緊急発進。
「ただいま! ヤタ準備は!」
イチゴさんが叫びながら艦内に入り、まずは自室に入っていく、対G仕様の宇宙服に着替えるためで、あとに続く自分達もそれぞれ着替えに自室に入る。
「言われたことは出来てる、チェックリストはソッチで頼む」
ヤタさんが艦内方法で先程のアイさんの質問に答えている。
廊下でアイと合流しブリッジに行くと既にクガさんは待機している、自分達も適当な席に座り少し待ってからイチゴさんがやってくる。
「お待たせ、チェックリストするよ」
クガさんと二人で離陸準備から離陸前チェックリストを二人で丁寧にこなしていく、ここで手を抜いて落ちた航空機や宇宙船は数しれず、どんなに急いでいるとしても丁寧に時間をかけてやらなければいけない、でないとフラップを出し忘れたり、水平器がキチンと起動しなくて墜落するかも知れない、実際そういう事故があった。
「ヨトゥン級 戦艦ワダツミ、発進!」
「発進了解」
丁寧に、それでいて手早くチェックリストを終え管制に許可を取ると発進する、およそ1時間ぐらいで安定航路に入ると、自動運転に切り替えてイチゴさんはシートベルトを外して立ち上がり声をかける。
「みんな、談話室に来て」
言われるがままに全員談話室に入る、皆表情は緊張しており、これからアイが説明する内容に意識を集中させていた。
「改めて、現時点で第三位のPMC「エッダ」が敗北しました」
沈黙が流れる、痛い目にあって欲しいという願望を言っていたアイも、壊滅まではして欲しくなかったようで複雑な表情をしている。
「こっからはリヒトさんと情報網から収集してる情報で、裏取りはしてないけど共通してるから信憑性はあるって判断するから話すね」
イチゴさんはスマホを操作してモニターにニュース映像を流す。
「速報を流したのは大手ウェブニュース会社、それからテレビ局もこぞって放送してるんだけど、届いてる映像は報道規制がかかってるっぽくてひとつだけなの、でもコレって多分随伴してた報道カメラマンからの中継だと思う」
ニュースで流れているのはかなりいいカメラで撮影された映像で、内容は大型艦が二隻並んで小さな爆発を起こしながら分解していく様子だ。
「防衛艦ヴィンランドと攻撃艦イーヴァルか、これ」
「うん、照会してるけど間違って無いと思う」
エッダは二隻の大型艦を中心に大量の中型艦で相手を包囲して進軍する戦法を得意としている、大型艦の数自体は上記の二隻の他にもう一隻あって合計三隻とパンゲアの半分も所持していないけど、中型艦の数はその分かなり多くてArcheの所持数は全PMCで最多だと言われている、これは一時的に雇った兵士も数に含まれるから。
数を活かしてコロニーや敵小惑星基地全体、可能なら相手船団すら包囲してしまい、完全な殲滅を試みる包囲殲滅を得意としていた、今まで黄道十二門に属するような巨大コロニー相手には今まで実行していなかったが、小規模のコロニーや小惑星基地なんかに対する戦績は眼を見張るものがある。
「…他は?」
「追撃を受けて撤退、でも統率なんて取れてないからかなり被害が」
「おい、旗艦まで破壊されたのか?」
旗名はエイリーク、汎用艦でバランスがいい、各艦に指示をしているはずだ。
「わかんない、でも撃墜したって報告は受けてないよ」
「おい…」
クガさんが頭を抱えて天を仰いでる、この先どうしていいか問題が一気に山積みになったし、どこから手を入れていいものかわからず途方にくれているんだろうな。
「鬼の方はどうなったん?」
『鬼-ONI-』は自分達が2位になったことで、四位に下がってしまった
「そっちは連絡が直接取れたって、エッダの残党と他の傭兵会社を率いて撤退中」
「被害は」
「大した事無いって、鬼が言うにはエッダがいつも通り包囲してそのサポートしながら戦ってたんだけど、攻略が難航してた急に突撃しちゃったんだって」
「それでこの有様か…今がどういう時期か…いやいい」
クガさんが溜息をつきながら落ち着くために水を口に含む。
「それで、これからどこへ、まさか戦線に参加しないだろうな」
「しない、さっすがにわかってる負け戦に加勢には行かないよ?」
