第639話 ナイVSクノ

シノビ一族であるクノはニーノの街にて金級冒険者にまで昇格を果たした実力者であり、彼女と戦うのはナイも初めてだった。二人は互いに向き合うと、クノは両手にクナイを構えた状態でナイに突っ込む。



「行くでござるよ!!」

「くっ!?」



試合開始早々に突っ込んできたクノに対してナイは木剣を構えるが、彼女はナイと同じく「俊足」の技能を所持しており、その移動速度は普通の人間の目では負えない。


しかし、ナイも動体視力には自信があり、それにドリスの教えで戦闘の際は常に観察眼を発動させておく。観察眼によって正確にクノの動きを読み取り、攻撃を対処する。



「せいやぁっ!!」

「何のっ!!」

「は、速い!?」

「二人とも何て速さだ……!!」



クナイを振り回すクノに対してナイも木剣を振り抜き、二人は試合場を駆けまわりながら刃を交わす。その動きの速さに他の団員は驚き、リンも目が離せない。



「このっ!!」

「おっと、そんな攻撃で拙者を捉えきれないでござるよ」



ナイは木剣を振り払うと、クノは身体を反らして器用に木剣を回避し、蹴りを放つ。その蹴りに対してナイは片腕で防ぐが、下手に攻撃を仕掛けるとナイは反撃を受けるため、不用意に攻撃できない。


何時の間にか試合場の端までナイは追い込まれ、このままでは場外に落ちてしまう。場外に出た場合はそこで試合は終了し、ナイの負けになる。



(まずい、このままだと落ちる……!!)



どうにか形勢逆転を狙うが、クノはナイよりも動きが素早く、攻撃が捉えきれない。正攻法では彼女には勝てず、まずは窮地を脱するために動く。



(これしかない!!)



ナイは跳躍の技能を生かし、上空へと跳ぶ。それによって試合場の端から逃れようとしたが、それを見たクノは空中に不用意に跳んだナイに対してクナイを放つ。



「投っ!!」

「うわっ!?」



空中に浮かぶナイに対してクノはお得意の投擲でクナイを放つが、それに対してナイは木剣で受ける事は出来たが、この時に彼女のクナイには糸が指先に嵌めている指輪と繋がっている事を忘れていた。



「シノビ流、一糸背負い!!」

「えっ……うわぁっ!?」

「それまで!!」



糸を手繰り寄せながらクノは空中に浮かんだナイを場外に落とすために引き寄せ、まるで柔道の一本背負いのようにナイの身体を投げ飛ばす。その想いもよらぬ攻撃にナイは場外に向けて墜落した――






――クノとの試合で敗北した後、ナイは痛めた背中を摩りながら昼食を取る。昼食の際は王国騎士は城内の食堂を利用する事が多いが、ナイの場合は一人で城壁の上で食事をとる。



「いててっ……はあっ、もう少しで全勝できたのにな」



クノ以外の団員相手にはナイは勝利を収めたが、結局はクノに敗れた事でナイは団員相手に全勝で終わらせるという内密に掲げていた目標を果たせなかった。


初日に負け越してしまった時からナイは意地でも銀狼騎士団の団員全員に勝つと心に決め、意外と負けず嫌いな彼は今日まで各団員の動きを研究し、対処してきた。しかし、初めて戦ったクノとは思うように動けず、彼女の動きの速さとクナイという普通の人間が扱わない武器のせいで終始不慣れな戦闘に追い込まれる。



(クノに付いて行こうとしても駄目だな……何か方法を考えないと)



忍者であるクノは幼少期から特別な訓練を受けており、単純な動きの速さならば兄であるシノビさえも凌ぐかもしれない。ナイががむしゃらに突っ込んでも動きの速い彼女に翻弄されるため、正攻法で彼女に勝つのは難しい。



(クノに勝てたとしてもその後にはリンさんやシノビさんがいるはず……残りの訓練日数までに全員に勝てるように頑張らないと)



ナイに残された期間は4日しかなく、この4日の間にナイは全員に試合に勝つために気を引き締める。まずは最初の難関はクノであり、彼女に勝つためにナイはどうすればいいのかを考える。


動きの速いクノだが、観察眼を発動させれば彼女の攻撃動作自体は見切れる。しかし、攻撃を見切れたとしても相手が早過ぎてナイの身体の方が対応できない事が問題だった。しかし、ナイがクノに追いつく程の速さで動くとしたら強化術などに頼らなければならない。



(流石に強化術を試合で使うわけにはいかないし、それに身体の負担が大きすぎる。何かいい方法は無いかな……待てよ、身体に無理がない程度に身体能力を強化できないかな?)



早過ぎるクノに追いつくためにはナイは自分の身体能力を上昇させるしかないと考え、ここで思いついたのが「剛力」の技能である。剛力は筋力を強化させる技能だが、普段のナイは腕力を強化させる事に留まっているが、別に腕以外の筋肉を強化させる事もある。



(……試してみようかな)



ナイは本格的にクノに対抗するために剛力を利用した新しい訓練法を思いつき、最終日までに彼女の動きについていけるように内密に一人で訓練を開始した――

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