第792話 三つ巴

「退け!!道を開け!!」

「えっ……も、猛虎騎士団!?」

「まさか、大将軍!?」



冒険者達と警備兵は突如として現れた猛虎騎士団に慌てふためき、警備兵は即座に膝を着く。リノは動揺しながらも猛虎騎士団と向かい合うと、先頭を走っていたロランが馬から降りる。


ロランの迫力に冒険者も警備兵も圧倒され、王女であるリノでさえも緊張感を抱き、この状況下で現れた彼に戸惑う。ロランはリノの姿を確認し、更に倒れている聖女騎士団を見ると、やがて彼は口を開く。



「全員、連れていけ」

『はっ!!』

「お、お待ちください!?ロラン大将軍!!」

「……も保護しろ」



倒れている聖女騎士団に近付こうとする猛虎騎士団の騎士達を見てリノは止めようとしたが、この時に彼女も連れて行くようにロランは指示を出す。しかし、その話を聞いていたルナが駆けつけ、彼に向けて駆け出す。



「皆に近付くな!!」

「ルナ!?止めなさいっ!!」

「むっ……」



ルナは戦斧を掲げてロランに向かうと、それを見たロランは彼女が振り翳した戦斧の柄の部分を掴み取り、正面から受け止める。ナイと同様に「剛力」の技能を持つルナの一撃をロランは正面から受け止め、彼女は信じられない表情を浮かべた。



「なっ……こ、このっ!!」

「愚か者が……相手を選べっ!!」

「うわぁっ!?」

「ルナ!?」



いくらルナが力を込めようと戦斧は引き剥がせず、それどころか彼女からロランは戦斧を奪い取ると、柄の部分で彼女の身体に叩き付ける。自分の戦斧で反撃を受けたルナは吹き飛び、地面に転がり込む。


ロランは手にした戦斧を放り投げ、改めてリノの元へ向かう。この時に彼女は剣を構えたが、到底自分の及ぶ相手ではない。なにしろロランは現在の王国騎士団の団長と副団長の「師」に等しい存在であり、テンでさえも及ばない実力者である。



「リノ王子……いや、今は姫様と呼ぶべきかな」

「くっ……近寄らないでください!!」

「姫様、私は……むっ!?」



ロランはリノに近付こうとした瞬間、彼は表情を一変させて上空を見上げる。その様子を見てリノは顔を上げると、そこには建物の屋根の上から降り立つナイの姿が存在した。



「リノ王女様!!」

「貴方は……ナイ!?」

「ナイ……あれが噂の?」



ナイは地上に降り立つと急いでリノの元へ向かい、彼女とロランの間に割って入る。ロランの耳にもナイの噂は届いており、曰く「巨鬼殺し」などと噂されている少年だと聞いていた。


冒険者でもなければ王国騎士でもなく、それなのに火竜、ゴーレムキング、ゴブリンキングなどといった災害級の魔物を打ち倒した剣士だと聞いていたロランだが、実際にナイの姿を見て戸惑いを隠せない。



(まだ子供ではないか……だが、この気配は只者ではないな)



ロランは一目見ただけでナイが只者ではないと察し、その一方でナイの方はロランが「漆黒の鎧」を纏っている事に気付いて冷や汗を流す。事前に聞かされたドルトンとイーシャンの伝言を思い出す。



『ヨウの奴がお前が漆黒の鎧を纏った剣士に殺される夢を見たそうだ』

『うむ、正確に言えば頭に刃を振り下ろされた光景で夢が途切れたと言っておったな……気を付けるのだぞ』



漆黒の鎧という単語を聞いた時、ナイは真っ先に思いついたのは黄金級冒険者であるゴウカだったが、リノの前に現れたロランも漆黒の鎧を纏っており、まさか自分の命を奪う相手とはロランの事かと焦りを抱く。



(この人……強い)



ロランの迫力だけでナイは途轍もない実力者だと悟り、その一方でロランの方はナイに視線を向け、彼が背負っている二つの大剣に興味を抱く。どちらもロランが見た事もない魔剣であり、彼は笑みを浮かべる。



「面白い……お前達は下がっていろ、俺が相手をする」

「大将軍!?」

「お前達は手を出すな!!手を出せば俺が切る!!」

「ナイ、駄目です!!その方は……」

「……下がっててください王女様」



ナイはロランの言葉を聞いて戦闘は避けられないと判断し、背中の大剣を引き抜く。するとロランはここで彼も武器を取り出す。


大将軍ロランが扱う武器は「両剣」であり、柄の両端に刃が取り付けられた武器である。この武器の中央部分には地属性の魔石が嵌め込まれており、正式名称は「双紅刃」と呼ばれていた。

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