第三節・牡羊座
月のファクトリー。
艦の修理が終わらず宇宙ステーションに滞在して一週間が経とうとしてい、これほど修理が長引いている要因としてはパンゲア第一戦艦ヨルズが放った『破産砲』による反動が想像以上に大きかったことが一因とされていて、あの特殊主砲の高エネルギーの固まりに依る放射攻撃の熱により砲身が溶ける。
ただ溶ける事自体は前提に作られており、計算では二発まで修理せずに撃てるはずだったのだが、予想以上の負荷により一発で砲身が溶け、焼け付いたらしい。
「ははは、破産砲のコストで倒産する前に、戦艦が溶けて死ぬ所でしたよ」
そうリヒトさんが笑い話にしていたが、正直笑い事ですまないと思う、なにせあの破産砲は大型艦の三分の一自体が砲身の一部だったので、事故が起きれば第一戦艦自体が吹き飛んでいたことになる。
そんなこんなで修理期間の幅寄せが来て修理の補填が伸びたので、戦艦を牽引して貰って他の宇宙ステーションや基地で修理してもらうかという話も出ていたが、この宇宙ステーションが宿泊費用を一部補填するという事で待つことになった。
こっちの支払う戦艦の修理費用と5人分のスイートルームの代金では、スイートルームの料金のほうが高く、間違いな赤字の筈なんだけれど欲しいのはコロニー制圧に一助したシンボル艦の修理という実績と、エース二人を他の国の管理する宇宙ステーションで接待させて引き抜かれたくない、という政治的な動きがあるだけだから気にしないでいいよ、と言ったのはイチゴさん。
「も~さ、3月10日に月に間に合うなら何でも良いよね」
と、そう言いながらイチゴさんは開き直って贅沢を味わっている。
3月10日にはコロニー制圧に伴うセレモニーが月面の静かな海にある都市で行われる事になる、パレードをして授賞式をして、そしてエースの認定証をそこで渡される事になる等中々に派手な催し物があるらしい。
自分達の機体『
「おはよう御座います」
「おはよう」
そんな感じで毎日をスイートルームをVIPラウンジという遠心力によって発生させている重力のあるエリアで過ごして数日、さすがにパンゲアの人たちとも面識を持ち始めてきた。
「どうだ、調子は」
「そこそこですね、トレーニングして身体も慣れてきたので」
今日最初に顔を合わせたのはパンゲアの一番艦の女性艦長でもあるレベッカさん。
自分よりも高い身長で目つきが悪く威圧感もある金髪の女性だが、話してみると案外いい人なのがわかる。
「そうか、それはいいわね」
「クガさんの訓練はスパルタですけどね」
「ソレぐらいが丁度いいのよ」
「はは、それもそうなんですけどね」
最近してるトレーニングは基礎トレーニングの他に、クガさんから剣術を学んでいる、クガさんが「俺の実家は本業の他に道場も経営していたからできるぞ」と言い出したのでお願いしてみたところかなり激しい訓練を受けている。
「まあ、その腕前もそのうち利用させてもらうわよ」
「是非利用してください」
レベッカさんはそういうと席を立つ、葉巻をバッグから取り出してるので喫煙スペースで葉巻を吸いに行くらしい、ちなみにパンゲアの一番艦は本来禁煙にする予定だった
そうしてると、朝ごはんが届く、今日の朝ごはんは地上では味噌汁とご飯と卵かけご飯に塩鮭、特に宇宙食の味噌汁はどうしても飛び散らない為の加工が必要で少し粘度があるのだが、それがない味噌汁というのは宇宙では重力下でもここぐらいしか食べられない、それと生卵これは畜産用の専用コロニーまで建設されるぐらいであり、食への執念を感じられる、畜産用や農場用のコロニーに都市ではなく、作業員が通ったり数人が住み込むだけで反乱に参加しないコロニーで良かったと思う。
「おはよう、今から飯か?」
「おはようございます」
次に朝食に来たのはベッグさん、ベッグさんはパンとウインナーを注文し一緒に席につき、暫く雑談を始める。
「今日もトレーニングか?」
「そうですね、昼間で基礎トレして、昼からはクガさんと」
「お前も大変だな」
「ベッグさんほどじゃ」
苦笑いしながら二人で朝食をとる、宇宙空間では何もしないと重力がないので筋力の低下が激しい、なので非戦闘員でも筋トレは必須なのだがベッグさんは巨漢で、しかもかなり大柄で筋肉質、恐らく相当量の筋トレを日頃やっているんだろう。
トレーニングの話題をしながら朝食を食べ終わり、食後の珈琲を飲みながらこれから宇宙ステーションに併設されているジムに行こうかというところソレは起こる。
Prrrrrrrr!
