蛇足編 《黄金級を目指して》
――マホの弟子であるガロとゴンザレスは金級冒険者にまで昇格していた。王都の冒険者の中でも彼等二人は黄金級に次ぐ実力者とまで呼ばれ、近い将来には黄金級に昇格するのではないかと噂されていた。
昔と比べてガロは周囲の人間と打ち解けるようになり、そんな彼の相棒としてゴンザレスも冒険者になった。最初の頃はガロが冒険者になったのは知名度を上げるナイに対抗して自分も冒険者になる事で有名になろうとしたが、今は純粋に冒険者として高みを目指したい気持ちがあった。
「はあっ……」
「浮かない顔だな」
「……まあな」
王都に帰還してからしばらく経過したが、ガロは思い悩んでいた。そんな彼にゴンザレスが悩み事を打ち明けるように告げる。
「ここ最近、何を悩んでいるんだ」
「別に……」
「いいから話してみろ。俺の事を信用できないのか?」
「そういうわけじゃねえけどよ……」
ガロはゴンザレスに対してばつが悪そうな表情を浮かべ、彼は考えた末に仕方がなく悩み事を打ち明ける。彼が悩んでいるのは実はギルドから届いた話だった。
「この間、俺がギルドマスターに呼び出されたのを知っているだろ?」
「ああ、覚えている」
「実はあの時にギルドマスターから黄金級の昇格試験を受けられるかもしれないと言われたんだよ」
「何!?それは本当か?」
ギルドマスターに直々に呼び出されたガロは黄金級冒険者の昇格試験の話を持ち出され、その話を聞いたゴンザレスは驚きを隠せない。黄金級冒険者への昇格試験は滅多に行われず、金級冒険者の中でも確かな実績のある冒険者にしか昇格試験は受けられないと聞いている。
ガロはこれまでに冒険者として活躍し、金級冒険者に昇格してからも確かな実績を積んできた。それでも王都には彼以外にも大勢の金級冒険者が在籍し、最近では他国から訪れた冒険者も多い。その中からガロが昇格試験を受けるかどうかの話を聞かされた事にゴンザレスは喜ぶ。
「良かったじゃないか、お前は黄金級冒険者になるのが夢だったんだろう?夢が遂に敵うんだな」
「……夢、か」
「どうした?」
これまでにガロが冒険者活動を励んでいたのは黄金級に昇格するためだとゴンザレスは思っていたが、その割にはガロは浮かない表情をしている事にゴンザレスは疑問を抱く。
「……最初の頃は俺は有名になるためだけに冒険者になった。でも、今は違う。冒険者として自分が何処までやれるのか試してみたい気持ちはある」
「立派な心掛けじゃないか」
「だけど俺は……正直、他の奴等より本当に黄金級冒険者に相応しいのか気になってるんだ」
「どういう意味だ?」
ガロは自分が最初は不純な動機で冒険者になった事を気にしており、他の人間は真面目に冒険者としての志を持って仕事に励んでいる。それなのに自分は冒険者という職業を自分の見栄のために利用した事に罪悪感を抱き、こんな自分が冒険者の最高峰である黄金級冒険者を名乗れるのかと不安を抱く。
「俺はお前が言う程に立派な人間なんかじゃねえ。もしも黄金級冒険者になれたとしても、他の奴等に自慢できるような冒険者になれる自信はねえ……」
「なるほど、そんな事を気にしていたのか」
「そんな事って……お前な、俺がどれだけ悩んでいるのか分かってんのか!?」
ゴンザレスの言葉にガロは苛立ちをぶつけてしまうが、そんな彼に対してゴンザレスは昔の事を思い出してしまう。
「懐かしいな、お前がそういう風に俺を怒鳴りつけるのは……」
「あ、いや……悪い、今のは俺が悪かった」
「悪かった、か。昔のお前なら謝る事もしなかったな」
自分の行為に恥ずかしさを覚えたガロはゴンザレスに謝罪するが、そんな彼に対してゴンザレスは最初に自分達が出会ったばかりの頃を話す。
「俺とお前が出会った時、お前は俺の事をでくの坊呼ばわりしていたな」
「あ、ああ……本当に悪かったよ」
「いや、別に怒っているわけじゃないんだ。昔のお前は常に何かに苛立ちを感じていて、喧嘩っ早くて、他の人間の都合も考えずに動いていた。だが、冒険者になってからお前は他の人間を気遣い、時には自分から救いの手を差し伸べるようになった」
「そ、そうか?」
「お前は気付いていないだろぷが、冒険者になってからお前は人間的に成長した……もう我儘をばかりを言う生意気な子供じゃない、立派な戦士になったんだ」
「戦士……俺が?」
ゴンザレスの言葉にガロは呆気に取られるが、ゴンザレスはそんなガロの肩に手を伸ばして勇気づけた。
「お前は立派な戦士だ。それは俺が誰よりも知っている……老師も目を覚ましたらきっと同じことを言うだろう」
「……意味わかんねえよ」
「いいから忘れるな。お前は立派な戦士だ、だから気後れせずに高みを目指せ。冒険者を目指した切っ掛けなんかどうだっていいんだ、大切なのは今のお前の気持ちだ」
「気持ち、か……」
ガロはゴンザレスの言葉を聞いて自分の胸に手を当て、彼と話した事でずっと抱えていた胸のもやもやが消えたような気がした――
――この数か月後、王都では新しい黄金級冒険者が誕生した。
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