転進。

 パンゲアと鬼は相手の行動次第で戦いを変える方針になった。


 これには理由があり、パンゲアはアメリカさんが負傷したことで残る戦闘可能なエースは3人、鬼は大半が負傷してエースが2人しか残っていないらしい、残るエースは自分達2人の合計7人とノルドに残ってると思われる残り2人のエースよりも圧倒的に数は多い、しかし迫る獅子座やシーズンの変わる次の牡牛座に備えてこれ以上被害をだしたくはない。


 もう一つの戦場ではリヒトさん達が戦っており、コロニーと戦闘を交戦中だが順調…というよりも、相手は本腰じゃないらしく軽く牽制しかしてこないらしい。どうやらあちらは陽動で戦力の分散が目的なんだろう、もしくは最初からエッダは捨て駒で、万一攻略できれば儲けもの、程度の考えだったのかも知れない。


 実際こちらにはコロニー側らしき兵力は一切援軍に来ておらず、量産型のドローンが提供された程度だ。


 膠着状態から6時間、休憩をしていたところに艦内に緊急放送が流れる。

「エッダが行動を開始、パイロットは格納庫で待機ねっ!」

 言われるがままに個室から通路に出て格納庫に入る、今回は自分が一番のりで続いてヤタさん、そしてアイが入ってくる。


「アイ、パス」

 ヘルメット置き場から自分とアイのヘルメットを取り出してアイに手渡して自分のArcheを確認する、燃料は充填されているし損傷は…アイにアンカーフックで壊された腰パーツだけだ。


「スノウ、そこのパーツは普段使ってないから換えがない、残念だが装甲だけは付けといたんで我慢してくれ」

「了解です」


 どうせ使ってなかった武器ストックだから問題もないし、見た目的にも違和感がないのだけど、全開唯一傷ついた箇所が味方の、しかもアイから受けたモノなのが少し笑えてくる。


「………かんにんな?」

 アイの方を見たら片手を顔の前に垂直に立ててウインクをされた。

「いや、必要だったし怒ってないよ」

 正直あの状況だと倒すことができた決定打になったんだから怒る気はなかった、ただちょっと…いや、めちゃくちゃあの場では焦ったけど。


「アイ、お前の機体だがバックパックに損傷が軽くあったが装甲の交換だけで済んだ、身体が大丈夫なら問題なく出撃できる」

「大丈夫や、痛みとかも残ってへんで」


「ヤタは銃弾の補充だけだ、言うことはない」

「あぁ」

 二人のArcheの確認も終わり、粗着してハッチ下で待機する。


「現在エッダに動きがあったよ中型艦が大型艦前方に集中、ソレとともに艦砲射撃を開始、大型艦を守りつつ艦砲射撃でダメージを与える作戦に見える…んだけどね~、アイちゃん元エッダでトップの性格を考えてどう思う?」


「絶対逃げるで、多分やけど中型艦には攻勢に打って出るから援護頼むとかムシのええこと言っといて本隊は囮にして逃げる気満々のやつや」

「とのことです」


 アイが絶対とまで断言している情報はパンゲアと鬼にも伝え、パンゲアはともかく鬼は半信半疑だったが、一応備えることになった、断言したとは言えあくまで予測なので一応だ。


 それから30分ほどして、エッダの大型艦が180度横に旋回し始める。

「ほれみたことかぁ!!」

 アイが思いっきり叫び、パンゲア第三艦キシャルの艦長マエルがすかさず揺さぶりと投降を促すための通信を入れる。


「エッダの中型艦に告ぐ、これより進路を妨害しないのなら投降を認める、これがラストチャンスだ、そちらの旗艦は撤退しようとしている、もし盾になって死にたくないヤツがいたら道を開けろ」


 それと同時にキシャルは鬼の旗艦であるイブキの隣に並んで、RKSを最大出力で展開して周囲の盾になる。


 ここで撤退した艦は30機中2機だった、残りは腹を括ったのか応戦を決めた。

「まったく、無駄に命を…」

「拙者達にはわかる…たとえ捨て駒にされようとも義理を通そうとする気概は」

「そういうもんかねぇ…ま、俺も最初から頼まれたらやるか…」


 マエルと鬼の艦長…立花たちばなさんと言うのだけど、立花たちばなさんはその様子を見て思うところがあるのか艦長同士の通信で話し合う、現在パンゲアとオモイカネ、それと鬼の艦長で通信を開いており、それをイチゴさんが垂れ流してくれているのだ。


