外伝第1話 古城

――迷宮都市にてリーナとイリアの救出に成功してから一か月後、迷宮都市には大勢の人間が集まっていた。彼等の殆どが工場区で働く鍛冶師達であり、彼等の目的は古城に隠されていた希少素材の回収だった。


迷宮都市の古城内には前時代から残されていた希少な素材が多数残っており、その中には飛行船の核となる「浮揚石」と呼ばれる魔石も存在した。この浮揚石は王都に保管されている飛行船にも利用されている素材であり、この浮揚石を使用すれば新しい飛行船を造り出す事も不可能ではない。


飛行船の建造はこれまでは一度しか行われなかったが、その理由は素材の問題があって一隻しか作れなかったに過ぎない。しかし、飛行船を動かすために要となる「浮揚石」そして飛行船の動力である「火竜の経験石」は既にどちらも王国は確保している。


この二つを利用して王国は新しい飛行船の開発を決定し、もしも飛行船の開発に成功すれば王国の発展に繋がる。そのために古城には大勢の鍛冶師が押し寄せ、素材の検分と回収を彼等に任せる。



「よし、見つけた素材はどんどん外に運び込め!!魔物に襲われる心配はない、何があろうと王国騎士団が守ってくれるからな!!」

「親方!!こっちの方に隠し扉がありましたぜ!!」

「よし、すぐに確認に向かう!!儂が来るまで勝手に入るな、こういう城の中には罠も多いからな!!」



古城に訪れた鍛冶師の中には元黄金級冒険者のハマーンも含まれ、彼の指揮の元で工場区で働く鍛冶師達は古城内に残されていた希少素材の回収を行う。古城には侵入者対策の罠も多く、それらの対処は王国騎士団が担当した。



「うわぁっ!?お、親方!!隠し扉からガーゴイルが現れました!!」

「シャアアッ!!」

「いかん、誰か来てくれ!!」



隠し扉を発見した鍛冶師達は悲鳴を上げながら部屋から出ていくと、隠し扉の先に待ち構えていたガーゴイルが飛び出す。ガーゴイルが現れるとハマーンは咄嗟に自分の鉄槌を取り出すが、彼が動き出す前に動く二人の騎士が存在した。



「烈風斬!!」

「爆槍!!」

「ギャアアアッ!?」



ガーゴイルが現れた途端に風の刃と爆炎の槍を手にしたリンとドリスが現れ、二人の攻撃によってガーゴイルは首を斬られ、肉体は粉々に吹き飛ぶ。あまりにも見事な連携攻撃でガーゴイルを倒したリンとドリスだったが、二人はお互いの顔を見ると不機嫌そうな表情を浮かべる。



「邪魔をするなドリス!!私一人で十分だった!!」

「いいえ、ガーゴイルが相手なら私の方が適任ですわ!!核ごと吹き飛ばすだけですもの!!」

「まあまあ……落ち着け二人とも」

「す、すげぇっ……」

「あのガーゴイルを一発で……なんて強さだ」



言い争いを始めるドリスとリンをハマーンは宥め、他の者達は唖然とした表情で倒されたガーゴイルに視線を向けた。二人とも2年前よりも更に腕を上げており、本来ならば黄金冒険者でも手こずる相手を一瞬で粉砕した。


ナイ以外の人間もこの2年の間に着実に実力を磨き、特にリンとドリスは現在では猛虎騎士団のロランにも匹敵する実力を身に付けたのではないかと言われている。実質的にロランは引退しているため、現状では王国騎士団の中でも最強なのはこの二人のどちらかと言われている。



「丁度いい機会だ……この際にどちらの腕が上か決めてやろうか!?」

「望むところですわ!!」

「だから止めんか!!全く、顔を合わせる度に喧嘩しおって……」

「「だってこいつ(この方)が!!」」

「……そこまでにしろ」



任務中にも関わらずに喧嘩を始めようとしたドリスとリンの前に黒狼騎士団団長のバッシュが現れる。流石の二人も第一王子である彼が登場すると会われて跪き、ハマーン技師もバッシュが直々に現れた事に驚く。



「バッシュ王子……どうしてここに?」

「進捗状況の確認に来た。調子はどうだ?」

「なるほど……見ての通り、順調とは言い難いですな」



バッシュの言葉にハマーンは難しい表情を浮かべ、素材回収のために訪れてから一か月が経過しているが予想以上に侵入者対策の罠が多く、思うように素材の回収は進んでいない。


迷宮都市がまだ王都と呼ばれていた時代、この古城は魔物の外部の侵入対策として色々な罠が仕掛けられていた。特に宝物庫の方は頑丈な魔法金属製の扉が塞がっており、未だに開ける事ができずに中の確認が行えない。



「宝物庫はまだ開かないのか……」

「儂等もどうにか開錠しようと試みてますが……やはり、鍵がないと飽きませんね」

「鍵、か」



宝物庫の巨大な扉の前にハマーンとバッシュは立ち尽くし、彼等の視界の先には巨大な鍵穴が映し出された。この宝物庫を開くためには通常の鍵の数十倍ほどの大きさの巨大な鍵が必要だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る