第813話 認めない、認められない

(また人が死ぬ……僕のせいで)



ロラン達に向けてリョフは雷戟を振りかざし、その光景を見たナイは我慢できずに煌魔石から魔力を吸収し、心の中でモモに謝る。



(ごめん、モモ……使わせてもらうよ!!)



煌魔石に宿った魔力を全て使いつくす勢いでナイは体内に魔力を吸収すると、一気に失われていた魔力を取り戻す。更にその状態でナイは魔力を引き出して身体に宿すと、全身に白炎を纏う。


ナイは側に落ちていた旋斧を拾い上げると、岩砕剣と旋斧を両手に構えて騎士達の背中を飛び越して上空へと移動を行う。この際に彼の姿を見たリョフは驚き、既に彼は雷戟を振りかざしていた。



「うおおおおっ!!」

「なにぃっ!?」

『うわっ!?』



上空へ跳躍したナイはリョフに目掛けて両手の大剣を振りかざし、その攻撃に対して咄嗟にリョフは雷戟で受けた。その瞬間に雷戟から迸っていた黒雷が周囲に拡散し、他の者達は慌てて距離を取る。


空中にて二つの大剣の刃を重ね合わせてリョフの雷戟に叩き付けたナイは、旋斧を握りしめる方の手の力を強め、旋斧の能力を発揮させた。



「喰らえっ、旋斧!!」

「なにぃっ!?」



旋斧は主人ナイの言葉に反応するかのように雷戟から放たれる「黒雷」を吸収し、刀身の黒雷を纏う。自分の雷戟に宿した電流が消えた事にリョフは戸惑うが、その隙にナイは地上へ着地すると黒色の雷を纏った旋斧を見て頷く。



(凄い魔力だ……けど、大丈夫。今の旋斧なら使いこなせる!!)



旋斧に宿った黒色の雷を見てナイは頷き、進化した旋斧ならば二つの属性を併せ持つ魔力だろうと吸収し、使いこなせると確信していた。そしてナイは旋斧を振りかざすと、リョフに向けて放つ。



「リョフ!!」

「ぐうっ!?」



リョフは雷戟で咄嗟に旋斧を受けるが、この時に電流が迸ってリョフの身体に流れ込む。常人ならば一瞬にして黒焦げになる程の電圧だが、死霊人形であるリョフには通じない。


旋斧が吸収したのが元々はリョフの魔力を吸い込んで作り出された電流という点もあり、リョフに対して大きな影響を与えない事はナイも予測していた。それでも人体に電流を流し込めば身体がまともに動くはずがなく、電流を浴びた途端にリョフは硬直する。この隙を逃さずにナイは岩砕剣を振りかざし、強烈な一撃を叩き込む。



「うおおおおおっ!!」

「がはぁっ!?」



初めてリョフは攻撃を受けて悲鳴らしき声を上げ、漆黒の鎧が崩壊する程の一撃を受けて倒れ込む。リョフが装備していた鎧は破壊され、粉々になって砕け散る。いくら闇属性の魔力でも砕けてしまった鎧の修復は瞬時に行えず、生身の状態になったリョフは地面に転がり込む。


ナイは旋斧に身に付けていた黒色の雷が消えた事を確認し、これでも魔法剣は当てにはできない。その一方でリョフの方は鎧を引き剥がされるが、死霊石を破壊しなければどんな怪我を負おうと彼が倒される事はないため、すぐに起き上がる。



「おのれ、小僧がぁっ……」

「まだ立てるのか……けど、これで終わりだ」

「舐めるなっ!!」



リョフに対してナイは両手の大剣を構えると、怒りで我を忘れたリョフは雷戟を握りしめ、再び電流を纏う。もう完全に理性を失っており、あれほど能力の発動を嫌っていたというのに今では躊躇なく雷戟の能力を使用する事にためらいはない。


相手が武人であるならばリョフも武人としての誇りで雷戟の能力は使用せず、正々堂々と戦った。自分と同じ武人であるのならば敗れたとしても本望であり、自分を越える武人が現れたと納得はできる。


しかし、リョフの目から見ればナイはどうみても一流の武人とは程遠く、それでいながら自分を追い詰める程の力を持つ存在だった。リョフはどうしてもナイの力を認める事ができず、彼に対しては雷戟の能力を躊躇なく使う事に躊躇わない。



(傭兵でも冒険者でもない……狩人だと?ふざけた事を……この俺が狩人如きに後れを取るか!!)



ただの狩人だと名乗るナイに対してリョフは今までにない怒りを抱き、彼に負けるという事は自分だけではなく、これまでにリョフと戦って散っていた数多の武人に合わせる顔がない。


しかし、その一方でリョフはナイの力に恐れを抱いていた。彼は決して一流の武人ではないが、それでも最強の武人と恐れられた自分が追いつめられているという事実にリョフは頭の理解が追いつかない。



(認めない、こんな奴を俺は……認めないぞ!!)



リョフは得体の知れぬ力を持つナイに対して生まれて初めて人間を相手に恐怖を抱き、その恐怖に打ち勝つためにリョフは雷戟を振りかざす。しかし、そんな彼に対してナイは既に覚悟を決めていた。


両者はお互いに向き合うと、しばらくの間は動きがなかった。その様子をロランと彼の配下の騎士達は緊張した面持ちで見守っていたが、先に動いたのはロランの方だった。

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