第737話 ゴウカと王女とシノビ
――同時刻、ナイ達がイゾウと交戦した事がある教会の廃墟にはゴウカとリノが向かい合っていた。お互いに瓦礫の上に座ったまま何も話さず、リノは気まずい表情を浮かべると、ここで食料と水筒を手にしたシノビが戻って来た。
「……食料と水を持って来たぞ」
『おおっ、気が利くな!!』
「…………」
シノビはゴウカに対して無造作に骨付き肉を放り込むと、それに対してゴウカは嬉しそうに受け取り、ここで彼は兜に手を伸ばす。この時にシノビとリノはゴウカの素顔を見れるかと思ったが、彼は兜を少し持ち上げた状態で肉に嚙り付き、素顔を見せない。
リノに対してはシノビはパンを取り出し、水筒を渡す。リノは食欲はなかったが、無理やりにシノビからパンを押し付けられ、仕方なく口にする。
「……いったい、何が狙いなのですか?」
『むぐぅっ?ふがふがっ……』
「口の中の物を食べてから話せ」
ゴウカはリノの質問に対して口内で肉を頬張りながら話そうとするが、それに対してシノビが冷たく告げる。彼の言葉に従い、ゴウカは口の中の肉を飲み込むと改めてリノに自分の目的を話す。
『知れた事よ、お主がここにいればお主を取り戻すためにここへお主の味方も敵も集まるのだろう?そいつらの中に俺を脅かす存在が居ると魔導士は言っていた。だから俺は何があろうとここでお前を守るぞ』
「ふざけないでください!!」
『ふざけてはいない、どのみち俺にはもう他に選択肢はない。既に指名手配されていてもおかしくはないからな』
「……何故、こんな方法を選んだ」
既にゴウカが他の冒険者に手をかけ、更には王国騎士団にも手を出した事は知れ渡っている。シノビが食料の調達のために外の様子を伺った時には既にゴウカの噂は広まっていた。
ゴウカはシャドウの計画に加担し、今回の混乱に乗じて黄金級冒険者や王国騎士団と対峙した。不幸中の幸いというべきか、彼を上手くマホが口車に乗せ、リノの護衛役を頼む。そのお陰で今の所はリノの安全は保障されていた。
すでにこの場所は敵にも知られているはずだが、ゴウカという強大な存在がいるせいで迂闊に手を出せない。この場所は監視されているのは間違いないが、白面もシャドウも一行に現れる様子がない。
『安心しろ、どんな敵が現れようとお前の身は守る。もうしばらくの間だけだ、それまでは我慢してくれ』
「何故、こんな馬鹿な真似をしたのですか!?貴方の目的は何なんですか?」
『真の猛者との命を懸けた戦いをもう一度したい……それが俺の生きる希望だ』
「希望、だと……?」
シノビはゴウカの言葉を聞いて嘘を吐いているようには思えず、ゴウカは本気で真の強者と戦う事こそが自分の人生の最大の望みだと語る。
『お前達には分からないだろう、生まれた時から俺は
「戦闘狂め……」
『はっはっはっ!!普通の人間には分からぬ悩みだろうな!!だが、あと一度でいいんだ……もう一度だけ、俺は命のやり取りが出来る相手と戦いたい。その望みが叶いさえすれば後悔はない』
「……言っている意味が分かりません」
ゴウカの話を聞いてもリノは理解できず、シノビは黙り込む。彼の場合はゴウカの言いたい事は少しだけ分かるような気がした。しかし、その願いを叶えるためにリノを利用しようとする彼を許せるかどうかは別の話だった。
「ゴウカ、お前の目的など俺達には関係ない……お前の言う通り、その真の強者とやらが現れた時は俺達は行かせてもらうぞ」
『ああ、それは構わん。お前達には色々と迷惑を掛けたな……肉、食うか?』
「いらん!!」
喰いかけの肉を差し出してきたゴウカにシノビは鼻を鳴らし、当然の様にリノの隣に座り込む。リノはシノビとの距離が近い事に頬を赤らめるが、もうシノビは遠慮などせず、彼女の肩を抱き寄せた。
「リノ、こちらへ……」
「あっ……は、はい」
もう相手が王女であろうとシノビは構わず、彼女を守るために自分の傍に置く。そんなシノビに対してリノは抵抗せず、彼に身を任せた。その様子を見ていたゴウカはシノビにとって生きる目的が彼女なのだと悟る。
『なるほど、その王女を守る事がお前の生きる希望か』
「……黙っていろ」
「…………」
意外に鋭い指摘をしてきたゴウカに対してシノビは不機嫌そうな表情を浮かべ、リノは頬を赤らめながらシノビに身体を預ける。奇妙な共闘関係を築きながら、3人は夜が明けるのを待つ――
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