第二節・魚座
試行錯誤。(1)
朝、目が覚めてきてなにか温かいものを感じる、うっすら目をあけて確認すると、ワイヤー入りワンピースが重かったから脱ぎ捨てて下着姿になってるアイだ。
あ、これやっちまったのでは?
よし、こっからの展開を考えよう、殴られるか叫ばれるかだ、この場から逃げるという選択肢もあったけど、袖をギッチリ掴まれてるからどうしようもない、酒の力ってこわいな…何にせよこれからどうする?
逃げるという選択肢はやりたいけど、多分無理だ絶対起こしてしまう、ただ待ってるだけでもどうせ起こしてしまう、あぁはいはい、なるほどこれ詰んでらっしゃいますね
。
「………もうどーにでもなればいいや」
寝起きで回ってない頭じゃどうにもならない、ていうかもうこれどう足掻いてもダメならいっそ開き直るか、うん。
「…んっ…よし」
俺が取った選択肢は、いっそそのまま抱き枕にして二度寝をする、だ。
どうせ足掻いても無駄なら身を任せてしまえ、殴られるのなら殴られよう、骨ぐらい覚悟してやる、それに大人しくしてればアイも可愛いし、大人しくしてれば。
「………っ…ふあああ」
アイがアクビと一緒にもぞもぞと起きてくる感覚がする、さあどう出てくる。
「うー、起きやー」
耳元で叫ばれる準備をしていたら、予想外の反応が帰ってきた、なんかホッペをペチペチと軽く叩かれているだけだ。
もっと大きなリアクションや混乱されると思っていたが、思ったより穏やかな立ち上がりだ、これはもしかして許されるのでは?
「う……おは……よ?」
できるだけ自然に起きることにする、さあ、どうなる?
「起きたー? おはようさん」
「………あー、えーっと」
「気にしなやー、どうせ手、出されてへんやろ?」
「そうだけど」
「………一応昨日ウチから抱きついたんは覚えてるんよ」
なるほど、だからまだ冷静で居るんだ
「まあ、せやなー、だからこの話はここで終わりでええ?」
「うん、ありがとう…ってもし手を出されてたらどうするんだよ」
「え? その時は決まってるやん、責任とってもらうだけやで」
ニカリと笑いながら、俺のシャツを借りて出ていった。
「油断できねぇ…」
それから服を着替えて談話室にいく、ついでにシャワーに入ってから朝食をとっていると、アイも同じ様な行動をして改めて顔を合わせる。
「結構寝坊したねー」
「そうだね」
時間を見たらもう11時だ、二人共結構深酒をしてしまったようだけど、幸いにも二日酔いはしていなかった。
「約束は覚えてるやんな?」
「買い物だろ、大丈夫」
「うん、覚えてたんやったら良かったわ」
「で、どこに行くの?」
「せやなー」
アイはパンを齧りながら少し思案始める。
「もしかして考えてなかった?」
「ちゃうちゃう、結構行きたい所多いねん」
「そっちか…何を買うんだ?」
「そりゃあ武器類に決まってるやん!」
そうだろうな、ちょっと普通の服とか見に行くかと思ったけど、俺達の仕事と命令を考えたらソレが一番いい、それに俺よりアイの方が詳しそうだ…いやどうなんだろう、アイの武装知識ってかなり偏ってない?
