第721話 リノの隠れ場所
「――では、姫様は無事なのだな?」
「ああ、それだけは保証する。姫は安全な場所に避難させた」
「そうか……」
シノビからリンは話を聞いて安心する。兵士からリノがシノビに誘拐されたと聞いた時はまさかと思ったが、彼がシンと繋がる人間ではなく、あくまでもリノを救い出すための行動だと知って安堵した。
無論、シノビが嘘を吐いている可能性もあるが、それならば彼が命懸けでリノを救い出した理由の説明がつかない。リンはリノの配下であり、当然だが彼女の身に危険が迫っていると知れば無視するはずがない。
シンの狙いがリノならばリンは真っ先に始末すべき対象であり、そのリノをシノビが救ったという事は彼は裏切り者ではない証明になる。それにシノビがリノに好意を抱いている事はリンも知っており、彼をからかう。
「それにしてもお前が姫様のためにそこまで命を貼るとはな……この話を聞けば国王もお前と姫様の関係も許すかもしれんな」
「俺と姫はそんな間柄では……」
「ん?今、どんな間柄を想像したんだ?私が言いたいのは男でありながらお前が姫の側近として仕える事を国王が許してくれるかもしれないと言っただけだぞ。そういえばこの間も二人きりで行動している所を咎められたそうだな?」
「ぐっ……」
王都に滞在する銀狼騎士団は現在は女性だけで構成されているのはリノに男を寄り付かせないという国王の思惑であり、そもそも男であるシノビがリノに仕えている時点で普通ではない。
国王としては大切な一人娘に男を近づけさせたくはないと思い、それとなくリノに何度もシノビを銀狼騎士団から外すように伝えるが、彼女はそれを拒否していた。だからこそ国王はシノビの事を敵視している節があり、その事をリンは触れるとシノビは話題を逸らす。
「そんな事よりも今はリノ王女の安全のため、まずは白面から始末する……警備兵や王国騎士にも気を付けろ。奴等の中には宰相と繋がりを持つ者がいるはずだ」
「ああ、分かった……悪いが、お前は他の者の元へ急いで知らせてくれ」
「一人で大丈夫か?奴がまた現れたらどうする?」
「舐めるな、さっきは少し油断しただけだ……万全な状態ならばあんなトカゲに遅れは取らん」
「ふっ……」
シノビの言葉にリンは言い返し、そんな彼女に対してシノビはいつもの調子を取り戻した事を知り、彼女もリノが誘拐されたと聞いて冷静ではなかった。
リノの安全さえ確かめればリンが気にする事は何もなく、彼女は白面の討伐に全力を注ぐ事にした。警備兵や王国騎士に宰相と繋がりが持つ者が居る事も知り、今後は自分の配下であろうと注意しなければならない。
「俺はもう行くぞ、本当に大丈夫だな?」
「何だ、姫様だけではなく私の事も気になるのか?生憎と私の好みは年下の男だ」
「……やかましい」
リンがからかうとシノビは不機嫌そうな表情を浮かべて立ち去り、その様子を見送るとリンは改めて街道へ躍り出て白面の捜索と、先ほど取り逃がしたリザードマンの追跡を行う。
(いったい何処へ消えた……奴の目的は何だ?)
リザードマンが人語で話しかけてきた事を思い出し、リザードマンの口ぶりでは自分をこんな場所に連れ込んだ人間に深い恨みを抱いているようだが、それにしては色々と不可解な行動を起こしていた。
人間が憎いはずなのにリザードマンはリンとの戦闘では街道に存在した街の住民には手を出さず、火炎の吐息を放つ時すらもリンだけを狙っていた。人間が憎いのであればリンよりも力の弱い一般人を襲う方が効率的だと思うが、リザードマンはあくまでもリンだけを狙っていた。
(あのリザードマンは闘技場で管理されていたはず……という事は闘技場で何か起きたのか?まさか、闘技場の兵士も宰相と繋がりがあるのか!?)
闘技場の事が気になったリノは急遽行先を闘技場へと変更し、彼女は口笛を鳴らす。すると彼女の愛馬が駆けつけ、リンは乗り込む。
「行くぞ!!」
「ヒヒンッ!!」
愛馬に跨ったリンは闘技場へと急ぎ、仮に闘技場の兵士が宰相と繋がっていた場合、リザードマン以外の魔物が街中に解放されている可能性もある。そうなれば白面だけではなく魔物による被害も生まれてしまう。
(宰相……何を考えている!?)
宰相が白面と繋がっている事は間違いなく、彼がどうして城下町で白面の暗殺者達に放火紛いの騒ぎを起こしたのかリンには分からない。最初は城下町に逃げたリノを始末するために騒動を起こしたのかと思ったが、彼女一人だけを殺すつもりならばここまで騒ぎを起こす理由がない。
そもそもリノとシノビが城内で逃走している時から白面は街中で騒ぎを起こしており、その事を考えると今回の城下町の騒動はリノが発端ではない。では他にどんな理由があるのかとリンは考えるが、答えが見つかる前に闘技場が見えてきた。
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