過去編 《シンの父親》
※今回の話は本編に入れる予定でしたが、物語の展開上挟めませんでした。なので過去編として挟みます。決して前に投稿し忘れていた過去編のあまりが見つかったのに気づいて今更投稿したわけではありません……(;´・ω・)シンジテ
――数十年前、まだシンが宰相になったばかりの頃、マジクは彼の家に訪れた。その理由はシンの父親に呼び出されたからであり、彼はベッドの上で横たわっていた。
「病気、ですか?」
「いいや、毒じゃ……何者かに盛られたのかは分かっておるがな」
「毒……!?」
シンの父親が職を辞した理由は病気が原因であり、彼は不治の病にかかったとマジクは聞いていた。しかし、彼によるとそれは虚偽であり、実際は毒を盛られた事を伝えた。
マジクはシンの父親とは昔からの付き合いであり、彼の父親はシンと同様にこの国を支えてきた人物である。しかし、マジクは自分の父親も目の前に横たわるシンの父親も嫌っていた。その理由はこの二人のせいで自分もシンも人生が狂わされたからである。
「貴方に毒を盛ったのは……シンですか?」
「そういう事だ……ぬかったわ、まさかあいつが儂に毒を盛るとはな」
「それは……本心から言っているのですか?」
「……薄々と予想はしていた」
自分が道具として育てていた子供に殺される事はシンの父親も理解していた。なぜならば彼も若き頃に父親をこの手で殺めている。しかも毒殺ではなく、彼はこの手で自分の父親を首を絞めて殺した。
シンがどんな理由で自分に毒を盛ったのか、それは彼が子供の頃から秘めていた自分への復讐心である事は父親も理解していた。何しろ彼も子供の頃に父親を殺しており、その気持ちは痛いほど理解している。
「マジクよ、お主の父親は素晴らしい男だった。儂の右腕としてよく働いてくれた」
「素晴らしい道具だった、の間違いでは?」
「ふっ……そう睨むな、どうせ儂は死ぬ身だ。ならば話せるうちに話しておきたい」
元宰相はマジクの父親とは現在のシンとシャドウのような関係を築いており、国の発展に障害と成りえる存在を何十人も葬ってきた。そのお陰でこの国が発展したと信じているが、実際の所はそれが正しい行為だったのかは誰にも分からない。
死に際を迎えてシンの父親は改めて自分の行為を振り返り、やがて導き出した結論は「分からない」だった。これまでの行動に後悔はないが、だからといって達成感を抱いた事もない。自分がしてきた事が本当に正しい事なのか、それとも誤っていたのか、その判断さえもつかない。
「マジク、最後の頼みを聞いてくれるか?」
「何でしょうか?」
「儂を殺せ……せめて最後ぐらいは父親として子供の重荷にはなりたくはない」
「なっ……!?」
このまま毒で死ねばシンの父親は息子の盛った毒で死んでしまう。そうなればシンは一生父親を殺した男として生き続けねばならない。しかし、ほんのひとかけらほど残っていた父親としての情がシンにそのような運命を背負わせたくはないとマジクに頼み込む。
「お主が儂を憎んでいる事も知っておる……だから、これはお主にしか頼めぬ」
「……ふざけるな!!そんな、そんな勝手な事を……!!」
「お主にとっては儂は父親の仇と知ってもか?」
「なっ!?」
マジクの父親が死んだ理由はシンの父親が与えた任務を果たした後、彼は力尽きて死んでしまった。しかもシンの父親は彼が生きて戻ってこない事を知りながら命令を与えた。
その事を知ったマジクはシンの父親に対し、憎悪を膨らませた。確かに彼は父親の事は嫌ってはいたが、それでもマジクがここまで育ったのは父親が居たからである。父親の死の真相を知ったマジクはシンの父親に掴みかかろうとしたが、もう既にシンの父親の顔色は青く、間もなく命が尽きようとしていた。
「はあっ……はあっ……どうやら、時間切れのようだな」
「さ、宰相!!その胸は……!?」
「そうか、儂を殺そうとしているのは……お主だったのか」
シンの父親は自分の胸に手を押し当てると、彼の胸元には「髑髏」を想像させる紋様が刻まれていた。彼は毒で苦しんでいるのではなく、もう一人の息子によって命を奪われようとしている事に気付き、瞼を閉じた――
――同時刻、屋敷の庭にて一人の男性が立っており、何かを悟ったように空を見上げる。まるで何かを掴もうと空に向けて手を伸ばすが、途中で止めて腕を下ろす。
「あばよ、くそ親父……先に地獄で待っていろ」
シンの弟であるシャドウは父親の死を悟ると、その場を黙って立ち去った――
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