見覚え。

「スノウ、知り合いか?」

「えぇ、でも見覚えはあるんですけど、どこで会ったか…」

「ウチもやねん、なんかこう…見覚えだけはあるんやけど…」


 アイも見覚えだけはあるらしく、エネルギーを充填しながらコチラを気にしている、ちなみにアイはヤタさんが対艦砲を撃った時に使った装甲に囲まれており、直接こちらを見ては居ないが、艦載カメラの映像をヘルメットに送ることで間接的に見ることが出来ている。


「クソッ…こっちはお前らのせいで人生めちゃくちゃになったんだぞッ!」

「マジか…あー、そりゃあいや謝るにしても理由がわかってからじゃないと」

「本当に覚えてないんだな…っちい」

 うーん、本当に思い出せない、けど人生を滅茶苦茶にしたらしいから結構関わりがあった人のようだ、こうなったら心当たりを探っていくか。


「あぁ、わかった、訓練生時代に俺が内定をオモイカネでとったばっかりに…お前がお祈りメール貰ったんだっけか…いやあん時は時の運っていうか…「チゲぇよ!」」

「スノウスノウ、学生時代やったらウチわからへん」

 それもそうか、ってことはアイと出会ってからだったから割りと最近だな?


「まさか月面の時…?」

「そうだ、そうそう」

 よし、とりあえず月面で会った人間らしい、ってことは結構数が絞られる。


「……あっ、アイと口喧嘩してたピザ屋の!」

「誰だよ!?!?」


 違うらしい、アイと初対面で文句を言い合ってたピザ屋なんだけど、あのあと数人の客にもイチャモンをつけていたらしく、口喧嘩をSNSで晒されて大炎上して屋台組合から営業の一時停止を命令されてしまったらしい、ちなみに代わりに入ったピザ屋さんは行ってみたけど結構美味しくてサービスも良かった。


「あの後に入ったピザ美味しかったで」

「うん、また行こう」

「知らねぇよ!!」


 ちなみに緊張感が無いように見えるけど、ちょっとでも姿を見せたら撃ち抜くつもりだし、ヤタさんはそっと周り込もうとしている、この会話は敵の意識をヤタさんから逸らす目的もあるので無駄な会話でもない、レールガンのチャージ時間も稼がないといけないし。


「セントラタワーのテロリスト一味の生き残り」

「違う」


「じゃあセントラタワーで投げた爆弾で巻き込まれた人…? それならちょっと申し訳なく思うけど、あれはそもそもテロリストが悪いと思うんだ」

「ちげぇ」


「…だめだ、お手上げだよ」

「クソッ…まあいい…ここでお前らに復讐するのに変わらねぇからな…」

 非常に心苦し…くないな、なんでだろう? だけど思い出せないものはしょうがないので素直に諦めるとしよう。


「セントラタワーって…あっ!」

 ジリジリににじり寄って来た時、アイが何かを思い出したように声を上げる。

「セントラタワーでメッチャ疲れたーってとき、ナンパしてきたアホ!」

「え? コイツ?」


 そう言えばバーガー屋で絡んできたヤツがいた、いや存在自体は覚えていたんだけど、あまりにも嫌で俺は顔をまともに見ていなかったので思い出せなかったんだ、それにコイツの印象はベッグさんから聞いた、問題を前々から起こしていて解雇された後痕跡もなく姿を消したヤツ…という印象がある。


「思い出した…というか顔見てなかったからわからなかったよ」

「ウチもマトモに目も合わせてへんかったから時間かかったわ」

「………誰がアホだ、お前らがチクったせいで俺は苦労したんだ」

 そんなこと言われても自業自得だろ、と思う。


「前々から問題起こしてただけろ」

「せや! 自業自得や!!」

「うるせぇ! あの後誰のせいで露頭に迷ったと思ってる!!」

「知ったこっちゃないわ」


 自分もアイの言う通りだと思う、そもそもナンパで揉めただけで即解雇にはそうそうならない、その前の軍機違反だったり酒癖で何度も暴れたりパワハラが原因だって

 ベッグさんは言ってたぞ。


「お前らどう思おうといいんだよ、俺はなぁ、お前らに復讐できればソレでいいんだよ、覚悟しやがれ」


 とはいえ、ベテランと自称していた気がするけど確かに腕は良さそうで、スキらしいスキを見せていないし、会話中でもヤタさんが周り込もうとするのを細かく牽制を入れている、これは思ったより厄介かもしれないし、元パンゲア第二艦隊所属のエリートだというのも頷ける、だからこそあの瞬間まで解雇は見送られていたんだな。


