第715話 聖女騎士団の集結

「ちっ……変な事を思い出しちまったね」

「えっ?」

「何でもないよ……それよりエルマ、あんたも手伝いな。久しぶりに手を組もうじゃないか、あたしの背中を預けられるのはあんただけだよ」

「そうだぞ!!エルマも一緒に戦おう!!」



テンとルナはエルマに対して自分達と共に来るように告げると、エルマは驚いた表情を浮かべてゴンザレスとガロに視線を向ける。二人ともまともに戦える状態ではなく、ランファンが代わりに守る事を告げる。



「この子達の事は私に任せろ。エルマ、お前は気にせずに戦うんだ」

「ランファン……分かりました、では今だけは私も聖女騎士団に復帰しましょう!!」

「やった!!」

「これで全員集まったね……よし、いくぞ!!」

『おおっ!!』



エルマも合流し、遂に聖女騎士団は勢揃いするとテンは号令をかけて行動を開始した。その様子をゴンザレスとガロはランファンに抱えられた状態で見つめ、呟く。



「エルマの奴……俺達といるよりも生き生きとしてやがるな」

「ああっ……あんな表情、初めて見たかもしれない」

「ふふっ……さあ、行くぞ。ここからなら白猫亭が近い、お前達もそこで治療してやる」



ランファンはゴンザレスとガロを軽々と抱きかかえ、とりあえずは白猫亭が一番近い場所にあるという事で白猫亭へと向かう――






――同時刻、他の地区でも王国騎士団が到着し、白面の対処を行う。銀狼騎士団は工場区にて白面の集団を追跡し、彼等の後を追う。前回の反省を生かし、相手が目眩ましの白煙を炊いてもリンは暴風の力を利用して煙を吹き飛ばす。



「絶対に逃すな!!今回こそ全員生け捕りにしろ!!」

『はっ!!』



屋根の上を駆け巡る白面を地上から馬に跨った銀狼騎士団が後を追跡し、この際にリンは狙いを定めて刃を放つ。



「そこだっ!!」

「ぐぎゃあっ!?」



白面のい暗殺者の一人を仕留め、傷を負った暗殺者が倒れ込む。だが、その様子に気付いた他の仲間達は一瞬だけ驚いたが、すぐに仲間を見捨てて逃走に集中する。


クーノに滞在する白面の暗殺者は仲間意識はあったが、この王都の白面の暗殺者は仲間がやられようと意にも介さず、自分に与えられた任務に専念する。その姿を見てリンは特に蔑む事はなく、むしろ目的のためならば仲間を躊躇なく切り捨てる姿にある意味感心した。



(自分の与えられた役目のためならば仲間も切り捨てる程に冷徹になるか……よく鍛えられた暗殺者だ)



王国騎士ならば仲間を見捨てるような騎士は許されないが、時には任務のために仲間を犠牲にしてでも果たさねばならない事もある。例を出すならば火竜やゴーレムキングの討伐の際も王国騎士の多くが犠牲になったが、それでも彼等は国を守るためにどれだけの犠牲が生まれようと戦い抜いた。


この王都の現れた白面の暗殺者も火竜に挑んだ王国騎士と同じぐらいの覚悟を感じられ、このような敵は非常に厄介だった。仮に仲間が殺され、最後の一人になっても白面は止まらないだろう。



(こいつらを止めるには全員一人残らず倒さなければならない!!)



リンは捕まえるのを諦め、彼等を全員仕留める気でなければ白面は止められないと判断した。そこで彼女は自分の騎士団に新たに命令を与える。



「奴等を全員仕留めろ!!生かして捕まえようとは思うな、全力で奴等を始末しろ!!そうしなければ勝てる相手ではない!!」

『はっ!!』



リンの言葉に銀狼騎士団の騎士達は彼女の意思に従い、ここからは敵の捕縛ではなく、殲滅の方向へ頭を切り替える。リンも暴風を構え、白面を追撃しようとした時、ここで前方の方角から大勢の民衆が押し寄せてきた。



「ひいいっ!?」

「た、助けてくれぇっ!!」

「騎士様、追え願いします!!我々をお守りください!!」

「なっ……いったい何があった!?」



追跡中の騎士団に大勢の人間が殺到し、リンは驚いて彼等に何が起きたのかを問い質す。その答えは直後に判明し、彼等の後方から信じられない存在が動いていた。



「ふ、副団長……あれをご覧ください!!魔物です!!魔物が市街に!?」

「馬鹿なっ……!?」




――街道に姿を現したのは1体の魔物であり、その魔物は最近では闘技場で「王」の異名を誇る魔人族だった。リンも噂だけは耳にした事があり、その姿を見ただけで彼女は冷や汗を流す。




ゆっくりと街道を歩いているのは「リザードマン」と呼ばれる魔人族で間違いなく、どうして闘技場で管理されているはずの魔物がここに居るのかとリンは焦りを抱くが、すぐに彼女はリザードマンを放置は出来ず、暴風を引き抜いて馬上から跳び上がる。



(一撃で仕留める!!)



空中にてリンは刃を鞘に納めると、リザードマンに狙いを定めて刃を引き抜く。この際にリザードマンはリンを見上げ、黙って口元を開く。その行動に気付いたリンは嫌な予感を浮かべ、即座に風の斬撃を放つ。

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