迎撃戦。

 オモイカネではアイがエネルギーパックの切り替えを終了し、再び艦上から出てきてレールガンの三発目を発射したところだ。ちょうどそのぐらいのタイミングで、比和子さんの通信にドン引きしつつ、撃破したという報告が銀さんから聞こえてくる。


「倒したようですね」

「………あぁ…あぁ」

 どうやらヤタさんもドン引きしてるみたいで、あまりコメントしたくなさそうだ。


「来るぞ」

 シーイを倒したという報告の直後から、数機のArcheがコチラへ向かってくるのがわかる、その数は6機程度だが、シーイが居た方面から5…いやへって4、そして大型艦から出撃してきた1機の合計11機だ。


「はい」

 ヤタさんの予備装備である、対物スナイパーライフルで狙いを定めて撃つ。


 基本的に戦艦とArcheではArcheの方が有利だ、戦艦の主砲や副砲は直撃させることは難しく、地球での戦いと違って地面もないので爆風を当てることもできない、そもそも地球の戦艦が対地攻撃で歩兵を狙う場合は、着弾による爆破でダメージを与える面攻撃だ。


 一方Archeは機銃の死角や後方に陣取ったり、機銃を破壊することで簡単に取り付けるのでかなり有利になる、さすがに中型艦以上を堕とすには火力武器が必要になるが、逆に言えば持ってさえいるなら問題ないと言える。実際アイはこの理屈で戦艦を一隻撃墜している。


 ただそれは敵の戦艦にArcheが居ない場合の話だ、戦艦にArcheが待機して護衛している場合、この理屈は逆転する。理由は戦艦のRKSシールドにあり、戦艦を攻撃する側の射撃はシールドで阻まれるのに、戦艦側からは普通に射撃できる、むしろ誤差の範疇ではあるけど弾の速度が加速さえする。それにRKSを突破する時にはどうしても減速するで、狙い撃ちにできる。


 ならどうやって攻略するか、その手段は色々あるけれど今回敵が使って来た手は数による攻撃だ、数人の犠牲を覚悟に突撃して一人でもシールドを抜けれればArcheを食い止めることができ、そのスキに後続がシールドを破壊していく。この作戦のネックはどうしても犠牲が出ることなのだが、相手はなりふり構っていられないんだろう。


「やるぞ!」

「はい!」

 射程距離6000mに入ったタイミングで、2人ほぼ同時にライフルを撃つ、宇宙空間では弾の減速も空気や重力に依るズレもなく弾は一直線に飛んでいく、なので標準を合わせて撃つだけだから命中率はかなり高い。


「まず2人!」

「装填急げ!」

 ヤタさんに言われるまでもなく急いでライフルの弾を装填する、ライフルの装填速度はやっぱりヤタさんの方が圧倒的に早い、ただスコープを覗いて射撃補正を使わずに撃つ分、狙いを定める速度は自分のほうが早いらしく二射目もほぼ2人同時に発砲する。


「これで4人…」

 一発撃つごとに1,000mは近づかれる、残り5,000mで残りは7人、ペースとしては十分に間に合いそうだ。


 しかし三発目、ここで敵に動きがある、最後尾に居たArcheが沈黙した味方のArcheを盾にして俺の撃った弾は防がれる、ヤタさんの弾は命中し相手を沈黙させたけど、アイツはどうやって撃てばいいんだ…!?


「嘘だろっ…!?」

「そいつは置いとけ、他のやつを狙うぞ!」

「っ…はい!」

 狙いを定めて四発目、最後尾にいる味方の盾を使ってないやつを使い2人撃墜、これで残り4人となり、残り3,000m距離だけ見るなら余裕はある。


 しかし次に再びスコープを除けば味方の盾を使っているのは3人になっている、コレはマズイかも知れない、後一人しか倒せない。

「スノウ、一度待機してくれ」

 ヤタさんが肉の盾を持ってない一人を攻撃し、沈黙させる。


 思えば味方を盾にする行為は精神的にハードルが高く、戦闘中でも思い切ってやれる人間は少ない、だがノルドが安々とやってみせたようにエッダの中では浸透している行為なんだろうか、それともヤラなきゃ死ぬという恐怖心がそうさせているのか。


 多分自分には一生できないんだろうな。


「スノウ、一番右のヤツの右肩を狙えるか?」

「本隊ですか?」

「盾の方で頼む」


 ヤタさんの指示のもと、一番右から飛んでくるArcheが持つ肉盾の肩口を狙い撃つ、すると反動で相手は横を向いて本隊があらわになり、そこをヤタさんが狙い撃って仕留める、なるほど、一人を2人撃てば可能なのか。


「次弾装填急げ」

「はい!」

 位相で次の弾を込める、残り1,000mしかなく、一人は突撃されそうだ。


「次、一番左の左肩」

「了解!」

 同じようにして左の敵も沈黙させる、これで残り一人、時弾装填間に合うか?


