蛇足編 《母娘の別れ》

――テンは王都に帰還すると、ナイから話を聞かされていた彼女はすぐに養母ネズミの行方を探す。彼女は最初に訪れたのは以前にネズミと再会を果たした教会であり、そこには弱り果てたネズミの姿があった。



「あんた……生きてるのかい?」

「……久々の再会なのに、開口一番がそれかい……」



ネズミは瓦礫の上に横たわり、衰弱した状態だった。生きている事が不思議な程に彼女は弱り切っており、そんな彼女を見てテンは咄嗟に身体を抱き起す。



「しっかりしな!!いったい何があったんだい!?」

「……へまをしちまっただけさ、自業自得だね」

「あんたね、こんな時まで格好つけている場合かい!!」



テンはネズミを抱きかかえてイリアの元へ向かおうとした。彼女ならば弱り切ったネズミも治してくれると思ったが、そんなテンに対してネズミは彼女の頬に手を伸ばして虚ろな瞳で顔を覗き込む。



「もう無駄さ……あたしの身体の内側はボロボロなんだよ。もう、どんな薬でも魔法でも治す事はできない」

「くぅっ……」

「罰が当たったのさ……悪党に相応しい末路さ、これまでの悪事のツケを払う時が来ただけさ」

「何を言ってるんだいあんたは……」



もう自分が助からないと判断したネズミは治療を拒み、そんな彼女にテンは苦し気な表情を浮かべる。辛い気持ちと怒りの気持ちが混じり合い、どんな表情をすればいいのか分からなかった。


ネズミは母親としては決して立派な人物とはいえなかった。しかし、だからと言って酷い母親というわけでもなく、今のテンがあるのは彼女のお陰である。テンはネズミに生きる事の厳しさを学んだ。



「テン……あんたはあたしの様になるなよ。誰でもいいから結婚して、ガキを産んで、幸せな過程を築くのもいい。別に結婚しなくても気の合う友達や仲間と馬鹿をしながら呑気に暮らすのも悪くはない……けどね、あたしのように落ちぶれるのだけは止めておきな」

「……言われなくてもそうするさ」

「それを聞けて安心したよ……あんたと過ごした日々、本当に楽しかったよ」



ネズミはテンの返答を聞いて笑顔を浮かべ、彼女は瞼を閉じた。そして今度こそ目を覚ます様子はなく、そんなネズミの顔にテンの涙が垂れた。



「馬鹿……あんたは本当に馬鹿だよ」



こうして人生の最後にと出会えたネズミは心残りを残さずに満足に逝く事ができた――

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