第763話 吸血鬼の悪あがき

「うわ、凄い……一気に楽になった。これが仙薬か、イーシャンさんも凄いのを作ったな」

「ギアアッ……」

「……まだ動けたか、止めを刺しておかないと」



仙薬によって回復したナイはゴブリンキラーの鳴き声を耳にすると、感電はしたがまだ生きていたらしく、オークの死骸を退けて立ち上がろうとするゴブリンキラーの姿が存在した。


ゴブリンキラーは身体を震わせながらも戦意は衰えておらず、ナイを睨みつける。この際にゴブリンキラーは落ちている旋斧に視線を向け、笑みを浮かべて旋斧に手を伸ばす。



「ギアアッ……!!」

「あ、それは……止めといたほうがいいと思うけどな」

「アグゥッ……!?」



しかし、旋斧に触れた途端にゴブリンキラーは目を見開き、思うように身体が動けなくなった。ゴブリンキラーは必死に旋斧を持ち上げようとするが、まるで旋斧が重量を増したかのように動かす事が出来ず、ゴブリンキラーは信じられない表情を浮かべた。




――ゴブリンキラーが旋斧を持ち上げられないのは旋斧の重量が増したわけではなく、正確に言えば旋斧に生命力を奪われているからであった。旋斧は触れた存在の生命力を奪う機能を持ち合わせ、その生命力を糧に成長を続ける。




ゴブリンキラーは旋斧を触れたせいで生命力を奪われ、徐々に力を失っていく。その様子を見かねたナイは岩砕剣を振りかざし、ゴブリンキラーに止めを刺す。



「くたばれっ!!」

「グギャアアアッ!?」



岩砕剣の刃がゴブリンキラーの胴体を突き刺し、背中まで貫通する。心臓を貫かれたゴブリンキラーは断末魔の悲鳴を上げ、やがて動かなくなるとナイは岩砕剣を引き抜き、旋斧を手にした。


外見が赤毛熊と姿を被っていたのでナイは最後の攻撃の時は力を込めてしまい、倒れ込んだゴブリンキラーを見下ろして少しだけ溜飲が下がった。だが、そんな彼に対して背後から近づく人影が存在した。



「このっ!!」

「おっと」



後ろから近付いて来たのは両手に短剣を手にした吸血鬼であり、今まで隠れていたが自分の人形を壊された腹いせか、ナイに向けて短剣を放つ。



「よくも僕の人形達を……殺してやる!!」

「それは無理だよ……だって、君は弱いもん」

「なっ!?に、人間の癖に僕を……うぐぅっ!?」



ナイは吸血鬼に対して無造作に腕を振り払うと、それだけで吸血鬼の顔面に裏拳がさく裂し、派手に吹き飛ぶ。吸血鬼は派手に鼻血を噴き出しながら倒れ込み、意識を失ったのか身体を痙攣させた状態で立ち上がる様子はない。



「は、はひぃっ……」

「嫌、本当に弱いな……」



魔人族の中では最も人間に近いと言われる吸血鬼だが、その分に肉体の強さは他の魔人族程強くはない。剛力も強化術も発動させていないナイの一撃を受けただけで吸血鬼は吹き飛び、鼻血を噴き出して完全に気絶していた。


ため息を吐きながらもナイは闘技場へ視線を向け、ここに他の人間が捕まっていないのか確認する必要があった。ナイは他に魔物が現れる様子がなく、それに吸血鬼が自分から仕掛けてきた事からもう厄介な魔物はいないと考えた。



(この吸血鬼が他に強力な魔物を従えさせていたら、わざわざ自分から襲ってはこないはず……他に強そうな魔物の気配も感じないし、先を急ごう)



まだヒイロやミイナ達が闘技場に到着しない事は少し心配だが、ここに他の人間が捕まっているのならばすぐに助け出す必要があり、ナイは闘技場へと乗り込む。





――だが、この時にナイの様子を見届ける存在が居た。その人物は気配を一切出さず、ナイの様子を建物の上から見下ろす。ナイはこの人物に全く気づかず、建物の中に入り込んでしまった。





※短めですが、切りが良いのでここまでにしておきます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る