 ここで戦艦のRKSシールドに相手が接触して動きが止まるのを、目視でも確認できるようになる、かなりの速度で突撃してきたこともあり、早くRKSシールドを突破できそうだが、こっちも装填が完了して発砲準備が間に合う。


「撃て! 右肩!」

「はい!」

 最後の一人を急いで撃ち、バランスを崩させる…だがここで更に予定外の出来事が起きる、相手が大盾を装備しており、肉盾を着弾直前で離した上で盾でヤタさんの攻撃も防ぎきってカタパルトに着地してきた。


 急いでスナイパーライフルからいつものエネルギーライフルに持ち替えて、チャージを始める、相手は大盾を持ちながらコチラへ構えてジリジリと距離を詰めてくる。


 ここでアイの四発目のレールガンが発射され、四基目のブースターも破壊される、残りのブースターは二基、もう既に機動力はかなり失われて旋回速度も亀のように鈍くなっており、残りのレールガンを撃つ時間はもう十二分に確保できているだろう。


 ならば残る問題はこの侵入してきた敵Arche一機だ、突入してきた手口からして熟練の戦士だとは思うが、エースではなさそうだ、気になるのはその大盾はベッグさんが率いるパンゲア第二艦隊所属部隊が持つシールドに酷似している…というよりも色を深緑から赤に塗り替えただけの全く同一品だということで、いったいどうしてエッダの人間が持っているのだろう? 思いつくのはパンゲアからの移籍だけど。


「ハッ! ハハハハハハハ! やぁっと会えたな! スノウ! それにアイ!」

「うん?」

 顔が見えずによくわからないが知り合いみたいだ、一体誰だろう。


「…お前は…?」

「あぁ! そうだよ俺だ…俺だよ!」

 うーん、オレオレ詐欺みたいに言われても顔も見えなくて誰かわからない。


「いや、顔が見えないんで」

「おっと…そりゃあ盾が邪魔でわかんねぇか…俺だよ」

 そう言って盾の上から相手は顔をだす………いやだれだ? 見覚えだけはあるから、どっかで見たのは確かなんだろうけど、思い出せない。


「忘れたとは言わせねぇぞ?」

 ごめん、忘れました。


 その瞬間だ、ヤタさんが容赦なくライフルで顔面を狙って発砲する、さすがヤタさん空気は読まないし容赦もない、読む必要はないんで撃っちゃっていいですけど。


 咄嗟に頭を盾の内側に引っ込めたために相手に直撃はしなかったが、ヘルメットの丸い部分には命中し、少しだけ相手のヘルメットが損傷して破片が宇宙に舞っている、惜しい、もうちょっとで倒せたのに。


「おい! 容赦ねぇな!?」

「…なぜ容赦する必要がある?」

「………それもそうだけどよ、こう、あるだろ?」

「わからん」


 ヤタさんは本当に心の底からわからないんだろう、戦争ではスキを見せたりする方が悪いし、会話に見せかけて不意打ちだってしてくるから当然の反応だ。


「………ったくよー、これだからお前らは…けど嬉しいぜ、やっと会えたんだからな、待ってたんだぜ俺は、お前らに再会するこの日をな」


 どうやら相手はコチラ側に執着してるようだ、それでも誰か思い出せない、このまま知らずに戦って良いんだけど、モヤモヤするのでここは申し訳ないけど勇気をもって聞くことにしよう。


「その前にひとつだけどいい?」

「なんだ、言ってみろよ」

「お前…だれ?」


 返事が帰ってこず長い沈黙が流れる、相手は盾の裏にいるので手出ししにくいから様子を見ることしかできないが、この空気は敵相手なのになんか気まずいぞ。


「おまえ…マジか………」


そんな空気の中、相手から返ってきた声は、かなり意気消沈していた。

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