緊急通信用の着信音がスマホから鳴り響く、ベッグさんも同時だ。
「もしもし」
「スノウ、聞こえるか?」
いつもどおり冷静のようで少し早口になっている口調のクガさんの声が聞こえる。
「はい、聞こえます」
「今から緊急出撃できるか?」
「今ラウンジなので10分で」
「オッケー、スグ来てくれ」
ベッグさんの方をみるとベッグさんの方にも同じ様な通信内容が来たようで、重力エリアと無重力エリアを繋ぐエレベーターへと向かっている。
「ちょっと待って下さい、乗ります」
「おう」
既に来ていたエレベーターに一緒に乗り込むと一度通話が切れる、このエレベーターは電波が通らないようだ。
「何か聞いてますか?」
「いや、まだ緊急とだけだ」
「コッチもです」
二人でエレベーターを飛び降り同じ方向へ向かう、その道中通路にあるテレビモニターが緊急速報を伝えている。
『緊急速報です、畜産コロニー・ボンジリが襲撃され現在当局は情報を…』
「どうやらアレらしい」
「みたいですね」
コロニーボンジリはこの宇宙ステーションに一番近い牧場コロニーで、牛と豚と鶏、それと養殖魚が飼育されており、食品加工場もあるコロニーだ。
お互いの船があるドックへ向かい別れ、急いで母艦に入る。
「スノウ! ブリッジにはいい、コッチだ」
クガさんが直接開いている状態の格納庫へ招き入れると、格納庫のコンテナ用ハッチが閉じていく。
「とりあえずだ、
「はい」
クガさんが先に用意してくれていた洗濯済みの宇宙服にその場で急いで着替え、ロボットアームでArcheを装着していく。
「まず今回出撃できるのはお前だけだ」
「へ!?」
それは聞いてないんですけど。
「アイの機体は
「え、はい了解です…ってヤタさん!?」
「昨日パンゲアと深酒して二日酔いだ」
ヤタさん…!? いやまあしょうがないか、付き合いもあるし。
「ヤタが二日酔いするのは始めて…というのは別にい、次だ、ニュースは見たか?」
「見ました、牧場が襲われたヤツ」
「その通り、今からソコへ向かってもらう」
Archeを装着し終わると戦艦の上部にあるカタパルトに移動させられる。
「レーダーに合流ポイントが有る、そこでパンゲアと合流して連れて行って貰え」
「了解です」
レーダーに合流ポイントの座標が表示される、ここからそう遠くないし時間も十分間に合いそうだ。
「カタパルトから直接射出するぞ、準備はいいな?」
「出来てます」
戦艦の後部のハッチが開き、宇宙空間へとつながる、ドック内の空気の抽出は既に終わってるようだ。
「残りは移動中に説明する、よし! 行って来いの!」
「スノウ、出ます!」
電磁式のカタパルトから勢いよく宇宙ステーションの外へ射出され、一心不乱に合流ポイントへ向かう、今回はいつもと違って防衛戦、失敗すれば数日新鮮な肉や魚が食べれなくなるぞ。
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