ミーティング。(4)

「スノウ、それとアイ只今戻りました」

「おかえり~、長かったね…ってどしたの」


 硬直したままのアイを母艦へ連れ帰り、ロボットアームにアイと自分のArcheの解除命令を出す、動かなくなったけどほんと大人しくしてればカワイイんだけどな、とつくづく思う、中身はじゃじゃ馬だけど。


「ちょっとケームさんにからかわれて」

「あ~ね、ホントアイって弱いよねその辺」

「暫くしたら回復するんで連れてきますね」

「は~い、談話室で待ってる」


「アイ行くよ?」

 ロボットアームで宇宙服姿になったアイの手を引っ張る、とりあえず大人しく着いてきてくれるけど、このままじゃ報告に支障が出そうだ。


「アイー? そろそろ正気に戻って」

 アイ顔の前で、ケームさんがしたように手を振ると、アイは俺の手を両手で掴む。

「アイ?」

「ちゃうねん」

 ふにふにとアイは掴んだ俺の手のひらを揉むように触ってくる。


「…落ち着いた」

「…うん」

「行こっか」


 よくわからないけど、とりあえず喋れるようにまで回復したので談話室に連れて行く、そこではオモイカネのメンバーの残り三人が揃っていて、机の上にホログラムで表示させた三次元レーダーを見ながら相談している様子だ。


「お疲れさまです」

「あ、二人とおかえり~」

「会議ですか?」

「うん、でも先シャワー浴びてきてもいいけど…うんシャワーかな先行っておいで」


 そう促されるとアイを先にシャワー室へ送る、あのシャワー室は最大二人まで同時にシャワーを浴びれるのだが、さすがにアイと一緒にシャワーを浴びて変な気を起こさない自信は一切ないので、シャワー室で待ってる間に飲み物を作らせてもらう、小腹も空いてきてるので軽食はしっとりタイプの宇宙空間で粉が散らない様に改良されたクッキーが良いだろう、チョコチップ入りだ。


「次の作戦の会議ですか?」

「うん、次の会議」

 レーダーにはこの中域の地図が映っている、現在お互い膠着状態で睨み合ったまま攻撃は来ていない、恐らく向こうでも作戦会議をしてることだろう。


「…敵の数だいぶ減ってますね」

「うん、マエルがノルドの鹵獲と、潜入部隊の全滅を相手側全艦に通達して、中型艦以下の艦に恩赦を与える代わりに武装蜂起して投降を呼びかけたら、結構効果あったの、やっぱり潜入部隊が両方とも失敗したのが大きかったんじゃないかな~」


 確かに、相手側の勝ち筋はコルキスを占領又は破壊することだろう、それが失敗した今勝ち筋はかなり低く、撤退を視野に入れなければいけない頃合いだ。


「撤退してきますかね?」

「もし撤退されても逃さないけどね、特に鬼が」

 そりゃそうだろう、鬼は今回一番被害を被ったと言っても過言ではない、今回の戦いで一番会社としてダメージを負った被害者は鬼なのだ。


「シャワー浴びたでー」

 シャワーを浴び終わり代わりの対G宇宙服を着たアイが、ドライヤーをかけながらシャワー室から出てくる。

「おかえり、ドリンク作ってあるから取っといて」

 そう言って調理場を指差しながら今度は自分もシャワー室へ入る。


 さて、宇宙空間には重力がないので水は流れない、月ならシャワーじたいに方向性をもたせることで辛うじて浴びることが出来るけれど、ここでは無理だ。


 ではどうするかと言うと、基本的には薬剤を染み込ませたタオルで体を拭くので熱いシャワーなんかは浴びることは基本的にはできない、昔はそういう試みもあったのだが、シャワーを浴びること自体は可能だったか、1時間かけて水滴を丁寧に取り除く必要があって次第に使われなくなった。


