第761話 連携
「シャアアッ……!!」
「ギアアッ……!?」
「庇った?魔物が……?」
リザードマンがゴブリンキラーを庇うように立っている事にナイは驚き、これまでに別種の魔物同士が協力して戦う場面など滅多に診た事がなかった。
ナイの記憶の限りではファングに乗り込んで戦うゴブリンも存在したが、あれはゴブリンが一方的にファングを従えているだけであり、お互いを利用しているに過ぎない。しかし、リザードマンの場合は明らかにゴブリンキラーを庇う行動を取った。
(この2匹、そういえば全然争う様子がないな……そうか、あの吸血鬼の能力か?)
今は姿を隠しているが、先ほどナイの前に現れた吸血鬼は他の生物に血を与える事で操る力を持っていた。それを利用してこの2体の魔物を協力させて戦わせている可能性を見出す。
――この時のナイの予想は但しく、より詳しく言えば吸血鬼はこの2体に対して「お互いに殺し合わない事」「力を合わせて戦う事」という命令を下していた。リザードマンもゴブリンキラーもその命令に従い、互いに協力し合って行動する。
リザードマンの肉体は火竜と同様に火属性の耐性も高く、先ほどの火炎の攻撃を受けてもほぼ損傷は負っておらず、むしろ盾代わりになってゴブリンキラーを率先して庇う。
結果的にはゴブリンキラーの損傷は最小限に抑えられ、2体はナイに増々憎悪を抱き、真っ先にゴブリンキラーが反撃を行う。
「ギアアアッ!!」
「嘘だろっ!?」
ゴブリンキラーは先にナイが倒したオークの死骸に手を伸ばすと、死骸が身に付けている鎧を含めれば重量は軽く200キロを超える死骸を軽々と持ち上げ、ナイに向けて放り込む。
砲弾の如く投げ放たれたオークの死骸に対してナイは避けると、後方の建物にオークの死骸が叩きつけられ、壁に亀裂が走った。ゴブリンキラーは懲りずに次々とオークの死骸を持ち上げ、今度は両手を利用して2体を放り込む。
「ギアッ!!」
「うわっ……このっ、いい加減にしろっ!!」
1体は避ける事に成功したが、もう1体の死骸に対してナイは岩砕剣を振りかざし、死骸を切り裂く。だが、その間にリザードマンはナイに接近すると、鋭い牙で噛みつこうとしてきた。
「シャアアッ!!」
「おっと!?」
咄嗟にナイは頭を後ろに下げてリザードマンの攻撃を回避するが、リザードマンは懲りずの牙を何度も繰り出し、ナイの身体に噛みつこうとしてきた。執拗に牙を繰り出すリザードマンに対してナイは前蹴りを食らわせる。
「離れろっ!!」
「ガフゥッ!?」
予想外の蹴り技にリザードマンは腹部を貫かれ、慌てて後ろに引き下がる。この前蹴りに関してはドリスの親衛隊のリンダから教わった技であり、騎士団で訓練を受けた時にリンダからもナイは指導を教わっていた。
剣の戦いでは時には相手を突き飛ばすために蹴り技を放つのがいいと助言され、ナイはリンダの教えが役に立ち、後で彼女にお礼を言おうと考える。そしてこの状況を打破するため、何とか1体を先に仕留めようとした。
「喰らえっ!!」
「シャアッ……!?」
「ギアアッ!!」
前蹴りを受けて後ろに下がったリザードマンにナイは岩砕剣を振りかざすが、その攻撃に対してゴブリンキラーは駆けつけると、オークの死骸から奪ったミスリル製の盾を利用してリザードマンを庇う。
ミスリルの盾はナイの岩砕剣の一撃を受けて大きく凹み、使い物にならなくなった。それでも攻撃を防ぐ事に成功したゴブリンキラーはリザードマンを突き飛ばすと、今度はナイに自らの爪を放つ。
「ギアッ!!」
「うわっ……このっ!!」
本物の赤毛熊のように鋭利に伸ばした爪を振りかざしてきたゴブリンキラーに対し、ナイは咄嗟に反魔の盾を利用して攻撃受ける。その結果、爪が盾に触れた瞬間に衝撃波が発生し、ゴブリンキラーは大きく仰け反る。
「ギャウッ!?」
「喰らえっ……うわっ!?」
「シャアアッ!!」
反魔の盾でゴブリンキラーが体勢を崩した隙にナイは旋斧を振りかざすが、今度はリザードマンが横から割込み、ナイに攻撃を仕掛けて邪魔をする。
片方を攻撃しようとすればもう片方が動き、思うようにナイは戦えない事に苛立ちを抱く。その一方でゴブリンキラーとリザードマンの方は互いの弱点を補い、優位に立つ。
(くそっ……1体ずつなら何とかなると思うけど、連携が厄介だ。早く闘技場の中に行かないといけないのに……)
リザードマンもゴブリンキラーも単体でも厄介なのに連携で行動してくるため、ナイとしてもやりづらい相手だった。しかし、泣き言を言っている暇はなく、即座に2体は次の攻撃を仕掛けてきた。
「シャアアッ!!」
「ギアアアッ!!」
「何だっ!?」
何を思いついたのか、ゴブリンキラーはリザードマンの身体を掴むと、勢いよく回転を行う。その様子を見てナイは驚愕するが、直後にその意味を理解した。
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