チキンアンドワッフル。

 到着してしまった、チキンアンドワッフルを出すという料理店『チッフル』に。

「いらっしゃいませ、何名様ですか?」

「二名で」

「どうぞコチラへ」

 手稲にウェイトレスへ案内された席は窓際のいい席だ。


「ご注文は如何なさいましょう」

「チキンアンドワッフルを二人分で」

「少々お待ち下さい」


 そうやって運ばれてきたのは、パンケーキぐらいある大きさがある思ったより大きな四等分されたワッフルにフライドチキンが丸々3つ乗っている姿をした料理だ、メイプルシロップとバターとシロップが付いている、小さなサラダもついて結構お得なセットだ。


「へー、これが噂のかー」

 と目をキラキラとさせながらアイが躊躇いもなく、なんとチキンの上からバターとメイプルシロップをかけ始める、正気か?

「え、チキンの上からかけるの?」

「せやで」


 冗談だと思ったけど目の前で実践されてると疑う余地がない、これが自爆テロ紛いな行為なら別だけど、アイの表情を見るにソレもなさそうだ…いやわかってるよ、アイはこういう料理でイタズラとか嫌がらせをするようなヤツじゃ絶対ないって解ってる、解ってるけど理性が理解を拒む。


「どうしたん?」

 手が止まってる俺に対し、既にチキンとワッフルを一緒に食べ始めてるアイが不思議そうに尋ねてきた、別々で食べるんじゃなくて一緒に口に運ぶものなんだ、それ。

「ちょっと驚いただけだよ」


 ここで美味しそうに食べ始めてるアイに対して食べれないと言うわけにもいかず、笑顔を取り繕いながらメープルシロップをかけ始める、ここで思ったのは中途半端にやるよりもこういう時はたっぷりと掛けてしまったほうが色々吹っ切れる。


「あー、確かに知らん勝ったらビビるかも」

「あはは、かもね」

 そう言いながらチキンを一口サイズにフォークで切り、同じく一口サイズに分けたワッフルと一緒に口の中に意を決して運ぶ。


「んっ……ん?」

 まず最初に感じたのはメープルシロップの甘みとワッフルの優しい甘みだ、そして後からくるチキンの衣にあるスパイシーさとちょっとしょっぱいチキン。

「あれ、思ったより美味しいのか?」

「美味しいで、意外と」


 意外と、という辺りアイも多少疑ってはいたようだけど、本当に意外と美味しい、メープルシロップとチキンの塩分が合わさって甘じょっぱい味になって、甘酢のような効果になって思ったよりチキンが油っこく感じない…なんでだ?


「これ、人を選ぶかも知れないけどイケるや」

「うん、ウチもちょっとビックリした」

「甘いパンズのハンバーガーあるじゃん、アレがイケルならいけそう」

「むしろコッチが元祖なんちゃうかな? パンケーキバージョンもあるらしいし」


 なるほど、人を選ぶ味なのは確かだけどアメリカの南部料理では定番になってるらしいからソコまっで変な話でもないと後から気付く、それでもワッフルとフライドチキンの組み合わせは想像つかなかったけど。


「そんで、こっからどうしよっか」

「そうだなぁ、セントラルタワーは前回行ったし、まだ閉まってるよね」

「せやね、今はどこのタワーも閉鎖中らしいで」

 あのテロ攻撃から未だセントラルタワーは修復が完了していないらしく、他のタワーも警戒態勢が続いているため封鎖している。


「ハーイ、ボーイ・アンド・ガール!」

 どこへ行くか食後相談していると、二人の肩が同時に叩かれて驚きながらソッチのほうをみるとアニーさんがいる。


「お疲れ様です、こんなところで何を?」

「オー、食事に決まってマース」

 そりゃそうだ、ここはカフェレストランなんだから食事がメインに違いない。


「なんの相談デース?」

「今からどこ行こうかなって」

「観光ですかー?」

「そうですね」

 んー、とアニーさんは悩んでる素振りを見せる。


「デートなら月面ドライブなんてどうです?」

「市街のドライブなら割と…」

「ノンノン、市街のドライブです」

「あー、月面車のあれ?」

「イッエース!」


 月面車を使うドライブというのはドームの外のドライブを言ってるのだろう。

「ドーム外にも観光スポットありますし、日帰りにちょうどいいですよ」

「詳しくお願いします」

「じゃあ移動しながらにしましょー、お店混んできました」

「ですね」


 そろそろお店がラッシュ時間帯に入って来たらしく慌ただしくなってきたので、アニーさんに詳しく地図と情報、そして月面車のレンタルの仕方を教えてもらいながら、チップを含んだ料金を支払って店を後にする。