 大型艦、それも攻撃艦の艦砲射撃を中型艦ではそう長く耐えれるものではない、特に至近距離になれば耐えれる時間はますます短くなるだろう、キシャルを戦闘にパンゲアと鬼の大型艦は侵攻を開始する。

 オモイカネの位置はキシャルの下部でいつでも動けるように待機だ。


 さて、こうなってくると無理やりにでも中型艦を破壊したいところだが、流石にそんなに一気に破壊する手段はない、時間をかければ破壊するだけなら戦力差が大きいので可能だが、それではエッダの旗艦エイリークに逃げられてしまうだろう。


「おいおい、逃げられるぞ、強行突破でもするか?」

「拙者は構わんが?」

「…冗談を言った俺が悪かった」


 さすがにいくら脳筋とリヒトさんから評価をもらってる『鬼』でも、ここで特攻はしないだろうと思いたいが、彼らは確実に敵の首を取れる状況なら多少の犠牲もやむ無しというポリシーなので、やりかねない。


「ならば代案は?」

「無いことも無いぜ?」

「ほう、聞かせて貰おう」

「そこに特攻が得意なPMCはいるだろ?」


 鬼とパンゲアの話題に出てくる特攻が得意なPMCはどう考えてウチの会社だ、会社としての評価としてどうかと思う部分もあるけど、事実なんでしょうがない。


「いやいやいや無理だからね!?」

 しかし、ミーティングではこういう場合のみ仕事があると言っていたイチゴさんはここで意外にも特攻を否定する、正直脊髄反射でYESと言いそうなイメージが合ったんだけど、多少は理性が残っていたみたいだ。


「へぇ…無理と来たか、いつもらしくないじゃないかレディ、理由を聞いても?」

「それは中型艦隊を抜けるのが不可能…という意味で相違なかろうか?」

 両者から同時に質問が飛んでくる、それぞれ聞きたい直接の内容は違うけれど意図はどうして出撃できないかを聞きたい。


「とりあえず鬼の方相違あるかな~、突破して大型艦に接近するだけなら…簡単にやってみせてあげちゃうよ?」

 イチゴさんは事も無げに鬼の方の質問を否定する、多少見栄は入っているだろうけど、実際この艦の性能とイチゴさんの操舵テクニックなら、成功率はかなり高い。


「あぁ、それで理解したよレディ、決定打か」

「そう、私達単体で取り付いて決定打がないの、数分ぐらいなら足止めはできちゃいそうなんだけど…相手エース二人いるよね、しかも大物が」

「いるな、ルシダスとヨーランのコンビが」

「残念だけどウチだけじゃ勝てないかな~」


 妥当な判断だと思う、アイは1年程実戦を積んだ上で大物を撃破したれっきとしたエースといっていいけど、自分はまわの助力や偶然によってたまたまエースを撃破しただけの、未熟者でノルドの時だって最後以外役になっていなかったし、起点を効かせてくれたのはアイやパンゲアのお二人で、自分で作戦の提案もしていない。


 世間では歴代最短でエースになっただのなんだのと、天才とメディアは騒ぎ立てているけど、実際はまだ新兵に毛が生えたようなもので、死ぬほど背伸びをしているだけ、正直アメリアさんやアニーさんにベッグさん、今まで見てきたパンゲアのエースと比べると足手まといにならないようにするので必死だ。


「だったら良い手があるぜ」

「どんな手?」

「そっちの戦艦に、ウチのエース全員詰め込めば良いんだよ」

「ふむ…乗った、当艦の二人も乗せて貰おうか」

「あ~…もう了承します、40秒だけ待ちますので乗艦を」


 問題を解決するためにエースを大量に預けるとまで言われ、イチゴさんは折れて乗艦を許可するのだった。

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