第750話 得体の知れぬ魔物
「ま、魔物だ!!魔物が現れたぞ!?」
「魔物だと!?」
「どういう事だ!?」
ドルトン達の乗っている馬車は王都の傍で野営を行い、事前に魔物の襲撃を警戒して同行させていた傭兵に見張りを頼んでいた。しかし、王都の前にはドルトン以外の商団の馬車も存在し、各々が冒険者や傭兵を雇っているため、魔物への対策は万全なはずだった。
普通の魔物でも人数が多く、しかも人が暮らす都市の傍で待機する馬車を襲う事は滅多にない。それに冒険者や傭兵達も見張りに付いているとなれば尚更であり、少しでも知恵のある魔物ならば迂闊に近づこうともしないはずである。だが、ドルトンとイーシャンが馬車を飛び出した時には既に何人もの人間が犠牲となっており、いくつも死体が横たわっていた。
「ギャアアアッ!!」
「な、何だこいつはっ……こんなの見た事がないぞ!?」
「ゴブリン!?いや、ホブゴブリンか!?」
「肌の色が赤いぞ……こいつ、亜種か!?」
「毛皮まで生えてやがる!!いったい何なんだ、こいつは!?」
王都の前で夜営を行っていた商団を襲撃したのはホブゴブリンと同程度の大きさを誇り、全身に毛皮を纏った「ゴブリンキラー」だった。以前にナイが倒した個体と同程度の大きさを誇り、その爪がは鋭く、赤毛熊を想像させる。
突如として現れたゴブリンキラーは首元に首輪のような物が取り付けられており、ゴブリンキラーの他にも黒仮面を纏った人物が馬車の上に立っていた。その男は王都で人に使役された魔獣が通過する際、必ず取り付ける事を義務付けられた首輪をゴブリンキラーに装着させていた。
『くくくっ……いいぞいいぞ、やっちまえ!!』
「き、貴様!?そこで何をしてる!!」
「さてはこいつを操っているのはお前か!?」
「おのれ、よくも……うわぁっ!?」
「グギャアッ!!」
鳴き声というよりは悲鳴のような声を上げ、ゴブリンキラーは護衛役として同行していた冒険者や傭兵をなぎ倒す。その様子を見て黒仮面を纏った男は笑い声をあげ、腕輪を構える。
魔獣用に開発された得罰な首輪のせいでゴブリンキラーは首元を絞めつけられ、そのせいでゴブリンキラーは冷静な反応が出来ず、無茶苦茶に暴れ狂う。その様子を黒仮面の男は楽し気に見つめ、それに気づいたドルトンは怒りを抱く。
「おのれ、こいつは貴様の仕業か!!」
「ドルトン、待て!!そいつ何かやばいぞ!?」
『ちっ……人が楽しんでいる所を邪魔するな』
黒仮面の男に迫ろうとしたドルトンだが、それよりも先に黒仮面の男は彼に振り返り、懐から短剣を取り出すと投げつける。それを見たドルトンは咄嗟に左腕で庇うと、金属音が鳴り響く。
「ぬおっ!?」
「うわっ!?だ、大丈夫か?」
「あ、ああ……こいつのお陰で助かったわい」
『あ?腕手甲?なんでそんなもんを……ちっ、面倒くさい』
ドルトンの左腕には彼が特注で作り出した腕手甲が取り付けられ、実はナイに自分がかつて使っていた時に渡した「腕鉄鋼」とは別にドルトンも新しい防具を用意していた。
イチノでゴブリンを殴り倒した時にまだまだ現役の時のように戦える事を思い知ったドルトンは自分の身を守るため、特注の腕手甲を用意しておいた。そして冒険者だった時の癖が再発し、最近では腕手甲を身に付ける事が多く、そのお陰で黒仮面の投げ放った短剣を防ぐ事に成功する。
黒仮面の男はドルトンがどうして腕手甲など装備しているのかと疑問を抱くが、その隙にゴブリンキラーの方は両手で首輪を掴み、力ずくで引き剥がす。
「グギャアアアッ!!」
『ちっ……お遊びはここまでか』
王都へ通る際に魔獣に取り付けられる首輪はそれほど頑丈ではなく、力の強い魔物だと簡単に壊してしまう。だからこそ王都の闘技場に送り込まれる魔物は首輪などわざわざ装着させたりせず、眠り薬などで意識を奪った状態で送り込まれる。
黒仮面は遊びは終わりだとばかりに腕輪を捨て去り、その様子を見ていたドルトンは我慢ならずに彼に向けて腕手甲を構える。その行動にイーシャンも黒仮面も呆気に取られるが、ドルトンは腕手甲に装着していた金具を引き寄せると、拳の部分が飛び出す。
「これでも喰らえっ!!小童がっ!!」
『なっ……ぐふぅっ!?』
「うおおっ!?そんな仕掛けまであったのか!?」
ドルトンは万が一に備えて飛び道具も搭載していたらしく、腕手甲の拳の部分が外れると、勢いよく黒仮面の顔面に叩きつけられる。そのまま黒仮面は馬車の上から落ちると、それを確認したドルトンとイーシャンが駆けつけ、彼を取り押さえようとした。
「何者だ!!あの魔物を操っているのはお前か!?」
「おい、待て……ドルトン、こいつの顔……!?」
『はっ……やるじゃねえか、爺さん』
イーシャンは真っ先に倒れた黒仮面の男の顔を見て青ざめ、ドルトンも彼の顔を見て驚愕した。仮面の男の正体は死体であり、既に顔色も青く、脈も完全に止まっていた。
男の正体は「シャドウ」が死霊術で操作していた死体であり、やがて全身から黒煙のような魔力が湧きだすと、そのまま何処かへと飛び去ってしまう。その様子を見届けたドルトンとイーシャンは唖然とする事しか出来なかったが、二人の背後に拘束から逃れたゴブリンキラーが迫る。
※雨で今日は外に出られなかったので投稿に集中します。(´・ω・)
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