ボロ負け。

 結果から言うと完膚なき程にボロ負けだった、どうしようもなかった。


 最初は直進して来たので迎撃したくなるのをグッと堪えたら、剣の範囲の手前で一旦動きを緩やかにしたのでフェインとにかからなかったぞ、と思っていたら次の瞬間目の前にいた、ジャブを繰り出されたので剣で受けてバックステップしたら、何故かバックステップに追いつかれてボディーブローを受けた。


 一発良いのを貰ったら一旦距離歩いて距離を取ってくれてから仕切り直してくれるので、ある程度は試合形式を取ってくれるのがわかる。


 次は同じく近づいてきたので今回は素直に剣を縦に振ってみたら簡単にかわされて横っ腹に蹴りを入れられ、今度は横ぶりをしてみたら普通に見切られてから接近されてボディーブロー。


 あれよあれよと10本取られたが、その中でも一番怖かったのは、こっちから手を出したら間違いなくヤラれるとわかったので様子を見ていたら笑顔のまま自然体で歩いてきて、壁まで後ずさりしたら壁ドンされてから横っ腹をビンタするかのように叩かれた時、その際「あほか、流石に足でも柄でもええから牽制しな」と言われた。


 最終的にはちょっと真面目にやると言われ、突進してきてフェイントに引っかかっり武器を振った際に手首を掴まれて逆にゴム製レーヴァテインでフルスイングされてノックアウトした。


「ま、まあ予想以上に容赦がなかったがこんなもんだ」

「は…はい」

 真っ白な天上が綺麗だ、ここにきてこの景色を見るのは何度目なんだろうな。

「あれやで、逆にうちは射撃はからっきしなんやから気にしたら負けやで」


「うん…」

 悔しいのだが、実力の差はしょうがないし、そもそもアイは同じ得物をもったクガさん相手にも攻撃を入れれてたし、今の俺が防ぎきれるわけもなかったのだ、むしろ実力の差がわかっただけ、よかった。


「というかアイ」

「なんやー?」

「なんで今まで近接武器アレしか積んでなかったんだ…?」


 クガさんが素朴な疑問を投げかける、言われてみたら確かにそうだ、今までアイが装備していたのは右手にあるロマン武器ペインハンマーだけだ、確かにパンチして衝撃を与える杭を発射する攻撃で、杭を出したまま殴れはするけど最適だったとは思わない、パンチをブーストする近接武器ならエネルギーブレード生成するトンファー型の武器とか色々あったはずだ。


「そらアレや、相手するんってほぼドローンやったから」

「なるほどな」


 ドローンというのは基本的にする、そう言われるまでに自爆型が多い、なぜならドローン自体のコストがやすいのもあるが、オート操縦やAI操縦だと機体Archeがを認識して射撃したりはできても、予測射撃はほぼ不可能、それよりも敵機体を認識して接触したら即爆発するほうがダメージの期待値がいいのだ、宇宙空間では爆発に依る破片も空気抵抗がなくどこまでも広がる。


 そんな物騒な物体を素手で殴れるか? 無理だ、なんなら槍などの長めの近接武器でさえ武器に負荷がかかるし最悪弾き飛ばされたり、積んでる爆発物の量が多ければ機体に被害だって受ける可能性がある。


「上位PMCにフリーで雇ってもろて、戦線出してもらったんやけど、相手のArcheとか出てきたらな、手柄を万が一フリーに取られるのが嫌やって感じで下げられんねん、んでムカつくから戦艦前行ってぶっ壊したら解雇されてん、ひどない?」


「はは、まあまあ」

 不満を垂れ流すアイに苦笑いをする。


「あれやで、命令も雑やねん、戦艦固まってる部分に「行って来い」ってだけわれて、面倒なドローン掃討だけやらされんねん、危険な戦艦固まってるとこにやで?」


 戦艦が集まっている危険だ、艦砲射撃もそうだが機銃やRKSシールド、機雷が撒かれている危険地帯であり、そんな危険地帯のケアにだけアイみたいな雇われ傭兵を使っていたんだろう。


