第844話 同じ瞳
(この人の目、何処かで……あっ)
ナイはシャドウの瞳を見て思い出した。彼の瞳はまるで陽光教会に世話になっていた頃のナイと同じ瞳をしていたのだ。アルを失い、その復讐のためにナイはビャクと共に赤毛熊に挑み、勝利を果たした。
しかし、村に戻った時にはゴブリンの群れによって村人は全員殺され、親友であるゴマンも、アルが亡くなった後は色々と面倒を見てくれた親切な村の人たちも全員が死んでしまった。養父の復讐を果たすためにナイは村を出てしまったせいで村人を守る事もできず、大切な人々を失う。
その後のナイは自暴自棄となって陽光教会へ訪れ、他の人間との接触を避けるために教会の元で世話になった。以前に聞かされた話は「忌み子」のナイは隔離されるはずだったが、ヨウは彼を放ってはおけないと判断して教会で育ててくれた。
教会で世話になっていた頃、ナイは毎朝顔を洗う事を義務付けられていた。この時にナイは顔を洗う際に水桶の水面や鏡で自分の顔を見た時、とても酷い顔をしていた。生きる目的もなく、他人に言われるがままに生きている自分自身に嫌気を差し、希望を失っていた頃の自分の瞳の色は今でも忘れられない。
シャドウに何が起きたのかは分からないが、ナイは彼を一目見ただけで彼の人生で大切な人を失ったのだと勘付く。しかし、ナイとシャドウの違う点はその人間のためになすべき事が残っており、彼はナイ達と向き合う。
「ロラン、それにナイ……やっぱり、お前等が最初にここへ来たか」
「シャドウ……いや、叔父上よ。降参しろ、もうこれ以上の抵抗をしても無駄だ」
「ふんっ……叔父上か。懐かしい呼び方だな」
シンの息子であるロランからすればシャドウは叔父に当たり、そんなロランに対してシャドウは自嘲する。ロランは双紅刃は失ったが、それでも部下から剣を借り受け、シャドウに剣先を構えた。
「大人しく投降するのであれば命は奪いません。しかし……逆らうのであればここで切り伏せます」
「俺を斬れるのか?お前に?」
「……斬れぬとでも思っているのですか?」
ロランはシャドウに対して叔父として対応するが、彼の返答によってはこの場で殺す事を躊躇しない。今回の事件が終わればロランも大将軍の任を降りてシンとシャドウという存在を知りながらそれを放置していた責任を取らされるだろう。
しかし、今の彼はまだ大将軍の地位に就いており、この国を守るために彼は大将軍の任を最後まで全うするつもりだった。ロランはシャドウに降伏を勧めるが、答えは既に分かり切っていた。
「断る……こんな場所で俺は死ぬわけにはいかないんだよ」
「そうですか……ならば、覚悟!!」
「ロランさん!?」
シャドウの返答を聞いてロランは剣を構えると、シャドウに向けて駆け出す。それを見たナイは何故か止めなければならないと思い、慌てて彼に手を伸ばした。そのナイの判断は間違っておらず、シャドウの足元の影から漆黒の巨人が出現した。
『無駄だ』
「くっ!?」
「か、影!?」
「これは……影魔法か!?」
「団長、御下がりください!!」
漆黒の巨人の中にシャドウは取り込まれ、ロランが放った剣は巨人に弾かれてしまう。このシャドウの影から作り出された巨人はあらゆる物理攻撃が通じず、この影を倒す方法は聖属性の魔力で攻撃するしかない。
影魔法をまともに見るのはナイも初めてであり、それでも本能的にナイは旋斧を引き抜くと、自分の聖属性の魔力を送り込んで魔法剣を発動させる。もうモモの煌魔石の魔力は残っておらず、彼が頼れるのは自分の魔力だけだった。
「はぁあああっ!!」
『ちぃっ……』
旋斧を光り輝かせながら迫りくるナイを見てシャドウは舌打ちすると、咄嗟に巨人の腕を交差させて彼の旋斧の刃を受け止めた。闇属性の魔力と聖属性の魔力がせめぎ合い、ナイは後方へ弾かれてしまうがシャドウの方は自分の腕に血が滲む。
「うわっ!?」
「ナイ!!」
『ぐうっ……痛いな』
影の巨人の腕を切りつけた瞬間にシャドウ自身も傷を負い、彼が作り出す影人形に損傷を与えれば本体にも損傷を与えられる事が判明した。
影魔法は自分の影を自由自在に操れるが、仮に影が聖属性の攻撃で傷を負えば本体にも影響が生まれる。物理攻撃には無敵ではあるが、聖属性の魔力を宿した物体は別であり、旋斧の魔法剣が最も有効的だった。
(この人は敵だ……倒すしかないんだ!!)
ナイはシャドウと向かい合い、この場でシャドウを倒せるのは自分だけだと確信する。もうロランは武器を失い、他の騎士達も魔法剣は扱えず、この場でシャドウに有効的な攻撃を与えられるのは自分だけだと気付く。
(そうだ、倒すしかない……倒さないといけない、けど……!!)
リョフとの戦いを思い返し、彼と比べればシャドウは恐ろしい存在とは思えない。しかし、どうしてもナイはシャドウの瞳が気にかかり、斬る事を躊躇ってしまう。そんな彼の様子を見てロランが声をかけた。
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