魔法の言葉「つまんねー」

あろはそら

第1話 今年の夏はつまらない

 真夏の太陽がじりじりと照りつける。

 私の通っている塾は、最寄り駅から徒歩10分ほどの場所にある。道中、日陰はほぼない。


「暑っ……」


 道の先を見ると、蜃気楼が揺らいでいた。私は大量の参考書が入ったリュックサックを背負い、クーラーの効いた塾を目指して歩き続ける。


 その横を自転車に乗った小学生の集団が、笑い声を上げて通り過ぎていった。

 信号待ちをしている最中には、プールバッグと浮き輪を担いだ親子が楽しそうに話している。


 今は夏休み真っ只中。

 人々は楽しい思い出を一つでも多く作るべく、西へ東へ奔走する。


 私は夏季講習真っ只中の塾へ向かう。今日は大事な模試が行われる日だ。

 考えてみれば、夏休みに入って塾以外どこにも出掛けていない。何せ私は高校3年の受験生。夏は勝負だ。


 だから遊びたいなどと考えないようにしている。受験が終われば、思いっきり好きなことができるんだから。そう気持ちを奮い立たせる。




 歩いていると、ふと電柱に貼られたポスターが目に入った。


『カクヨム地区夏祭り』


 そうだった。今日は夏祭りの日だ。


 この辺りで最も大きなこのお祭りは、毎年大勢の人で賑わう。屋台はもちろん、イベントも盛り沢山で、老若男女が楽しむことができる。


 そのイベントの中の一つに「ライブステージ」というものがある。これは、バンド演奏をステージの上で披露するものだ。


 この地区は昔から音楽活動が盛んらしく、こういった楽器を演奏するイベントが多くあった。しかし、最近は楽器人口が減少しているということもあり、このライブステージも今年限りで無くなってしまうらしい。


「みんな大丈夫かな……」


 本来、私もこのイベントに参加するはずだった。













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