「じゃあ発注に時間がかかりそうなものから見に行かない?」
「なるほど、それはアリやね」
モグモグとパンを食べて、牛乳を飲み干したアイはパンっと手を叩く。
「よし! 決めた! 行こっか!」
既に食べ終わっている俺の手を引っ張って、アイは談話室をでる。
「運転しようか?」
「んー、じゃあお願い、レンタカーはこれから借りるで」
月面用の車を静かの基地に併設されているレンタカーショップで借りて乗り込む、この辺はアイが良く利用してるらしくて手続きがスムーズだ。
「で、どこから行く?」
「ナビセットするからソコ向かって」
「了解」
静かの基地の近くはパーツショップや武器屋などが多い、基地近くなので一番需要が多い地域だからだ、その向こう側に繁華街がある、今回目的があるのはその近場のショップのはずだが、アイが指定した場所は繁華街より更に向こうにある場所だ。
「遠くないか?」
「うん、ちょっとした穴場やねん」
進んでいくと、今度は工業地帯にでる、ドーム都市で排気ガスなんてでたら大問題になるので出来るだけ
アイが指定したのはそんな工業地帯にある工場のひとつだ。
「やっほー、おっちゃん元気やったー?」
「ん、アイか…生きとったか」
「おかげさまでー」
「そいつは?」
「彼氏」
「っおい!」
彼氏と言われて思わず声を荒げる、いつ彼氏になったんだよ。
「っはっは、そりゃあいい! で、今日はなんのようだ?」
「えっとなー、ちょっとレールガン見て欲しいんと改造依頼」
「ほー、レールがンをか、相変わらず変わっとるな」
「変わっとる言うて、レールガンのカスタマイズ受けてくれるとこって少ないやん」
「はは、ちげぇねぇ!」
工場の職人であるおっちゃん…、あ、名前聞いておこう。
「すいません、アイが……どうも、初めましてスノウって言います」
「おう、俺はオーンズだ、相性はおっちゃん、そう呼んでくれ」
おっと、あだ名から既にこのおっちゃん、おっちゃんだった。
「最近レールガンが流行ってんのかい?」
「どないしたん?」
「あぁ、実はパンゲアもな、レールガンを発注したらしいんだよ、しかも10基」
「なるほどパンゲアが」
「その口ぶりからすると何か知ってるな?」
そう聞かれて、隠す必要もないので山羊座で起こったことを細かく話す。
「なるほど! 嬢ちゃんのレールガンでエースをか!」
ガハハと豪快に笑いながら、かなり上機嫌の様子を見せている。
「嬉しそうですね」
「そりゃあ坊主、あのレールがンは俺の改造品だ! 俺の作品が手柄を上げたと言われちゃあ喜ばないメカニックは居ないってもんだ!」
「ふふーん、感謝してや!」
「おう! …それで具体的にどうして欲しい」
「うん、とりあえずコレ見てほしいんやけど」
おっちゃんにアイはUSBを手渡し、おっちゃんはノートパソコンにそれを読み取って画面に表示させると、そこにはアイノArcheの細かいデータやログが映し出される。
「ここ、やっぱり熱が溜まり過ぎてCPUが放熱までダウンしてまうみたいやねん」
「ほー、なるほど、じゃあ排熱だな」
「うん、全身のブースター利用して排熱するんはコスパはいいし壊れへんで良かったんやけど、やっぱり別途で排熱パーツも付けなアカンみたい、あと撃ったら死ぬほど暑かったで」
「そりゃあ、全身を通して排熱してるからな」
「正直、宇宙空間やのにサウナかと思ったわ」
「ふむ…レールガンなんて戦艦の上で戦艦のエネルギー使って狙撃するようなもんを、Arche単体で撃てるようにしてるんだ、そのぐらいの無理は覚悟しとけ」
「わかってんねんけどなー、で良い排熱ある?」
「ふむ…ちょっと待ってろ」
そう言っておっちゃんはパソコンパーツをいじって計算し始める。
「そうだな、これなら良いだろ」
そうやって10分ぐらいして叩き出した方法は、レールガンとArcheに使ってる排熱機器を全て最新の技術をつかった金属に取り替え、断熱シートを新しいものに取り替えること、そしてレールガン自体の改造だ。
「このレールガン改造ってウチが発注した時お金なくて諦めたやつやんな?」
「あぁ、アレでもかなり安くしてやったんだぞ」
「うん、ありがとうな?」
アイは図面をじーっと見ながら、細部を確認している。
「うん、コレにするでおっちゃん」
少し悩んでいたが、一発目でアイはOKを出す、よっぽど信用してるのだろう。
「で、お金はあるのか」
「へへー、エース撃破したんやで、結構あるで」
そういうとアイはスマホからネットバンクの残高を見せる。
「なるほど、十分足りるってわけか!」
「へへー、それにレールガンの宣伝にもなったやろ?」
「ったく、そういうとこは抜け目がないな、ちょっとサービスしてやる」
「よっしゃ決まりやね! ってどれくらいかかる?」
「そうだな、パーツの全交換に、武器のチューニング、研磨、コーティング、安全性のチェックだろ…?」
おっちゃんは工程を指折り数えて考え始める。
「結構掛かりそうやなー、一応後2週間ぐらいしか余裕ないんやけど」
「安心しろ、一週間で仕上げてやる」
「さっすが!」
アイは期間にも満足すると、喜んで支払手続きを始める。
「それじゃあ、Archeは後で持ってくるから頼むでー」
「あぁ、任されてやる…ところで、そっちは?」
ふっと、おっちゃんがコッチの方を見る。
「スノウもこの際やから改造してもらったほうが良いで? 普通に頼むと今、予約いっぱいやからこういうところの方がええで、仕事は保証したるし」
「そんなに予約が?」
「戦時中は予約多いんやけど、パンゲアが近場のとこほっとんど予約占めてもうてるねん」
「あー、そっか」
パンゲア全体がが一ヶ月かけて一斉にArcheの調整をしたら、そりゃそうなるに決まってる。
「じゃあ、ちょっと相談しようかな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます