特別編第71話 《リーナの葛藤》
――ナイ達が街に出向いて観光を楽しんでいる頃、リーナは巨人国の軍船にてガオウと訓練を行っていた。どちらも黄金級冒険者という事もあって凄まじい激戦を繰り広げ、観戦している巨人族の兵士や王国騎士は目が離せない。
「せりゃあああっ!!」
「うおっと!?また一段と早くなったな!!」
「な、何て速度だ!!」
「は、早すぎる!!」
「ほほっ、やるではないか二人とも」
ガオウに対してリーナは蒼月を放ち、その攻撃に対してガオウは両腕の鉤爪で弾き返す。二人は試合場を駆け巡り、そのあまりの移動速度に兵士や騎士達は驚愕する。
観戦者の中にはハマーンも混じっており、彼は現役は引退したが元黄金級冒険者を務めていた事もあって二人とも長い付き合いだった。だが、彼が現役だった頃よりもガオウもリーナも一段と腕を上げていた。
「そこだぁっ!!」
「ぐぅっ!?このっ……うわぁっ!?」
「そ、そこまで!!」
隙を突いたリーナはガオウの脇腹に蹴りを食らわせ、体勢を崩したガオウに反撃や回避の隙も与えずに蒼月の刃を首元に押し付ける。審判役の兵士が慌てて試合を止めると、ガオウはため息を吐き出す。
「ちぃっ……遂に負けちまったか、大したもんだぜ」
「はあっ、はあっ……あ、ありがとうございました」
「ガオウ、お主まだ前の戦いの傷が癒え切っておらんのではないか?」
試合はリーナの勝利だったがハマーンはガオウの動きを見て本調子ではない事を見抜き、彼は眉をしかめながらハマーンに言い返す。
「ちっ、怪我なんてもう何ともねえよ。ちょいとばかり死にかけただけだろうが。それよりもリーナ、そろそろ休憩しろ。ずっと動きっぱなしで疲れただろ?」
「えっ?いや、まだ……」
「無理をするでない、少しは身体を休ませんか」
リーナの疲労を見抜いたガオウは彼女の休むように進言し、それに対してハマーンも同意した。試合はリーナの勝利ではあるが、負けた方のガオウは息切れ一つ起こしていないにも関わらずにリーナは先ほどから汗を流して息も荒かった。
(やっぱりガオウさんは凄い……あんなに激しく動いて平気だなんて)
自分が勝ったはずなのにガオウの素早さと体力の差を思い知らされたリーナは悔し気な表情を浮かべ、人間である彼女では獣人族のガオウに速度も体力も劣る。獣人族は人間よりも運動能力に秀でているので仕方がない面もあるが、それでもリーナは悔しく思う。
人間の中にもナイのような特別な生まれと環境で育った者は巨人族にも対抗する腕力を得られる。彼には及ばずともテンやミイナやルナといった彼女達も人並み外れた怪力を誇る。しかし、リーナの場合は3人のように腕力を磨いたところで限界があった。
(力はナイ君にも及ばない、素早さも本調子じゃないガオウさんに付いて行くのが限界……なら、僕には何ができるの?)
リーナは想い人であるナイと行動を共にせずにずっと訓練に集中している理由、それは彼女はナイとライトンの試合を見た後、彼と自分の間に大きな力の差を感じた。
知ってはいた事だがナイとリーナではあまりにも実力差が離れており、どんどんと強くなり続けるナイに追いつくためにリーナもこれまで頑張ってきた。しかし、彼女は自分の成長に思い悩む。
(毎日欠かさず鍛錬は行ってきた、ナイ君の足手まといにならないように強くなろうと思って頑張ってきた……けど、このままじゃ足りない)
今日までナイの隣に立つためにリーナは頑張って自分を鍛えて磨き上げてきた。しかし、このまま鍛錬を続けてもナイとの実力差は縮まるどころか突き放されてしまうと彼女は考えていた。
肉体を鍛える鍛錬だけではナイに追いつけず、いったいどうすればいいのかと悩んだリーナはガオウやハマーンに協力してもらって合同訓練を行った。他の黄金級冒険者と共に鍛える事で何か成長の切っ掛けを掴めないのかと彼女なりに頑張ってきたが、今の所は成果は無い。
(どうすればいいんだろう……ナイ君)
ここまで訓練してもナイとの力の差を縮める方法は分からず、彼女は疲れた表情を浮かべて座り込もうとした時、不意にリーナは自分の持つ蒼月に視線を向ける。
(えっ?蒼月……?)
まるでリーナの意思に応えるように蒼月の刃が光り輝き、この時にリーナはある事を思いつく――
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