「ありがとうございます」

「いえいえー、それと」

 アニーさんが最後に住所とお店の名前が書かれたメモを渡してくる。


「晩御飯は是非ここに来てくださーい」

「わかりました」

「絶対でーす!」

 そう言いながらアニーさんは駆け足で手を振りながらどこかへ行ってしまった。


「なんの店やろ?」

「さあ、でも料理店だから良いんじゃない?」

 晩御飯はと言っていたので、これで料理店じゃなきゃ困るよね、という話をしながらアニーさんが紹介してくれたレンタカー屋に向かう。


 そのレンタカー屋はドームの端っこに位置していて基地と併設してある、前に基地の中で輸送車を借りた時に使ったのと同じレンタカーショップだ。

「へー、ここでも借りれたんや」


 と、言いながら二人で免許を見せて月面車をレンタルする、当然酸素のない宇宙空間に出るので注意事項を受け、宇宙服のレンタルもあると言われたけれど、酸素ボンベだけ予備のをレンタルしておいて、後は二人共Archeに乗る時の宇宙服を着ることにして辞退した。


「この服装で外に出るんって結構恥ずかしいね」

「今更? って程今更じゃないね」


 いつも宇宙服を着て戦場では活動してるし、なんならこの服装で船外にも出るけどその時はArcheを着ている、人前に出ないとは思うけれど、こんなピチピチのタイツのような服装にフルフェイスヘルメットを着て活動するのは中々に恥ずかしい。


「まあ、基地内だと割りとこの格好も多いし…外には人居ないし」

「せ、せやな、うん」

 とは言え、流石に基地内から二人でコートだけ羽織って移動して、月面車に乗ったら脱ぐことにする、月面車には密閉性の高い荷物入れもあるので大丈夫だろう。


 月面車は昔のような車輪と乗るところと、後はフームだけみたいなものではなく、ちゃんと普通の車の様になっている六輪駆動車で、装甲に覆われていて、緊急時には四人が一週間は滞在できるようになっているらしい、ただ流石にそんな事態に今までなったことはないけれど、ある程度の緊急事態対策を搭載することは規則で決まっている。


「結構快適やね」

「だね、もっと揺れると思ってた」

 月面はドーム以外は基本的に舗装されていない、なのでそのままの大地がむき出しになっているし高低差も激しい、しかしこの車なら揺れもあまり感じなくて快適だ。


 2時間ほど走らせた先に、アニーさんが言っていた観光スポットがある。

 その場所は月の永久影になっている場所にあり、なにもない月面をドライブしていると急に人工物が現れたような不思議な錯覚を覚える。


「ここやね」

 月面車を併設してる駐車場に置き、施設の建物内に入る。

「あーあー、いらっしゃい、聞こえますか?」

「はい、聞こえます」


 共用の通信チャネルに事前に合わせておいたお陰で、店内のカウンターにいた人の声がちゃんと聞こえる、カウンターにいたのは宇宙服でわかりにくいけど、中年の男性だ。


「いらっしゃい、どのようなご用件で?」

「ここで見学ができるって聞いたんですけど」

「あぁ、見学か、珍しいね、じゃあ一人30ドルだけど…出せるかい?」


「カード使えますか?」

「あぁ、使えるとも」

「じゃあウチもカードで」

「いや、ここは纏めて払っとくよ」


 いや自分の分はとアイが言う前にとっととカードで二人分纏めて支払って、代わりに記念品になると言われた石でできたメダルを貰う、月の地中にある鉱石が混じった岩石を磨いて出ていて、かなり頑丈で銀色に光っている月のシルエットが掘られた丸い記念メダルだ。


「着いてきてください」

 メダルを受け取ると奥の扉を案内員の人が開き、ボーッとしていたかかりの人を揺らして代わりにカウンターに居るように言って、カウンターの店員さんがこの先を直接案内してくれる。


「本当はさっきのやつが案内するんですけどね、久々の観光客なんで自分が」

「そんなに人が少ないんですか?」

「前は多かったんですけどね…如何せん戦争の影響で今は仕事でしか来客が」

「世知辛い世の中やなぁ」


 進む先は途中途中ライトが付いているだけの深い地下への通路だ、月面の重力なので降りる時頭を打ちそうになる。


「気をつけてください、たまーに観光のお客様が勢いよく降りようとして頭をぶつけちゃって、ヘルメットが破損して大惨事…ということもありましたから」

「うわ、どうなったん?」

「当然死にましたよ」


 案内員さんは苦笑いしてるけど、それ苦笑いで済ませるレベルの惨事じゃないんじゃないかな、と思いながらも案内員さんの注意を受けながら先に進んでいく、途中梯子がある6mぐらいの縦穴があったけれど、地球だと胸ぐらいある高さの段差と変わらないので飛び降りたりしながら、地下のかなり深いところへ進む。


「お疲れ様です、この先が目的地ですよ」

 20分ぐらい移動すると、深い洞窟に似つかわしくない鉄の扉が現れる。

「開いても?」

「どうぞ」


 ドキドキしながらアイと二人で扉を開く、思ったよりも負荷がなく軽い力だけで開いた扉の先には、青く光る神秘的な大空洞が広がっていた。


 空洞の名は、タウルス大空洞。


 地下に1m深さで覆うように水脈が存在するという仮説を真実であると証明した大洞窟だ。

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