幕間 《ゴウカ》

――王都に存在する既に廃墟と化した教会、かつてイゾウが敗れた場所にゴウカは訪れていた。彼がここへ訪れたのは手紙で呼び出されたからであり、普段は陽気な彼もこの場所へ辿り着くと警戒心を露にして周囲を見渡す。



『来てやったぞ!!姿を現せ!!』



手紙の主の姿が見えないため、ゴウカは大声で呼びかける。人気が少ない場所とはいえ、彼の大声だと街道の人間に気付かれる可能性もあり、ゴウカを呼び出した人物はため息を吐きながら姿を現す。



『声がでかいんだよ……もう少し声を小さくして話せないのか?』

『むっ、お前か!!俺を呼び出したのは!?』

『だからでかい声を出すなと言ってんだろうが……ゴウカさんよ』



建物の柱の陰から姿を現したのはシャドウであり、彼は日の光に当たらないように柱が作り出す影の中で佇んでいた。その様子を見てゴウカは背中のドラゴンスレイヤーに手を伸ばすが、そんな彼にシャドウは首を振る。



『止めて置け、そんなもんで俺は殺せない事はもう知っているだろう?』

『むうっ……何の用だ?』

『いっただろう、あんたの望みを叶えてやれるのは俺だけだとな』



ゴウカがシャドウと顔を合わせるのは初めての事ではなく、これまでに何度か顔を合わせた事があった。但し、二人の関係は決して親しい間柄ではなく、現にゴウカはシャドウを倒すつもりでこの場所へ訪れていた。


二人は顔を合わせる度に命のやり取りを行い、幾度もゴウカはシャドウを切り捨てようとした。しかし、結局は彼を倒す事は出来ず、最強の冒険者であるゴウカからシャドウは逃げ続けてきた。だが、今回はシャドウの方からゴウカを呼び出し、取引を持ち込む。



『ゴウカ、あんたの悩みはよく分かるぜ。俺のも同じ悩みを持っていたからな』

『戯言を抜かすな!!俺と同じ悩みを持つ者がいるだと!?』

『嘘じゃねえっ……あんたは確かに強い、だけどな。世の中にはあんたが考えているよりも強い奴等はいるんだよ』

『何だと……!?』



シャドウの言葉にゴウカは動揺したように大剣から手を離し、そんな彼に対してシャドウはゴウカの目的を叶えるための方法を告げた。



『あんたの望みを叶えるには俺と手を組む以外にあり得ないんだよ。どうする?俺と手を組むか?』

『……答えは決まっている』



自分の目的を叶えるというシャドウに対し、ゴウカは背中の大剣を引き抜き、容赦なくシャドウが隠れている柱に向けて振り払う。



『かあっ!!』



ゴウカの攻撃によって柱は粉々に吹き飛び、この際にシャドウは影の中に溶け込むように消え去る。ゴウカは柱を砕くと、シャドウの姿を探して周囲を見渡し、この時に別の柱の陰にシャドウが移動している事を確認する。



『なるほど、俺とここでやり合うつもりか?』

『その通りだ!!貴様をここで捕まえ、その後にお前から俺の望みを聞き出す!!そうすれば一石二鳥だ!!』

『一石二鳥?和国の諺か……あんた、そういう知識はあるんだな』

『問答無用!!行くぞ、シャドウ!!』

『ちっ……これだから馬鹿は困る』



自分と戦うつもり満々のゴウカに対してシャドウは馬鹿馬鹿しくなり、この男には小細工は通用しないと認識すると、彼は覚悟を決めた様に影の中に溶け込む。


またもや姿を消したシャドウにゴウカは居場所を探そうとするが、直後にゴウカの影に異変が発生し、シャドウはゴウカの背中に何時の間にか移動していた。



『いいから話を聞け、これが最後の機会だと思え』

『ぬおっ!?何時の間に後ろに……』

『お前の望みを叶える方法は――』



シャドウはゴウカに彼の望みを叶える方法を伝えると、その話を聞かされたゴウカは驚愕し、そして話を伝えたシャドウは彼の影の中に沈むように消えていく。



『覚えておけ、これが最後だ。もしもお前が俺の提案を拒否するならば……もう二度とお前の望みは叶う日は来ない』

『……ふんっ!!』



自分の影の中に消えていくシャドウにゴウカは見下ろし、彼は完全にシャドウが消える前に踏みつけようとしたが、それを予測していた様にシャドウは影の中に即座に潜り込む。


教会に一人残されたゴウカは黙って空を見上げ、一言だけ呟く。その言葉は普段の彼からは想像できない程に重く、暗い雰囲気で言い放つ。



『望み、か……』



シャドウが消えた事でゴウカは教会に残る理由はなくなり、彼はその場を立ち去った――

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