試行錯誤。(2)
「俺の
おっちゃんに予め作っておいた、自分のArcheデータが入ったUSBを渡す。
「…かなりシンプルでログも少ない、新人だな?」
「はい」
なるほどなるほどと、おっちゃんは頷く。
「バランス重視の調整は悪くない、全身のブースターだけ最新に最近取り替えられてるが、活かしきれる改造は出来てない感じだな」
「やっぱりそうですか…」
確かに、全力で速度を出しても十分な加速が得られなかった、アイの分重量があったとしても、このブースターならもっとスピードが出せる筈だ。
「だが、問題は活かし切ると今度はお前さんの腕に負えないぐらいピーキーになる」
ブースター一個一個の出力が高ければそれだけバランスが不安定になる。
「操縦できる自信は」
「…ないです」
悔しいがここで出来もしないのに見栄をはれば死ぬことはわかっている。
「だろうな、このチューニングをしたとしてまともに動かせる奴は二桁もいない」
実際、シミュレーションで試したことはある、動かせはしたし動けはしたけれども、完璧に動かせれはしなかった。
「武器もこれだけか?」
「はい」
武器の種類が二種類というのも正直少ないとは思う。
「やっぱり、増やしたほうがいいですかね?」
「どうだろうな、近接はもうちょっと長物の方がいいかも知れんが、ライフルの方は無理せんでも良いとワシは思っとる」
「そうなんです?」
「実際、沢山武器持ってたからと言って全部使うわけじゃない、予備ぐらいは持ってていいが結局使うのは使いやすいモンに偏る」
「なるほど」
「ま、なかにはどっかのバカみたいにピーキーな方が手に馴染むヤツもいるが、ああいうのを真似したってロクなことにならん」
二人の目線が同時にアイに向かう。
「なるほど、確かに」
「なるほどってなんや!」
「お前さんは結構堅実な武装とカスタマイズしてるからな、そっち方面で伸ばしても良い…そうだな、どうしても必要ならエネルギー兵器でもいい」
エネルギー兵器は高価だけど弾速が早く熱量によって貫通するのに優れている、その代わり発射ディレイがあり、排熱やリロード、Arche自体のエネルギーを消費するので、エネルギー管理が大変だ。
「正直玄人向けでオススメできないがな、一発一発の
「どうかしたんですか?」
おっちゃんが俺のデータを見つつ、なにかに気づいたように首をかしげる。
「なあアイ、この命中率ってどうなってる?」
「ん? どれやー?」
おっちゃんがアイにデータを見せると、アイも首を傾げる。
「そーいや、確かに無駄弾ってあったっけ?」
「おいおい、停止物だけとかか?」
「いんや、なんやったらウチを抱えて逃げてる最中に追いかけてるヤツへの命中率」
なにやら二人でコソコソ、俺のデータについて話している。
「どうかしたんです?」
「いや、お前さんの命中率が高いなって話だよ」
「それなら、俺結構
AIMとは「狙いをつける」「標的に向ける」などといった意味で、元はゲーム用語から来ている、つまるところ狙う力だ、俺はこれだけなら自信をもって上手いと胸を張れる、さすがに世界一までは思っていないけど、同期には負けない自身がある。
「なるほどな、だから単発式と3点バーストの物理ライフルか」
「ええなぁ、ウチはあんまり自信ないんよ」
「だからショットガンか」
拡散式のショットガンなら多少近づいて撃てば殺傷力を維持したまま命中力を上げれられる、接近する勇気が必要ではあるけど。
「レールガンだって
「…その点お前さん命中補助装置はどうした?」
「切ってます」
長々と説明したけど、簡単に言ってしまえばオートエイムを使うより手動のほうが上手く当てられるってだけだけど。
「なるほど、だったら単純に一発の火力を上げる武器なんか良さそうだな」
「無駄じゃないんです?」
「いや、そうでもないさ、
なるほど、とにかく敵の数を減らすのなら細かく削るよりも、追い払うスピードが高い方がいいのか。
「そこでだ、お前さんにオススメなのは、実弾性能を強化するカスタマイズと、新しくエネルギー兵器を持つことだ、あとは近接武器だな」
「…さすがにそこまでお金ないですよ」
ドローンの撃墜の歩合と、エース補助、それに初任給で多少はお金は入っている、ただ入社祝い金とかは既に使い切ってるのでそんなに懐は軽くできない。
「予算は?」
