異伝 《最強の囚人》
「やはり無理か……」
「だから言っただろう?氷華を使いこなせる人間なんていないよ」
「仕方あるまい、氷華はもう一度保管してくれるか?」
「はっ!!」
王国騎士達はマホの言う通りに氷華を運び出し、もう一度厳重に保管される。マホがこの場に存在する者達の中ならば氷華の使い手に選ばれる人材がいるかと思ったが、結局は無駄に終わってしまった。
それでも彼女は氷華と炎華の新しい使い手を探す事は諦めず、いずれ他の人間にも氷華を試す事を心の中で誓う。しかし、今はマグマゴーレムの問題解決を優先し、彼女は次の案を出す。
「氷華に頼れない以上は仕方あるまい……やはり、あの二人の力を借りるしかあるまいな」
「あの二人?」
「誰の事だ?」
マホの言葉に全員が首を傾げ、彼女の口ぶりから先ほど名前が上がった「マリン」の事を言っているわけではないらしい。マホはしばらくの間は考え込んだ後、意を決したようにある二人の名前を告げた。
「王都の監獄で収監されておるロランとゴウカを仮釈放する事を儂は陛下に頼もうと思う」
「な、何だと!?」
「正気か!?」
「ええっ!?」
「ちょ、ちょっと待ちな!!何を言い出すんだい!?」
思いもよらぬマホの言葉に誰もが驚きを隠せず、テンでさえも彼女が何を言い出すのかと焦ってしまう。しかし、この状況でマホは冗談の類を言い出すはずがなく、彼女は真面目な表情で答えた。
「儂は本気じゃ。あの二人を一時的に釈放して共に戦ってもらう。元大将軍に黄金級最強の冒険者が味方に加わればこれ以上に心強い事はないじゃろう?」
「い、いやいやいや!!」
「いくらなんでもそれは……問題があるのでは?」
「でも、確かにあの二人がいれば……」
マホの言葉に他の者たちは話し合い、彼等二人が作戦に加わればこれ以上に心強い味方はいない。ロランはこの国の最強の将軍にして騎士でもあり、ゴウカは間違いなく王国一の冒険者なのは確かだった。
二人の実力は疑いようがなく、あの伝説の武人「リョフ」にも劣らない。だが、どちらも現在は収監中の囚人である事が問題だった。しかし、国家の一大事とあればマホは体面を気にしている場合ではないと告げる。
「陛下には儂が報告し、全ての責任は儂が負う。儂の見立てでは二人とも国に逆らうつもりはない。それに仮釈放と言っても条件を付ける」
「条件……とは?」
「あの二人を監獄から出す際は拘束用の魔道具を取り付ける。二人にはマグマゴーレムの討伐の際に大きな功績を残さなければ監獄に戻る事を伝え、仮に脱走を計ればその時は儂が対処しよう」
「マホ魔導士……本気であの二人を解放するつもりか?」
「これは仕方がない事じゃ……賛成の者は手を上げてくれ」
マホの言葉に会議室の全員が黙り込み、やがてちらほらと手を上げる者が出始めた。その中にはアッシュやテンの姿もあり、二人ともゴウカはともかくロランは信用に値する人物だと信じていた。
「まあ……ロラン大将軍が戻ってくるのならこっちも気が楽になるけどね」
「うむ、ロランは王国に忠誠を誓う武人……奴の父親が犯した罪をこれ以上に背負う必要はない。それに罪を償うのであれば監獄にいるよりもこの国に尽くした方がいいだろう」
「わ、私も……ロラン大将軍に復帰して欲しいです」
「賛成ですわ」
ロランを信じる者は多く、彼の釈放に関してはだいたいの人間が賛同した。しかもゴウカの方の釈放に関して賛成する人間もいた。
「……まあ、あいつとは決着がついてないからな。俺は賛成するぜ」
「よく言うわい……まあ、儂もあいつとはそれなりに長い付き合いじゃ。ここは友人として賛成するか」
「「…………」」
ゴウカの釈放はガオウとハマーンが賛成するが、リーナとフィルは手を上げなかった。彼が犯した罪は決して軽くはなく、もしも彼が再び王国の敵に回れば大変な事態に陥る。
多数決の結果、ロランとゴウカの釈放に賛成する者が多く、マホは宣言通りに国王に直訴しに向かう――
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