第670話 白面と聖女騎士団

「――あの日の出来事を俺は生涯忘れる事はないだろう。白面は間違いなく、闇ギルドの中でも最大にして最強の組織だった。しかし、奴等が最強と謳われたの裏社会での話だ。表の世界の最強の騎士団に手を出した時点で奴等の命運は尽きた」

「それってもしかして……」

「ああ、お前等の知っている通りに白面は聖女騎士団に敗れ、壊滅した。当時の白面に所属していた暗殺者は全員が騎士団に敗れ、討ち取られたはずだ……最も騎士団の方も三割近くの死傷者が出たようだがな」

「さ、三割も……」



当時の聖女騎士団は世界最強と謳われる程の実力を持っており、少なくとも国内においては彼女達に勝る騎士団はいなかった。だが、そんな騎士団に白面は暗殺者を総動員させて挑み、結果から言えば双方に大きな被害が生まれた。


騎士団は三割近くも犠牲を出したが、白面に至っては組織が壊滅するまで追い込まれた。いくら闇ギルドからの依頼とはいえ、表世界の最強の騎士団に挑んだ事が彼等の間違いであった。



「辛うじて生き残った白面の残党も闇ギルドによって始末されたはずだ。闇ギルドからすれば白面は暗殺稼業では都合の良い道具だったが、日々勢力を伸ばしていく白面を危険視していたからな。むしろ、自分達の邪魔者である聖女騎士団と白面を衝突させる事で片方を排除しようとした結果、白面は壊滅。聖女騎士団も甚大な被害を受けた。闇ギルドからすれば最高の結果となっただろう」

「そんな……」

「最も……白面が居なくなった事で闇ギルドの連中も調子に乗り過ぎた。この機を利用して奴等は本格的に聖女騎士団を追い込もうとしたが、結果から言えば失敗に終わり、逆に自分達が壊滅の危機を迎えたからな」



白面という存在が居なくなった事で他の闇ギルドは勢力を再び盛り返したが、黒虎の長は更に調子を乗って白面との戦闘で被害を受けた聖女騎士団を自分達の手で追い詰めようとした。


だが、結局は団長であるジャンヌを罠に嵌めて引き寄せようとしたが、彼女一人にすら闇ギルドの勢力は圧倒され、逆に壊滅の危機に追い込まれる。しなければ今頃は闇ギルドは跡形もなく消えていただろうと語る。



「俺が知っている白面の情報と言えば奴等はただの暗殺者集団ではない、一時の間は裏社会を支配する一歩手前にまで上り詰めた組織だ。もしも奴等が聖女騎士団とジャンヌに手を出していなければ……今頃は王都の裏社会は白面が支配していただろう」

「そ、そんなに恐ろしい組織だったんだ」

「ううっ……こ、怖いね」

「ぷるぷるぷるっ……」

「大丈夫だよ、プルリンもそんなに怖がらなくても……あっ、違った。勝手に水ようかんを食べてる」



プルリンは固形物は食べられないかと思ったが、水ようかんなどの類は食べられるらしく、ナイが頼んだお菓子を貪っていた。そんなプルリンを見てナイ達は少し心が和み、冷静さを取り戻すとゴエモンに問い質す。



「さっき、白面の残党は闇ギルドに始末されたと言ってましたけど……本当なんですか?実はまだ生き残りがいて組織を立て直したとか……」

「いや、そこまでは俺も分からないな。だが、奴等の仮面は覚えている……こんな形をしていたか?」

「これはっ……!?」



ゴエモンは何時の間にか書き込んだのか、机の上に羊皮紙を広げるとそこには王都の騎士団に襲い掛かってきた仮面の暗殺者が装着していた物と全く同じ形をした仮面が記されていた。


この仮面はゴエモンが記憶を頼りにかつて存在した白面の組織の暗殺者が身に付けていた仮面を描いた物だという。実はゴエモンも王都に現れた白面の暗殺者の事が気にかかり、こうして誰かが自分の前に現れる事を予期して似顔絵を記していたという。



「この仮面に見覚えあるか?」

「見覚えも何も……王都に現れた奴等が身に付けていた仮面と一緒です!!」

「そうか、だとしたらそいつらは本当に白面かもしれないな。だが、少なくとも俺が知る限りでは白面はもう滅びたはずだ……奴等の残党が生き残っていて組織を立ち上げたとしても、どうしてまた騎士団を襲った?」

「あれ?言われてみれば確かに……」

「かつて奴等の組織は聖女騎士団に手を出して壊滅の危機に追い込まれた。それなのにまた王国の騎士団に挑む理由があるとすれば……復讐か」

「復讐……」

「奴等からすれば聖女騎士団は自分達を壊滅まで追い込んだ存在だ。だが、聖女騎士団はあくまでも王国騎士団でしかない。もしも奴等の狙いが復讐だとすれば……その対象は騎士団を管理する王国その物かもしれないな」

「王国に復讐……!?」



20年前に滅ぼされた白面の残党が生き残り、人を集めて組織を結成させたとした場合、白面が先日に王国騎士団を襲撃した理由は王国への復讐ではないのかとゴエモンは推理する。現時点で集めた情報ではそうとしか考えられない。

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