特別編第69話 《今後の方針》

――ナイとライトンの素晴らしい試合を通して巨人国の兵士達は心を開き、あれほど熱い戦いを見せたナイと彼を連れてきた討伐隊は受け入れられる。ここから先は巨人国や王国という立場を捨て、共に戦う仲間として討伐隊は受け入れられた。


これからは王国軍と巨人国軍は一体となって共に土鯨の討伐を行う事が正式に決定し、今後の方針を話し合う。当初の予定では巨人国軍は王国から砂船を動かすのに必要な風属性の魔石を受け取った後は土鯨の捜索を再開する予定だった。しかし、イリアが持って来た魔物図鑑の資料によると土鯨を引き寄せる方法がある事が記されていた。



「この図鑑によれば土鯨が餌として好むのは地属性の魔石です」

「地属性の魔石?そんな物を土鯨は好むのか?」



地属性の魔石は世界中の何処にでも存在するが、地面を深く掘りつくさなければ手に入らない。逆に言えば地面を掘り起こせばどんな場所でも簡単に手に入る代物ともいえる。



「土鯨の好物は地属性の魔石ですが、地属性の魔石は大地に栄養を与えます。とある実験で地属性の魔石を掘り起こした地域では植物が育ちにくいという記録があります」

「ん?つまり、どういう事だ?」

「要するにこのアチイ砂漠が誕生した原因は土鯨が関わっているかもしれないという事です」

「まさか……土鯨がこの地方の地属性の魔石を食い尽くしたせいで大地に栄養が無くなり、砂漠と化したと言いたいのか?」



イリアの言葉に全員が驚愕の表情を浮かべるが、彼女によるとアチイ砂漠の歴史を調べると土鯨が発見された時期と重なるという。



「私もまさかとは思いましたが、このアチイ砂漠が誕生した時期と土鯨が確認された時期が重なるんです。それにこの砂漠では地属性の魔石の発掘は行われましたか?」

「いや……そんな話、聞いた事もないな」



アチイ砂漠ではどれほど深い地層であろうと地属性の魔石は発見されず、いくら掘り起こしても今までに一度も地属性の魔石は発見されなかった。その事を踏まえるとイリアの予想は間違っているとは言い切れない。


しかし、アチイ砂漠は数百年前から存在する砂漠であり、土鯨がもしもアチイ砂漠を作り出した原因だとすれば確かに竜種に匹敵する「災害種」だった。



「仮にこの砂漠を作り出したのが土鯨だとしたら、私達はとんでもない相手と戦うという事です。覚悟はできていますか?」

「ふん、愚問だな」

「ああ、今更何を馬鹿な事を言っている」



イリアの言葉を聞いてもテランとバッシュはのこのこと引き下がるつもりはなく、むしろ砂漠を作り出した元凶と知って増々テランはやる気を起こす。



「この砂漠のせいで大勢の民が苦しめられた……大地に栄養がないせいでここでは農作物もまともに育たない。だが、もしも土鯨を倒す事ができれば砂漠は元に戻るのか?」

「残念ながらそれは無理でしょうね、土鯨を倒しても栄養を吸いつくされた大地は元に戻るまで相当な時間が掛かります。それでもこれ以上に砂漠が広がるのは阻止できるとは思いますが……」

「それならば十分だ」



土鯨を倒した所で広域化した砂漠は元に戻る事はないが、それでもこれ以上に砂漠は広がる事はないのであれば戦う価値はあった。テランは土鯨が地属性の魔石を餌にしていると知り、それを逆に利用して罠を用意できないのか尋ねる。



「地属性の魔石を用意して奴を引き寄せる事はできるのか?」

「可能性は十分にあります。ですけど、土鯨を引き寄せるとなると相当な数の地属性の魔石が必要になりますよ」

「となると……地面を掘り起こして魔石を集める必要があるわけか。相当に時間も手間もかかりそうだな」



イリアの話を聞いてアルトは眉をしかめ、土鯨を誘き寄せるとしたら最低でも地属性の魔石は100個は用意しなければならず、それだけの魔石を用意するにはかなり深い地層まで地面を掘り起こさなければならない。


この砂漠では地属性の魔石は土鯨に喰いつくされている事を考えると、まだ砂漠化していない地域に移動して地面を掘り起こす必要がある。だが、それでは兵士達に相当な労力と時間を強いる事になるが、話を聞いていたテランは笑みを浮かべた。



「力仕事ならば我々の出番だ……1日もあれば必要分の魔石を用意できる」

「えっ!?」

「それは本当か?」

「我々の力が信じられないのか?」

「……愚問だったな」



テランの言葉にバッシュは笑みを浮かべ、巨人国の大将軍であるテランがここまで豪語するのであれば信じるしかない。彼も絶対の自信があるからこその発言であり、問題があるとすれば巨人国の兵士達をどうやって砂漠がない地方まで移動させるかだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る