「アイ、バッテリーは?」

「持ってきた外付けのエネルギーパックと接続中や、もうちょいかかるで」

 ここにアイが加わればいとも簡単に倒せることができるだろう、しかし相手は大盾で手の内がわからないし、機体のカスタムにもかなりお金をかけているのがわかる、あの場で大口を叩いていたのはそれなりに自信があったのだろう。


「………」

 そっとレーヴァテインに手をかける、レーヴァテインの戦法を見ればベッグさんの大盾相手にいい勝負をしていた、ベッグさんと同じタイプが相手ならいい戦いが出来るのではないんだろうか、ここにはヤタさんの援護もある。


「スノウ、まだだ」

 しかしそれをヤタさんは静止する、リスクが高いという判断をしたんだとわかり、おとなしく言う通りにして、ライフルを構える。


 睨み合いは長く続かなかった、先に動いたのは敵だ…やべ名前なんだっけ。

「行くぞオラ!!」


 相手は急加速しながら盾で殴りつけてくる、盾で攻撃することをシールドバッシュというのだけれど、実はこれは結構威力が高くて危険な攻撃だ。


 盾でも大盾でも、防御兵器には小型のRKSシールドが積んであり独立した防弾性能を持っていて、RKSがなくても防弾性能はレベル5もあり徹甲弾等も防げる、更に地上運用と違って機動力を犠牲にしていいなら重さを気にする必要があまり無く、重量が200kgあるものも単独で扱える、さすがにこれは30kgから50kgぐらいのものだが、防弾性能はレベル5だろう。


 そんな50kg近い鈍器で殴りつけてくるのだから衝撃はArche越しでもかなりある。

「うっ!」


 シールドバッシュを咄嗟に受けきれず思いっきり吹き飛んでワダツミに激突する、すかさず敵は追撃のエネルギーブレードを突き刺そうとしてくるが、ヤタさんの発砲を感じ取りヤタさんの方に盾を向けて、弾を受け止める。

「大丈夫か」

「はい…大丈夫です」


 機体自体にダメージはない、衝撃を受けて少し身体を打ち付けたぐらいでなんともない、盾事態に殺傷力はなくあくまで相手の体制を崩すだけの攻撃だから、ダメージ自体はない、怖いのは追撃の方だ。


「っち…邪魔するなよ」

「仕事だ」

 ヤタさんの射撃を警戒しつつ敵は再び牽制を始める、どうにもこういう敵は苦手だ、飛び回れる宇宙空間ならもう少しやりようがあるのだけど、どうも今回の戦場はそういう戦いをさせてくれない状況ばかりだ。


 そこに一閃の光が大型艦に向かって放たれる。


 アイが五発目を発射して破壊したのだ、これで後は守りきれさえすれば戦略的には勝利だろう、そうしたら援軍も来るはずだ、比和子さんがコッチにきたら助かるけど色々困ることになりそうなんで、別の方でお願いします。


「次だっ!」

 今度はヤタさんに突っ込む、様に見せて一度ヤタさんに回避行動を取らせてからやっぱりコッチに来てシールドを叩きつけてくる。


 今度はレーヴァテインで防いだけれど、ベッグさんのシールドと同じ様にRKSを一瞬だけ全開にする事で俺の機体は10mぐらい吹き飛ばされる、それでも吹き飛びぎわにやつに向けて発砲するが盾で防がれるし、ヤタさんも撃っていたが同じく防がれる、しかもそのまま向かっていったのはアイの方だ。


「アイ!」

 敵がアイの方に向かう、まずい、アイの機体は度重なるレールガンの連射でかなり熱を持っておりオーバーヒート寸前だし、レールガン以外にエネルギーを使うような坑道は余り取れない。


「お前はなぁ! 鹵獲してやるって決めてたんだよ!!」

 ヤツが、アイに向かってシールドを盾に突撃していく、あぁ、これはヤバイ。

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