヤタさんと時義さんも突入でいいと判断する。


「おれとスノウ、それと時義さんの三人でバックアップをする、前衛二人は好きに突入してくれ、くれぐれも慎重にな」


 その返答に二人は頷いて観音開きタイプの扉前に待機し、ゆっくりとアイが扉を押してみる…すると扉が少し動くのがわかる。


「開いてるやん…」

「誘ってますね、どうします?」

「言うてArche反応ある?」

「はて…私のレーダーでは見当たりませんね」

 と、すると誘っているとすれば爆弾か?


「蹴破ってみる?」

「えぇそれで行きましょう」

 と意見が一致した瞬間二人で両サイドの扉を同時に蹴っ飛ばして、勢いよくブリッジ内部へ吹き飛ばす、それと同時に扉脇に身を隠して様子をうかがう。


 しかしなにも起きない、抵抗する銃弾ぐらいは予想していたのだけど中にいるのは艦長席に座っている背中がひとつだけで、他のクルーは誰一人見当たらない、だがフロントガラスだけが割れている。


「アカン! 逃げた!?」

「待て!!」

 ヤタさんがアイが割れているガラスを見て脱出されたと判断して突撃しようとするのを腕を掴んで止め、代わりに銃弾を座っている艦長らしき人物の耳を撃ち抜く。


「…反応がない?」

「既に死んでるな」

 よく見ればフロントガラスが割れているのに宇宙服すら付けていないなら、ここには酸素はなく、間違いなく死んでいるのがわかる。


「…自殺ですか?」

「そんなにいさぎよくない」


 罠を警戒してヤタさんがその艦長らしき姿に銃弾を撃ち込むが反応がない、しかし明らかに罠っぽいのに突撃するわけにもいかず、あの比和子さんですら目を瞑って「んー」と唸り、どうしようかと思案している様子が見て取れる。


「ここはコレを試すか」

 そこで時義さんが取り出したのは手榴弾だ、この手榴弾は時限式で爆発による弾と一緒に炎を吹き出すタイプだ、確かにこれなら熱探知系の罠や接触系の罠をケアできそうではある。


「下がっておれ」

 全員一つ手前の角まで一旦退避して、念の為に近くにあった小部屋の扉も開けておく、そこに時義さんがタイマーを30秒にセットして手榴弾を艦長らしきものの位置に届くようにそっと投げ込み、こちらへ退避してくる。


 まず最初に手榴弾の炸裂が起きる、これは自分達は見ても居ないし聞きもできないが、タイムが過ぎたのでおこなわれたものと推測する、そして次に大きな揺れがブリッジから起き、それと一緒に炎が廊下に沿ってコチラへ向かってくる。


 咄嗟に全員で部屋に退避し、巻き上がってくる炎の中で時義さんが扉を締める、だけどそのせいで時義さんは軽く炎を浴びてしまった。

「父様!」

 比和子さんが時義さんに慌てて駆け寄る。


「大丈夫じゃ」

 娘の心配も裏腹に時義さんの機体に目立った損傷はなかった、炎を浴びた時間がかなり短かったのと、時義さんのArcheは鎧武者風の鎧であり、隙間が少ない防御型のArcheだったため、耐火耐性が高かったの要因だろう。それでもあの炎の中では長時間はノルドのように耐えれなかったと思われるので、ギリギリだった。


「ありがとうございます」

「なに、本当に罠があったとは言え、儂が起動した炎じゃ」

 そう言いながら時義さんは様子を見つつ、扉を慎重にあける炎が走ったのは長時間ではなかったらしく、既に炎はなかった、いくら燃料と酸素を使って罠を作ったとは言え、他に酸素もない宇宙空間での炎の罠なら持続力はない。


 もうコレ以上罠がないと判断し再びブリッジに戻る、問題は艦長はどこに逃げたか、だ、ただの宇宙服では長距離に逃げれるわけもないし、脱出艇が出たならばイチゴさんから緊急通信が入ってくる、Archeでも長距離で逃げるのは不可能じゃないが、スグに追手がくるだろう。


「……あぁ……あぁ! 感激ですよ!!」

 アイと比和子さんは同時にブリッジを先行して覗いた時、比和子さんは弾丸が発射されるかのように一直線に、ブリッジ内部へ突入していった、原因はわかってる、今俺のレーダーにも敵性のArche反応が出現した。


「ほう、おめぇさん鬼の…」

 いそいでブリッジに突入すれば、ノルドのような全身フルメイル型の金色のArcheに、腰の左右につけた大砲、そして2mある巨体に相応しそうな巨大な斧を持った男が比和子さんの刀を受け止めて鍔迫り合いをしていた。


「首級だっ!! この戦一番のっ! あぁ、なんて嬉しいんでしょう!!」

 比和子さんは恍惚の目をしながら、飛び退くとハンドグレネードを一発その大鎧に撃ち込み、大鎧は数秒ほど炎に包まれる。

「ったくよぉ…この反応誰も爆発で死んでねぇじゃねぇか」


 しかし、その炎をもろともせず、その大鎧はのそのそと歩きながら炎をまるでホコリを払うかのように振り払った、やはりハンドグレネードでも宇宙空間では炎の持続時間は短い、それでも爆発の衝撃はかなりのものだった筈なんだけど。


「…あぁ、アイか、ったく久しぶりだな、死んどけよ」

「あんたこそ往生際悪いで、エイリーク…」

 艦名と同じ名前をアイは口にする。

 エイリークとはこの船の艦長の名前であり、エッダのトップの名前。


「ソレだけが取り柄でねぇ」


 表情が見えないのに、ニヤケ付いているような声で、その艦長は俺達と対峙した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る