「130万ぐらいです…」
「ふむ、新兵にしちゃ上等だなだが確かに全部揃えて機体のカスタマイズとなると、額が足りんな」
「せやったら、ちょっとぐらいウチが出そか?」
「それは遠慮しとく」
この場合のちょっとは、ちょっとで済む金額じゃない、下手すると100万以上貸しを作りかねないし、友人同士でも仲間同士でも金銭トラブルになりかねないのは回避したい。
「じゃあまずはそうだな、機体カスタマイズから決めて来い、そっからだな」
機体のカスタマイズ、実際どうするべきだろうか、ある程度ならクガさんと相談してなんとかなると思う、それこそブースターの制限を開放するぐらいならクガさんが簡単にやってしまうだろう。
ただ、やはりチューンアップするならパーツを買わなきゃいけないし、取り付けまでして貰うならそれなりに予算が必要だ、正直な話、パンゲアのエースが用意していた遺品であるブースターを譲り受けたのだから活かしたいという思いは強い。
「こればっかはクガさんと一回相談やなー」
アイの言う通りだ、一度クガさんと連絡を取ろう。
「連絡してみるよ」
そう言ってクガさんに社内通信で連絡を送る、するとスグに電話がかかってくる。
「どうした?」
「お疲れさまです、今機体調整で悩んでいて…」
「なるほどな、出力とバランサーだろ?」
「はい…ってなんでそれを」
「そりゃ、活かしきれてないからな、今の調整は使用感ができるだけ変わらないようにしながら出力が出るようにしてある」
「なるほど」
ありがたい調整だったと思う、ぶっつけ本番で使用感が違えば一気に崩れる可能性だってあった、そうなればアイも自分も死んでいた可能性が高い。
「とりあえずどうしたいかだ、装甲を増やすか速度を上げるか総合性能を少しあげるのも良いし、索敵能力の感度をあげても、燃費とかエネルギー量を増やしても良い」
「そうですね…」
目を瞑って考える……
一番ほしいのは総合性能だけど、そうなると恐らく中途半端になるだろう、なら装甲はどうだろう、ある程度なら出力を下げずに装甲をあげれるだろう、増えた重量分ブースターの出力を上げればいいんだから、ただ今回の戦いを考えると多少装甲を上げたところで不安が残る。
デカブツはともかくドローンの集中砲火でさえ今の平均ぐらいしかない装甲では暫くしか持たないし、そもそもそこは
「速度をあげたいです」
「わかった、じゃあバランサーとエネルギータンクを買ってこい、経費は50%だ、実費が足りないなら請求書を送ってもらえ、カスタマイズはコッチでやる」
「ありがとうございます」
「決まったか?」
「はい」
ちなみに経費50%というのはPMC業界での相場で、基本武装はPMCで完全支給されるのだけど、個人のカスタマイズは個人の財布と折半する形が多い、その代わり暗黙の了解で個人のカスタマイズはよっぽどじゃないと否定されないし、給料はそのカスタマイズ費用が込みで支給されている。
「
「おし、わかった前のもんは買い取るか?」
「お願いします」
この買取分は折半にされないのでちょっとしたヤリクリになる、勿論悪用したらクビになるどころじゃすまないけど。
「とするとだ、ランクアップするならカタログは…」
おっちゃんからカタログを見せてもらう、やはり今使ってるのがそもそも最新式な上、使おうとしてるブースターが
「あ、エネルギータンクはウチの使う? ウチ買い換えるし」
「マジ? それなら…って型番合うのか?」
「そりゃ大丈夫だ、エネルギータンク自体は互換性があるからな」
そう言えば少し旧型を魔改造しているヤタさんの機体のエネルギーを、アイはレールガンに使えていたな。
「いくら出せばいい?」
「せやなー、んー…今回は貸しにしとくで」
「…わかった」
金銭のやり取りはしたくないが、こういう命のやり取りをする物の直接取り引きなら、お金を直接借りるよりはハードルが低く感じる、それでも何か返さないと、という使命感を感じてしまうんだけど………。
ただここで拒否したらそれこそ自分のだけじゃなくて、同じPMC内全員の命まで危険に晒しかねないから妥協はしないと、多分アイも仲間の性能アップが自分の生存力に繋がるのは十分わかってる。
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