第752話 王都の現状

――ビャクの頑張りによってナイ達は予定よりも大分早い時間帯に王都へ到着する事に成功し、偶然にも居合わせていたドルトンとイーシャンから話を伺う。二人によると王都は現在閉鎖されており、中に入る事が出来ないという。


先に王都へ入っていたイーシャンによれば王都の中では白面の集団が至る場所に現れ、騒ぎを起こしていた事を話す。白面以外にも黒色の鎧を纏った剣士が暴れていた光景や、他にも魔物らしき姿を目撃した事を話す。



「王都にも白面が!?」

「それに魔物も一緒に暴れていたなんて……」

「黒い鎧の剣士って……それ、ゴウカさんの事!?」

「俺も何が起きてるのか分からなかったけどよ……どうにか城門が閉じられる前にここへ逃げてきたんだ」



イーシャンから話を聞いたナイ達は驚きを隠せず、既に白面が出現して今度は一般人を襲った事を知る。前回の襲撃は王国騎士団だけだったが、今回は一般人まで巻き込んだ事を知り、流石のアルトも表情を険しくさせる。



「まさか一般人にまで手を出すとは……奴ら、何が狙いだ?」

「それに黒い鎧の剣士って……ゴウカさんが暴れていたなんて信じられない。まあ、ちょっとおかしいところもあるけど、街の人に酷い事をするような人じゃないのに……」



リーナとしてはゴウカが暴れていたという事が信じられず、性格はあれだがゴウカは一般人に危害を加えるような人物ではなく、今回のような事態が起きればすぐに解決に動くはずだった。


しかし、イーシャンによればゴウカは他の冒険者と戦う姿を彼は見たらしく、その相手の中にはガオウも存在した。ガオウとゴウカの戦闘の激しさはイーシャンも遠目で確認しており、あんな光景は忘れないと語る。



「そのゴウカという奴かどうかは知らないが、あれは本当に凄まじい戦いだった……正直、俺は戦闘の事に関しては素人だが、あの二人は普通じゃない事だけは分かった。あれはどう見ても喧嘩なんかじゃねえ、本気の殺し合いだ……」

「……ゴウカの件も気になるが、まずは城壁が閉鎖された事も気になるな。兵士は何か言ってましたか?」

「何度か儂等の方から話しかけてみたが、無視されておる。城門の前の見張りの兵士も消え去り、現在は城壁の上から兵士が見張っておるが、こちらが近付こうとすると弓を構えて脅してくる」

「弓兵まで……いったい、何が起きてるんだ」



事情を聞いたアルトでさえも王都で何が起きているのか分からず、一つだけ言える事は城壁の兵士がそこまでの行動をするという事は、今回の襲撃は白面だけではなく、これまで白面を操っていた黒幕が動き出した可能性が高い事だった。


クーノにて白面が管理していた施設が発覚し、ナイ達の活躍によって施設内の白面は全員捕縛され、更には警備兵の内部にも白面に繋がる人間が居る事が判明した。それら全員を捕まえた途端、今度は王都で騒動が起きた。これは只の偶然とは思えず、何らかの方法でクーノで起きた出来事が王都の白面の組織にも伝わり、今回の事態を引き起こした可能性が高い。



「王子様、例の黒仮面の事ですが……やはり、クーノで拘束した黒仮面と同じ物を身に付けていたようです」

「死体を操って黒仮面を身に付けさせていた所も同じ」

「そうか……という事はクーノに送り込まれた黒仮面と、今回現れた黒仮面の死体を操っていたのは同じ人間である可能性が高いな」

死霊使ネクロマンサーい……の仕業?」

「ああ、恐らくは……イゾウを死霊人形として蘇らせた存在と同一人物だろうね」

「シャドウ……!!」



アルトの言葉に全員に緊張感が走り、死霊使いなど滅多におらず、恐らくは操られていた今回の黒仮面達と、先日にイゾウを死霊人形と化した存在は同じだと考えられ、この事から敵の正体は「シャドウ」である可能性が高い。


しかし、シャドウがこれまでの事件の黒幕かと言われると考えにくく、城門が閉じられて兵士が誰も通さないという点に関してはアルトも疑問を抱く。



「仮に今回の白面の襲撃がシャドウの仕業だとしても、警備兵に城門を閉鎖する理由が分からない。敵を逃がさないためにしてもこんなやり方はおかしい」

「そうですね、という事は城門の兵士達はシャドウと繋がりがあるのでは……!?」

「城門の兵士だけじゃなくて、実はもっと偉い人がシャドウと繋がっていたりして……」

「う、う〜んっ……頭がこんがらがってきたよ」



各々が王都で起きている状況を聞いて誰が何の目的で動いているのか推測するが、現状では黒幕の正体は分からない。しかし、アルトはこれまでの事を思い返し、城壁の閉鎖を命じられる人間が居るとすれば将軍や王族、あるいはそれに次ぐ高位の人間にしか出来ない事から予想を立てる。



(考えるんだ、これまでの出来事を……いったい誰の仕業だ?)



アルトは真剣に考察し、彼が知る限りで怪しい人間を考えた所、真っ先に思いついたのは宰相の顔だった。

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