第807話 父と子

「くそ、くそ、くそがぁっ!!何でだ、何でお前みたいなクズがここにいて、あいつが死なないといけないんだ!!」

「……それがあの子の意思なのだろう」

「うるせえっ!!お前がシンの事を語るな!!」



本来の計画ではシンはシャドウが操る父親の死霊人形を替え玉にして、シンの息子であるロランに死霊人形を討たせる事により、彼を英雄として仕立て上げるつもりだった。


父親を犠牲にしてシンは密かに生き残り、今後はシャドウと共に裏社会で生きてこれまで通りに裏から国をのが彼の計画だった。だが、計画はイリアとイシの裏切りによって失敗し、結局は彼は自決してしまう。


シャドウからすれば何が何だか分からず、どうして憎んでいた父親がここに存在し、そして自分が最も信頼していた弟が死んでいる事に彼は子供の用にかんしゃくを起こす。



「があああっ!!」



シャドウは父親に対して杖で殴りつけるが、父親は避ける素振りすらない。死霊人形と化した時点で父親はシャドウには逆らう事が出来ず、そもそも逆らえたとしても父親はシャドウを止める事はしなかっただろう。



「くそぉっ……ふざけるな、どいつもこいつも俺を置いて逝きやがって……」

「だが……これがあの子の選んだ道だ」

「知った風な口を利くな!!あんたは俺達の事をただの道具としてしか思っていなかっただろうが!!今更父親面するんじゃねえっ!!」

「……すまぬ」



シャドウの言葉に父親は何も言い返せず、シンとシャドウは幼少期の頃からこの国を裏から支配する存在にさせるため、父親は厳しい教育を行う。しかもシャドウに至っては目覚めた能力と体質のせいで表の世界では生きていけないと判断すると、裏社会に送り込む。


裏社会に送り込まれたシャドウは何度も死にかけたが、一度として父親から助けられた事はなかった。だからこそ、彼は復讐を誓って父親を殺害した。しかし、結局は父親の役目はシンが受け継ぐ形となる。



「俺も、あいつも……お前のせいで人生を狂わされた。今更、父親ぶるな!!」

「シャドウ、儂は……」

「うるせえっ!!」



まだ何か語り掛けようとする父親に対してシャドウは胸元に手を伸ばすと、彼を動かす動力源の死霊石を掴み取る。この死霊石を奪い取ればもう二度と父親は蘇る事は出来ず、シンは怒鳴りつけた。



「あんたは用済みだ、失せろ」

「頼む、これだけは言わせてくれ……確かに儂はお前達の事を愛する事が出来なかった。だが、それでも儂は……」

「黙れ、傀儡が」



最期の言葉を言い終わらせる前にシャドウは死霊石を抜き取り、次の瞬間には父親の死体は腐敗化し、一瞬にして灰と化して崩れ去る。その様子を見届けたシャドウは死霊石を握りしめ、内部に蓄積していた闇属性の魔力を奪い取る。


結局はシンとシャドウの父親が二人の息子に対してどんな感情や気持ちを抱いていたのかは伝える事もできず、完全にこの世から消えてしまう。だが、シャドウからすれば父親の事などどうでもよく、彼は最後のシンの残した計画を実行する事にした。



「あの世で見ていろよ……俺もすぐに行く」



シャドウは口元から血を流し、流石に複数の死霊人形を作り出すのは肉体に無理があった。いくら夜を迎えて本来の力を取り戻したと言っても、シャドウには限界があった。


それでもシンの最後の計画だけは果たす必要があり、彼へのけじめとしてシャドウは二つの棺桶に魔力を注ぎ込む。この二つの棺桶に眠るのはこの国でも歴代最強と呼ばれた剣士と魔導士の死体が入っており、その内の一つが完全に復活を果たす。



「ここ、は……」

「目が覚めたか……こうして顔を合わせるのは久しぶりだな」

「その声は……まさか……!?」



棺桶の一つが内側から開かれると、やがてローブを纏った老人が姿を現す。彼は頭を抑えながらも自分の身体の異変と、そして目の前に立つシャドウを見て目を見開く。



「あんたには働いてもらうぜ、さんよ」




――シャドウの目の前にはグマグ火山にて魔力を使い果たし、死んだはずのマジクの姿が映し出されていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る