特別編第75話 《決戦の時》
「オァアアアアアッ――!!」
「ひいいっ!?お、お頭ぁっ!!」
「ちぃっ……噴射機を動かせ!!」
このままでは土鯨に地属性の魔石が入った袋どころか、飛行船が喰いつかれそうな距離まで迫る。ハマーンの弟子達は悲鳴を上げるが、咄嗟にハマーンは飛行船の後部の噴射機を発動させた。
噴射機から火属性の魔力が放出され、それが結果的に飛行船を飲み込もうとしていた土鯨から逃れる事に成功した。飛行船が急加速した事で土鯨の口元から逃れ、船首に括り付けていた袋も食われずに済む。
「オアアアアッ……!?」
『今だ!!撃てぇっ!!』
土鯨が飛行船の攻撃に失敗した瞬間、正気を取り戻した巨人国軍の兵士達は土鯨に向けて捕鯨砲を発射させた。四方八方から巨大な銛が発射され、土鯨の肉体に突き刺さる。
「ウオオオオッ――!?」
『全弾命中……うわぁっ!?』
土鯨を取り囲むように配置されていた軍船から発射された捕鯨砲は全て的中するが、この時に攻撃を受けた土鯨は地中に潜り込もうとする。すると10隻の軍船が土鯨に引き寄せられ、慌てて各船は土鯨に引きずり込まれないように船を作動させた。
「い、いかん!!引き込まれるぞ!?」
「船を動かせ、奴を逆に引きずり出すんだ!!」
「よし、あいつが動けない内に俺達も行くぞ!!」
捕鯨砲によって軍船と土鯨は巨大銛と鎖で繋がり、ここから先は軍船は土鯨が逃げられないように引き寄せる必要がある。そのため、軍船から攻撃を仕掛ける事はできず、あとは地上に固定した土鯨を巨人国軍と王国軍の討伐隊の出番だった。
「全軍……」
「突撃ぃっ!!」
『うおおおおおっ!!』
バッシュとテランの号令の元、巨人国軍と王国軍の兵士と騎士達が砂漠を駆け抜けて土鯨へと接近する。巨人国軍の兵士の戦闘はライトンが駆け抜け、討伐隊の先頭はリザードマンに乗り込んだナイとリーナが駆け抜ける。
「よし、行くぞぉっ!!」
「援護は任せて!!」
「シャアアッ!!」
ナイとリーナを乗せたリザードマンは真っ先に土鯨の元に駆けつけると、ここで二人はリザードマンの背中から飛び上がって土鯨に向けて攻撃を放つ。
旋斧と岩砕剣を構えるナイに対してリーナは蒼月の能力を発動させ、既に氷の刃を纏わせていた。二人は土鯨の全身を覆い込む岩石の外殻に向けて各々の武器を振り下ろす。
「だああっ!!」
「やああっ!!」
「オアッ……!?」
激しい金属音が砂漠に鳴り響き、二人の攻撃を受けた際に土鯨の動きは一瞬だけ止まった。しかし、攻撃を仕掛けたナイとリーナは土鯨の外殻の硬さに衝撃の表情を浮かべる。
(か、硬い!?ゴーレムキングの外殻よりも硬い!?)
(普通のゴーレムなら僕の蒼月の一撃を受ければ砕けるはずなのに……全然効いてない!?)
ナイの剛力を発動させた攻撃も、リーナの蒼月による氷の刃を受けても土鯨の外殻はびくともせず、せいぜい表面に掠り傷を負わせる程度の損傷しか与えられなかった。
土鯨の全身を覆い包む外殻はゴーレム種と同じように土砂や岩石を練り上げて作られた物のはずだが、ナイの腕力でも破壊はできず、本来であれば弱点であるはずの水や氷結による攻撃さえも受け付けない。仮に相手がゴーレムならば水で湿らせたり、あるいは氷漬けにすれば外殻の硬度が落ちるはずだが、リーナの蒼月の攻撃を受けても影響は全くない。
――土鯨の全身を包み込む外殻はゴーレムと同じく、土砂や岩石を練り固めた代物である。しかし、ゴーレムとの違いは密度だった。土鯨は数百年も生き続ける魔物であり、数百年の時を費やして築かれた外殻はゴーレムキングをも上回る硬度と密度を誇る。
リーナの蒼月が生み出す氷の水分だけでは土鯨の外殻を溶かす事はできず、仮に土鯨を倒す場合は雨を降らせるか、あるいは湖などの水の溜めた場所に落とすしかない。そうすれば時間は掛かるだろうが全身の外殻が溶け始めて本体が露わになる。
しかし、アチイ砂漠では滅多に雨は降らず、また土鯨を迎え撃つために選ばれた場所の近くにはオアシスもない。そのためにナイ達は土鯨を倒すとしたら水に頼らずに戦うしかない。
「ウオオオオッ!!」
「うわっ!?」
「くっ……まずい!?」
ナイとリーナの攻撃を受けて硬直していた土鯨だったが、再び動き出すと地中に潜り込もうとする。先に撃ち込まれた捕鯨砲は貫通力がある武器だったのでどうにか土鯨の外殻を貫く事には成功したが、それでも先端部が食い込んだだけで本体までには届いていない。
このままでは土鯨は捕鯨砲の銛を引き抜いて地面の中に逃げてしまうため、どうにかナイ達は攻撃して土鯨の注意を引く必要がある。だが、ナイやリーナの攻撃が通じない時点で他の者たちの攻撃もほぼ通用しないのは確定していた。
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