「ほんで、歩合やって言うても稼げるんは少ないし「うちより稼げるトコはないよ」って平気で嘘ついてくるんやで…そんでドローンだけヤレっても言われてへんから戦艦壊してん、そしたら勝手なことするな言うてきたらか歩合の報酬だけもろってトンズラやわ」


 かなり不満が溜まってたんだろう、一度言い始めるとツラツラと前の会社の愚痴を垂れ流しだした、細かいところからセクハラまで思いつく限りだ。


「そんでさ、今更正社員で雇うから戻ってきてくれとか舐めてると思わへん?」

「ん、ってことは」

「せやで、あっこやで」


 そう言えばアイの口から前所属していた民間傭兵会社PMCの名前は聞いたことが無い、別に秘密にされていたわけでもないけど、話す機会がなかったからだ、恐らくはオモイカネに所属する時に出した履歴書には普通に記載されてたんじゃないかな。


「エッダ?」

「そうやで」

 それでエッダの話が出る時不機嫌そうだったり、話に入ってきたがらないのか。


「しょうみなぁ、エッダが戦略的に残って貰わんと困るんはわかるんやけど、個人的な感情だけ言うんやったらめっちゃ痛い目におうて欲しいんよ」

 目を細めながらヤレヤレといった感じで軽口を言うようにして誤魔化しているけれど、多分冗談ではなく本心で言っている。


「…未確認情報だけど、それ叶っちゃうかも」

 ふと、気になる言葉をイチゴさんが発して、自分を含めて残り三人が一斉にイチゴんの方を向く、イチゴさんは珍しく冷や汗を流しながら、自身のスマホとにらめっこしつつ仕切りに操作を繰り返している。


 口元には若干笑みのようなものが見られるけど、これは嬉しいとか楽しいとかの笑みではなく、明らかに口元が引きつっているから広角が上がって笑ってるように見えるだけだ、その証拠に目には焦りの色を浮かべクガさんが「どうした?」と聞いても「待ってね」と短くしか返さない程必死だ。


 Prrrrrr! Prrrrrr! Prrrrrr!


 次の瞬間、イチゴさんのポケットから着信音が響き渡る、イチゴさんは通話しながらもスマホを弄れるように、常に通話用と情報用、そして趣味用の三台のスマートフォンを持ち歩いている。


「リヒトさんからだ」

 イチゴさんが短く、着信音を鳴らした相手を伝え即座に通話に出る。


「イチゴです、リヒトさん?」

「はい、そうです」

「こっちも今速報を見て、それから情報網で確認を」

「はい」

「でも……いえ、わかりました」


「じゃあ細かい計画は後で」

「…任せます、けど出し惜しみはなしで」

「はい、ではまた」

 切迫した表情と口調で通話をして、最低限の話だけをして通話が終わる。


「とりあえず先に指示を出します、休暇は今を持って終わり、クガ、晩御飯はキャンセルしといて、アイは車の運転、捕まらない程度に急いで」


 通話が終わると直様イチゴさんは指示を出しながらスマホをもって部屋を出る、クガさんは今日のレストランへの予約をキャンセルする電話をかけながらイチゴさんを追いかけ、アイはボロボロになった自分を無理やり引っ張りながら外へ出る。


 戦艦に戻る車中でもイチゴさんは慌ただしく、今度はヤタさんに電話をする。

「もしもしヤタ、緊急事態だから即時実行してね、オモイカネの燃料を即時全補給してコンテナにも予備燃料を補充しておいて、それが終わったらエンジンをアイドリング状態にしておいて暖めておいて」


 電話を切るとイチゴさんは一呼吸入れて一瞬考えて次はクガさんに。

「ワダツミ最終メンテナンスはいつ?」

「昨日だ、問題はなしいつでも出せるようにしてある」

「さっすが」

 ここで始めてイチゴさんの表情から安堵の色が伺える。


「そろそろ落ち着いたか?」

「うん」

「何があったか頼む」

「そうだね、えっと、まずは簡潔に言うね


 車内に衝撃が走る、運転してたアイも声を上げて驚いていたが、運転自体に影響は出てなくて良かったが、クガさんが大きな舌打ちをしたのが聞こえた。

「詳しくは出てるか?」

「収集中、詳しくは二度手間になるからヤタがいる艦内で」

「わかった」

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