第657話 サイクロプスの捕縛

「全く、王都を出たばかりだというのにとんでもない事に巻き込まれてしまったね」

「も、申し訳ございません王子様!!」

「まあいい、この調子ならもう無暗に暴れる事はないだろう。定期的に果物を与えれば暴れる事はないはずだし、後の事は任せたよ」

「は、はい!!お任せ下さい!!」



サイクロプスに関しては商団の人間に任せ、この時にアルトは彼等に手紙を託す。城門を守る警備兵に手紙を見せればサイクロプスの処置に関しては王国の兵士が対応するようにという指示が書かれていた。


その後、サイクロプスは荷車に乗せられ、王都へ向けて商団は移動を再開した。これでひと段落したと思われたが、王都を出たばかりでこのような面倒事に巻き込まれる辺り、運が悪かったとしか言いようがない。



「クゥ〜ンッ……」

「大丈夫だよ、ビャク。怪我はもう治ったから……さあ、皆先に行こうか」

「……ナイと一緒に居ると、いつも何かしら面倒事に巻き込まれる気がする」

「うっ!?」

「ミ、ミイナ!!失礼ですよ!!」

「まあ、別にいいじゃないか。たまにはこんな事も起きないと旅はつまらないだろう?」



ミイナの鋭い指摘にナイは冷や汗を流し、確かに前々からナイは旅の道中で面倒事に巻き込まれる事が多かった。前の旅の時も盗賊に襲われたり、滅多に遭遇しないはずの魔物と出会って何度も命が危険に晒された。


しかし、旅を通して様々な苦難を乗り越える事でナイ自身も強くなり、先ほどの戦闘でもナイは自分が更に強くなる切っ掛けを手にしたような気がした。



(瞬動術も思っていた以上に使えるな……これなら武器がない時でも役立ちそうだ)



ナイは武器がない場合に備えて素手で戦う方法は元冒険者のドルトンから教わっており、最近では仲良くなったドリスの親衛隊のリンダから指導を受ける事もあった。先日、まだナイが黒狼騎士団の団員として行動していた時、ドリスから話しかけられた事を思い出す。



『そういえばナイさん、リンダが貴方にお礼を言いたいそうですわ』

『え?リンダさんが?』

『なんでも吸血鬼の一件で世話になったのでお礼をしたいと私の方から伝えるように言われました。何かリンダにしてほしい事はありますか?』

『別に気にしなくていいのに……あ、でもリンダさんは格闘家でしたよね?なら、格闘技を少し教えてほしいんですけど……』

『格闘技を?』



ドリスにリンダから礼を伝えられたとき、ナイはリンダに願いたい事が格闘技だと伝えた。彼女はその願いを聞き入れ、訓練の後にナイはリンダから指導を受ける事になった。



『話は伺っております、私からナイさんは格闘技の指導を受けたいとの事ですが、本気ですか?』

『はい……あの、迷惑ならいいんですけど』

『いえ、平気です。では基本の型から教えましょう』



リンダから直接指導を受けてナイは彼女から格闘技の基礎を教わる。最も教わった事は基礎だけであり、本格的な武術は教わってはいない。それでもナイは昔と比べたら剣以外で戦う術を身に付けたと言える。



(今の戦い、何か掴めたような気がする……王都に戻ったらリンダさんにお礼を言わないとな)



ナイはサイクロプスとの戦闘で拳を叩きつけた際、何かを掴めた気がした。これからの戦闘でもナイはリンダから教わった格闘技が役立つ事になると信じ、改めてリンダに心の中で感謝した――






――同時刻、川の中からナイ達の様子を伺う小さな影が存在し、その影はナイ達が乗っている狼車へと近づく。そして誰も見ていない事を確認すると、狼車の荷物の中に紛れ込む。


ナイ達は誰もがその小さな影の正体に気付く事はなく、狼車を発進させてクーノへと向かう。小さな影は狼車の荷物の中でナイ達の様子をじっと伺う。





※短めですが、ここまでにしておきます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る