第656話 二人に手を出すな
「ギュロロッ!!」
「危ない!?」
「わあっ!?」
「きゃあっ!?」
迫りくるサイクロプスに対してナイは起き上がると、モモとリーナを守るために前に出る。咄嗟に反魔の盾を構えようとしたが、先ほど二人に抱きつかれた時に反魔の盾も岩砕剣も手放していた事が判明し、反射的に左腕の腕鉄鋼を構える。
「ギュロォッ!!」
「ぐううっ!?」
「ナイさん!?」
「まずい、直撃したぞ!!」
「これ以上は見てられない……ていっ!!」
サイクロプスの一撃をナイは腕鉄鋼で受け止めるが、あまりの威力に腕鉄鋼越しでも衝撃が広がり、ナイは膝を着く。それを見たミイナが如意斧を振りかざし、サイクロプスの背後を狙う。
柄の部分を伸ばして放たれた斧に対してサイクロプスは振り返ると、反射的に両腕を交差して防ぐ。サイクロプスの皮膚は非常に頑丈でミイナの如意斧の一撃を受けても表面の皮膚が切れた程度であり、血が滲む。
「ギュロロッ!!」
「嘘っ……効いてない?」
「ガ、ガーゴイルよりも硬いのですか!?」
「仕方ない、ナイ君!!僕達も加勢するよ!!」
「待って!!」
アルトは自分の
「手を出さないで……こいつは僕が何とかする」
「何とかするって……」
「無茶ですよ!!そんな怪我でどうするつもりですか!?」
「いいから邪魔をしないで!!」
「ギュロロッ……!?」
左腕を抑えた状態でナイはサイクロプスと向かい合い、まだ自分と戦う意思があるナイを見てサイクロプスは戸惑うが、それに対してナイは最後の賭けに出た。
(もう手加減抜きだ……次の攻撃で決める)
先ほどのサイクロプスの攻撃でナイは左腕を痛めつけられ、今尚も痺れている。しかし、痺れていようと拳を握りしめる事は出来る。この状態を逆に利用してナイは強化術を発動させた。
全身の筋力を聖属性の魔力で強化させ、この時にナイの全身を白炎が包む。その光景を見た者は背筋が震え、サイクロプスでさえもナイの変化に気付いて恐れを抱くように一歩後退る。
「ギュロォッ!?」
「うおおおおっ!!」
逃げ出そうとしたサイクロプスに対してナイは強く踏み込み、まだ痺れて感覚が薄れた左腕を振りかざす。腕鉄鋼を装着した状態の左拳をサイクロプスの腹部に目掛けて振り翳す。
(ここだ!!)
巨人族よりも体躯が大きいサイクロプスとナイでは体格差が存在し、普通に殴りつけようとしても腹部には届かない。だからこそナイは「瞬動術」を発動させ、サイクロプスに目掛けて突っ込む。
「どりゃあああっ!!」
「ブフゥウウッ!?」
「うわっ!?」
「や、やった!?」
サイクロプスに目掛けて突っ込んだナイは左腕の腕鉄鋼をサイクロプスの腹部に叩き込み、人間で言うところの「水月」に攻撃を受けたサイクロプスは苦悶の表情を浮かべ、腹部を抑えた状態で膝を着く。
人間が繰り出したとは思えない程の信じられない衝撃が腹部を貫き、サイクロプスはやがて白目を剥いて倒れ込み、泡を吹く。死んでしまったかと思われたが、様子を確認すると辛うじて生きており、ナイは腕鉄鋼を確認して眉をしかめた。
「アルト……悪いけど、後で直してくれる」
「えっ……直すって、うわぁっ!?」
「ど、どうしたんですか!?」
「ナイ、その指……大丈夫?」
珍しくアルトが取り乱した態度を取ると、他の者もナイの左腕を見て驚愕の表情を浮かべる。最後の攻撃の際にナイが装着していた腕鉄鋼は破損し、ナイの左手の指はとんでもない方向に曲がっていた。
今の所は感覚が痺れて痛みは感じないが、早急に対処する必要があり、他の者達は慌てて倒れたサイクロプスの捕縛とナイの治療を行う――
「――はんどぱわぁっ!!」
「はうっ……凄い、もう治った。前よりも怪我を治すのが上達したね」
「えへへっ、私も毎日練習してるんだよ〜」
ナイの左腕の怪我はモモの魔操術を利用した治療によって瞬時に元に戻り。その間にアルトは腕鉄鋼の修理を行う。サイクロプスの一撃を受け、その後にナイが強化術を発動した状態で殴りつけたせいでかなりひどい壊れ方をしてしまい、彼は困り果てる。
「ふむ、これを直すには時間が掛かりそうだな。だけど安心してくれ、必ず直してみせるよ」
「ありがとう、アルト……それで、あっちの方はどうかな?」
「や、やっと捕まえたぞ!!」
「全く、てこずらせやがって……」
「ギュロロッ……」
ナイの一撃で悶絶していたサイクロプスは両腕を後ろに回した状態で鎖で縛りつけられ、他の冒険者に囲まれていた。まだナイとの戦闘の影響が残っているらしく、顔色が悪い。
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