 現在は衛生タオルを使って、水分を含ませて拭くとシャワーを浴びたぐらい綺麗になる、これで体や顔の部分のケアはオーケー。


 次に髪の毛だけど、他の宇宙ステーションや宇宙船では髪をたっぷり水を含ませてからシャンプーやリンスで洗って水気を拭き取る、けどここは特殊な装置がイチゴさんが欲しがったから搭載されている。


 まず、プラスチックでできた透明な半円状のカプセルに髪の毛が全部入るように被せる、この時後頭部も隠れるように斜めに装着するのが肝心で、その後スイッチを入れるとゴムがカプセルの縁を埋めて密閉し、大量の水流と薬品で髪の毛を全自動で洗ってくれる、その後温風で水分を吹き飛ばしながら乾かしてくれると自動で解除されて、シャワーの完了というわけだ。


「…やっぱめちゃくちゃになるよな」

 これの欠点は完全には水分を吸収しきれないことと、髪の毛自体はもみくちゃにされてるようなものなので、まるで寝癖がひどい時の朝みたいに髪の毛が乱れる。


 乾燥しきってないのは、乾燥しきるまで温めると髪の毛が縮れるのもあるが、湿らせることでその後髪の毛をクシで整えるのを楽にするためだ、その後ドライヤーを使って乾かす。


「あがりました」

「おかえり~」

 シャワー室から出て調理場に用意しておいた自分用のドリンクを取り、皆が居るテーブル付近へと移動する。


「それじゃあ会議だけど、正直色んなパターンを考えたけど~、私達が対処するのって結局相手が撤退した場合ぐらいっぽいんだよね」


 状況としては相手は当初の戦力が既に三分の一程度まで低下しているが、後から着いてきた戦艦も含めて中型から小型が30隻、それと大型艦が一隻。


 ソレに対してこちらの戦力は大型艦が鬼とパンゲア含めて4隻もあり、更に中小の傭兵会社も残っていて、代償合わせて数は60隻ほど。


「こんなもん、もう勝ちやろ? 降伏勧告はしたん?」

「鬼が何回かしたらしいんだけど、拒否されたんだって」

「なんでや」


「そりゃそうだろ、降伏してもエッダの上位陣はどう考えても死刑だぞ、どうせ死ぬなら抵抗するか逃げるかの二択だろ」

「…せやったわ」


 クガさんの言う通り、エッダの上位陣は裏切った時点で戦争犯罪者の烙印を押されその時点で死刑が確定する、これは凶悪犯罪と同じでその場で制圧する時に殺すことになっても仕方がない。


 ちなみに敵前逃亡は死罪という言葉が独り歩きしているが、死罪になることは実際少なく後で捕らえられて普通に刑罰を裁判で受ける、国によっては死罪や懲罰部隊行きになることもあるが、少なくとも傭兵会社では自己判断の撤退が認められているので、罪になること自体が難しい。


「これで抵抗された場合なんだけど、艦隊戦がメインになるよね、だったら正直ウチは手出ししにくくなっちゃう」

 この艦は度重なる特攻をしてるので、戦艦の中でも突撃艦…いや特攻艦か? と思われてるが、基本的にはただの小型艦に離発着設備がついているだけなので、実は攻撃力自体は大した事がない、なんなら防御性能と機動力に重きを置いている。


「艦砲射撃で交戦されるとな~んもできないよ、ウチ」

 なので砲撃戦をされると、ボーッと見ていることしかできない、相手側のドローンがいくつ残っているかもわからないが、最初に大量に奮発していたのでそう残りも多くはないだろう、やることと言ったらもしArcheが出てきた時に相手するだけだ。


「せやったら撤退してきたらどうなん?」

「そっちはお仕事沢山あるよ~、まず大型艦は間違いなく足止めされるだろうから、その間を潜って、追いかけて大型艦を止めなきゃいけないから」


「なるほど、そうなってくれた方がウチらとしては美味しいんやね」

「そうかな~、撤退戦のほうがこっちも被害少なくなるし…逃げられた場合が一番困るからソレだけは阻止しないとね」

「それに、一番上にも、わからせてやらへんとね」

「だね」

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