第806話 シャドウの覚悟

――同時刻、下水道に存在する地下の施設にてシャドウは瞑想を行っていた。時刻は遂に夜を迎え、シャドウが最も魔力が高まる時間帯を迎えた。


瞑想を行うシャドウの周囲には二つの棺桶と、更に地上から回収した2体の魔物の死骸が存在した。2体の魔物はナイに倒された「リザードマン」と「リザードゴブリン」であり、彼はリョフを利用してこの二つの死骸をこの場所まで運び込む。


リョフとシンに瓜二つの姿をした老人の死霊人形は並んでシャドウの様子を伺い、やがてシャドウは目を見開く。彼は立ち上がると、全身から闇属性の魔力を放出させ、事前にの死体に埋め込んだ死霊石に魔力を送り込む。



「甦れ」



言葉を発した瞬間、シャドウの全身から放出される闇属性の魔力が慕いに注ぎ込まれ、死体の胸元に埋め込まれた死霊石が反応し、最初に起き上がったのはリザードマンとリザードゴブリンだった。



「ガアアッ!!」

「グギィッ……!!」

「ふんっ……流石に、すぐに蘇ったか」



リザードマンとリザードゴブリンは真っ先に蘇り、傷口の部分は闇属性の魔力によって覆われ、やがて全身が黒色化していく。2体の化物は全体が黒く染まり、生前の時よりも禍々しい気配を発する。


その一方で棺桶の中に眠る二つの死体に関しては今の所は反応は示さず、シャドウが魔力は送り続ける。すると棺桶が僅かに動くが、死霊人形とかした死体が出てくる様子はない。



「ちっ……流石にこいつらはそう簡単には蘇られないか。まあいい、それならあんた等に動いてもらうか」

「シャドウ……貴様の目的は何だ」

「大分普通に喋れるようになったな。それだけ力を取り戻したという事か……」



リョフは昼間の時と比べると普通に話せるようになり、肉体のほうも黒色化しているとはいえ、全盛期の彼の肉体と同じ状態にまで戻っていた。これはシャドウの魔力が安定した事を差しており、シャドウに操られている死霊人形は彼の影響を受けるため、もしも魔力が安定しない場合はシャドウの身に何か起きた事を示す。


夜を迎えた事でシャドウは太陽という最大の天敵が消えた事により、真の能力を発揮させる事が出来た。余談だが、火属性の魔法の使い手が最も力が発揮しやすい場所は火山や砂漠などの熱帯地方であり、水属性の魔法の使い手は極寒の環境や水場が近い場所でこそ真価を発揮すると言われている。


闇属性の魔法の使い手であるシャドウの場合は夜こそが彼の真の力を発揮できる時間帯であり、この状態のシャドウの魔力は昼間の数倍以上にまで跳ね上がる。本来の力を取り戻したシャドウは残りの死霊人形の復活のため、もうしばらくはここに居る必要があった。



「リョフ、あんたにはもう少しだけ働いてもらうぜ。どうせが最後だ。ここから先は好きなように動け」

「……俺の決闘の邪魔をするつもりはないだろうな?」

「ああ、あんたがしっかりと役目を果たせればな」

「いいだろう……だが、もしもまた邪魔をするようであれば何があろうとお前を殺すぞ」



リョフの言葉にシャドウは笑みを浮かべ、そんな彼に対してリョフはシャドウに事前に与えられた指示通りに動く。彼が地下施設から出ていくと、残されたのはシャドウと老人だけであり、そんな彼にシャドウは語り掛ける。



「くそが……何時見てもむかつく顔だな、何時まで黙っているつもりだ」

「……お前達に話す事はもう何もない」

「ふざけるな!!」



遂にシンと瓜二つの姿をした老人が口を開くと、その言葉を聞いてシャドウは怒鳴りつける。この老人の正体はシンの替え玉としてシャドウが用意した実の父親だった。


この国の先代の宰相にしてシンとシャドウの実の父親であり、ロランからすれば祖父に当たる人物である。シンを宰相にするために育て上げ、同時にシャドウを裏社会に送り込んだ人物でもある。


シャドウからすれば恨みしかない人物だが、今回の計画のためにはどうしても彼の死体が必要であるため、仕方なく死霊人形として蘇らせた。だが、結局は彼の役目を果たす前にシンは死んでしまった。





――昼間にて王城で爆死したシンは実は死霊人形の替え玉などではなく、シン張本人だった。彼は自分の命を絶ち、そして後の事はシャドウに託して死んでしまったのだ。

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