黙ってしまったクガさんの代わりにヤタさんが次の質問をする。
「私達の目的地は軍事衛星コルキス」
「なるほど、そっちの防衛戦か」
軍事衛星コルキスは現時点での座標が牡羊座と地球の間にある地球所属の資源小惑星採掘を兼ねている軍事基地で、全長100㎞程がある小惑星を数カ国で共同採掘をしている、宇宙に漂う無数の小惑星の一つを確保して作った人工の衛生だ。
「もう来てるん?」
「ううん、まだなんだけど、これから襲われるって予測されてるの」
「ほな、取られんように踏ん張るってわけやな」
「そうなるね~…どのくらい来るかはまだ、わかんないけど」
敵を倒したなら次に狙うのは侵攻だ、途中にある軍事拠点を制圧するのもいいし、資源衛星を破壊や強奪するのもいい、この前みたいに農業コロニーを破壊したり略奪するのだって効果的だろう、そうならない為にあった前線が破壊されたのだから。
「結局やることはエッダの尻拭いか」
落ち着いた様子のクガさんが再びアイに質問を投げかける。
「だよ、でもやらなきゃマズイ事になるし、パンゲアの主戦力は軍事拠点の方に向かってるよ」
「こっちの戦力はどんなもんだ?」
「パンゲアからも戦力は様子を見つつ出すって、とりあえず大型艦二隻分の戦力だけは確約させたけど足りるかな」
「…状況をみたら上出来だな、どう考えても本命は軍事拠点だろ」
「そうなるかな、今の時期一番近い軍事衛星は2つあるし、どっちがやられても次は月に一気に近づかれるし、次の双子座はコロニー戦どころじゃなくなっちゃう」
「どうしても戦力分散されるか」
「うん、正直五位以下のPMCも結構コロニー戦に参加しちゃってたからソッチの被害も心配なんだよね、他にも壊滅してるかも~って思うとね…」
少し明るい様な口では軽く言って、場の空気の重さを少しは和らげようとしてくれているけれど、表情が硬いままでこの沈んだ空気を回復させるには至らない。
「とりあえずだ、何日ぐらいかかる?」
「おもいっきり飛ばして3日かな~…多分相手は追撃しながら攻めてくる筈だから4日から5日はかかると思うし時間的にはまだ余裕があるよ」
「上出来だ」
そう言うとクガさんは席をたって調理場へ向かう。
「とりあえず飯だ、焦っても到着時間はかわらんし、情報もこれ以上は出ないだろ」
「そうだね、もう目ぼしい情報で言ってないのはないかな、わかんないし」
結局正確な情報は現地しかわからないのだ、鬼とまともに連絡を取れないし、その鬼は今通信出来るような余裕がある状況じゃない、後はメディアだけどメディアが正確な情報を伝える保証はないし、戦時中のものはどうしても報道規制がかかる。
「とりあえず、これ以上最悪になっちゃう想定はね、鬼が追撃で壊滅させられることなんだけど、他のPMCと纏まって逃げてるから滅多なことじゃないよ」
「だな、まあ鬼が防衛戦に参加できるかどうかぐらいか、それだと」
クガさんは真顔で調理場で人数分の料理を暖めていて、肉の焼けるいい匂いがしてくる、こういう時は美味しいもの少しでも気を紛らわそうというのがクガさんの考えなので、結構いいものが出てきそうだ、この感じだとステーキだろうか。
「と、言いたい所ですが、私達の想定する最悪をエッダは更新しちゃいました」
情報共有が一段落して、やっと一呼吸れれると溜息をつきながらスマホを覗き込んだイチゴさんが呟く、その目は失望が浮かび、もはや冷や汗すら流しておらず、ゴミや犯罪者を見るかのような目でその情報を見ている。
「…イチゴさん? どないしたん?」
恐る恐るアイがスマホの画面を失礼を承知ながら覗き込んで固まる。
「うせやん………え…」
「マスコミの情報規制の
はぁ、っと大きく息を吐き出しながらイチゴさんは天を見上げ、その最悪な情報を自分の中で呑み込んでいるのがわかる。
「皆さんにとっても言いづらいお知らせです」
一呼吸した後に呆れと失望の混じったトーンで話す声に、その場の全員がツバを飲み込みながら耳を傾ける。
「エッダが地球を裏切りました」
なるほど、確かに言いづらいし、そして想定する最悪を下回ってる。
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