蛇足編 《結婚式場では……》

――ナイ達の結婚式には大勢の人間が集まり、その中にはイチノから訪れたドルトンやイーシャン、そしてヨウとインの姿もあった。他にもナイがこれまでに関わった人々が大勢集まっており、今回だけは特別にビャクも参加していた。



「良かったな、ビャク。お前も入れてもらえて……」

「ウォンッ!!」

「魔獣が同席する結婚式なんて初めてだぞ……それにしてもあのナイが結婚か、ううっ……何だか涙が出てくるぜ」

「泣くのはまだ早いですよ。ナイが結婚式を終えるそのときまで待ちましょう」

「私も一緒で良かったのでしょうか……」

「気負う事はありません、招待状には貴方の名前も書かれていました」



インはこの場に居る事に不安を抱くが、そんな彼女にヨウは微笑む。そして他の者たちも緊張した面持ちで待ち構えていた。



「ううっ……結婚式というのはどうも苦手だね。さっさと終わらせて着替えさせてくれないのかね」

「はあっ……ナイさんが結婚ですか、何だか複雑な気分です」

「……ヒイロ、もしかして妬いてる?」

「そ、そんな事は……」



式場にはテン達の姿も有り、着馴れていないドレスにテンは窮屈そうな表情を浮かべ、その隣にはヒイロとミイナの姿もあった。少し離れた場所にはアリシア、ランファン、ルナの姿もあり、全員が正装していた。



「ううっ……やっぱり、こういう服は嫌いだ。何でこんな格好しないといけないんだ」

「ルナ、貴女も良い年齢なんだから我慢しなさい」

「むうっ……少しでも力を込めると服が破れそうだな」

「が、我慢して下さい……」



ルナはテンと同様に着馴れないドレスに落ち着かず、ランファンに至ってはぎりぎりのサイズのドレスに困っていた。ちなみに聖女騎士団の中で呼ばれた人間は他にエルマとエリナも含まれるが、二人は用事があるという事で建物の外に居た――






――教会の外では大勢の人間が集まっており、彼等は招待状を受け取ってはいないがナイ達の姿を見るために集まった一般民衆である。王都に暮らす大勢の住民が教会の前に集まり、彼等を抑えているのはドリスとリンだった。



「落ち着きなさい!!今日は教会は貸し切りですわ、何人であろうと中に立ち寄る事は許しません!!」

「そんな!!英雄様が結婚すると聞いて来たのに……」

「どうしても入りたいというのであれば私達が相手になるぞ」

「い、いや……そこまではちょっと」



教会前に集まった人々は黒狼騎士団と銀狼騎士団に阻まれて教会に入る事はできず、今回の結婚式には招待状を送られた人間しか入る事が許されていない。


しかし、王都の住民は国を救った英雄の結婚式と聞いて興味が尽きず、何とか一目見ようと集まってきた。本日の予定では結婚式を終えた後はそのまま教会内で祝宴が行われ、解散するのも夜の予定だった。



「全く、予想していた以上に人が集まって来たな……」

「それだけナイさんが人気者というわけですわ。ですけど、ここまで集まったのに何も見れずに帰らせるのはちょっと可哀想ですわね」

「野次馬に同情するな。それに何も見れないというわけでもないだろう」

「え?」



リンの言葉にドリスはどういう意味なのかと思った時、この時に建物を取り囲む壁の上に人影が現れる。それは魔導士になったエルマと、晴れて聖女騎士団一の射手となったエリナだった。



「エリナ、準備はいいですね?」

「うぃっす!!今日、この日のために練習頑張ってきましたから大丈夫です!!」

「良い返事です。では……行きますよ!!」



エルマとエリナは弓矢を構えると、彼女達は鏃の部分が魔石で構成された矢を放つ。この矢はアルトの提案で作り出された特別製の矢であり、二人は魔弓術を駆使してお互いの矢を空中で衝突させる。



「うわぁっ!?」

「な、何だあれは!?」

「そ、空が……凄い事になっているぞ!?」



二人が矢を放つたびに空中で矢が衝突し、魔石で構成された鏃同士が反応して空中に「花火」を想像させる爆炎が発生する。中に爆炎だけではなく、雷や冷気が発生して人々の注目を集める。


この日のためにエリナとエルマは魔弓術を利用した芸を身に着け、盛大な魔法の花火を上げる。その様子に人々は注目を引き、そして結婚式場では式が執り行われていた――






「――それでは誓いの証として指輪を交換して下さい」

「「「はい」」」



結婚式場では既にナイ達が集まっており、結婚の証としてお互いの指輪の交換を行う。この日のためにナイは両手の薬指に別々の指輪を嵌め、モモとリーナの左手の薬指に嵌め込まれた指輪と交換を行う。


3人が指輪の交換を行うのを確認すると、本来であれば誓いの口づけを行う所だが、王国では複数人の結婚の場合はお互いの手を重ねて陽光教会の崇める「陽光神」に祈りを捧げる。



「では、3人とも陽光神様に末永く暮らせるようにお祈りをしてください」

「「「…………」」」



ナイ達が陽光教会が崇める「陽光神」のステンドグラスに祈りを捧げると、ナイは昔を思い出す。陽光教会に始めて訪れた時、ナイは忌み子だと発覚して連れ出されそうになった。


自分が生まれてきた時に「貧弱」の能力を持っていたせいで小さい頃のナイは酷い目に遭い、何度もこんな能力を持って生まれさせた陽光神に恨みを抱いた事もある。しかし、この「貧弱」のお陰でナイはここまで強くなれたし、大切な人々ができた。



(この能力を授かってくれてありがとうございます)



ナイは改めて貧弱の能力を授けた陽光神に感謝すると、ステンドグラスの陽光神は日の光に晒されて強く光り輝く――

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