第630話 昆虫種

「この血の跡は……いけない!?皆さん気を付けてください!!」

「ぬうっ!?」

『敵かっ!!』

「でも、何処に……」



エルマの言葉に即座に全員が身構えると、この時にナイは気配感知を発動させる。だが、森の中には多数の気配が感じられ、あちこちに気配があるので昆虫種らしき存在を感じとるのは不可能だった。



(駄目だ、気配が多すぎて上手く読めない……ここはあれを使うしかないか)



ナイは「心眼」を発動させるために瞼を閉じる。心眼は気配感知だけでは感じ取れない敵でさえも見抜く力があり、即座に上空から接近する存在に気づき、警告を行う。



「マリンさん、危ない!!」

「っ!?」



マリンにナイは声を掛けると彼女は驚いた様に彼に振り返るが、この時にマリンの近くに生えている樹木の枝から影が出現し、彼女の元へ向けて飛び降りる。


咄嗟にナイはマリンを救うために刺剣に手を伸ばし、落下してきた生物に対して放つ。その攻撃に対して相手は背中から羽根を出し、空を飛んでナイの刺剣を交わす。




――ブゥウウウンッ!!




森の中に羽根を羽ばたかせる音が鳴り響き、マリンに襲撃を仕掛けようとした存在を見てナイ達は驚愕の表情を浮かべた。その存在とは巨大な「蟷螂」であり、体長は2メートル近くも存在する巨大蟷螂が地上へと降りたつ。



「キィイイイッ!!」

「うわっ!?」

「か、蟷螂!?」

「まさか、昆虫種か!?」

「気を付けてください!!」



巨大蟷螂は両手の鎌を振りかざすと、真っ先に自分を邪魔したナイに向けて放つ。その攻撃に対して咄嗟にナイは後ろに飛んで躱すと、勢いよく振り抜かれた蟷螂の鎌は近くに存在した樹木を切り裂く。


どれほどの切れ味を誇るのか、蟷螂が振り翳した鎌は樹木を切り裂き、真っ二つに切り裂かれた樹木は地面に倒れ込む。その光景を見てナイ達は驚き、まるで魔法金属のミスリルで作り出された武器にも勝るとも劣らぬ硬度と切れ味を誇る武器に驚く。



「キィイッ……!!」

「な、なんて切れ味だ……あんな攻撃、生身で受けたら耐え切れないぞ!!」

「ナイ君、下がって!!ここは僕が……」

『いや、俺に任せろ!!』



ナイを救うためにリーナは蒼月を構えるが、ここで彼女よりも先に動いたのがゴウカであり、彼は興奮した様子で巨大蟷螂と向かい合う。オークとの戦闘の際は相手が恐れてまともな戦闘にならなかったが、巨大蟷螂は躊躇せずにゴウカへと襲い掛かった。



「キィイッ!!」

『ほう、この俺を恐れずに向かってくるか!!久しぶりだな、俺に挑んでくる魔物は!!』

「ゴウカさん!?」



ゴウカは躊躇なく襲い掛かってきた巨大蟷螂に対して歓喜の声を上げ、蟷螂が振り翳した鎌を正面から受けた。しかし、ゴウカの身に付けている甲冑に弾かれ、蟷螂は自分の攻撃が弾かれた事に戸惑う。



「キィイッ!?」

『残念だったな、その程度の攻撃は効かんぞ!!』

「キイイッ……!!」



蟷螂は攻撃を弾かれると即座に距離を取り、ゴウカと向かい合う。攻撃が弾かれても戦意は失わず、それどころか再び攻撃を仕掛けてきた。



「キイイッ!!」

『ほう、向かってくるか!!だが、残念だが力不足だ!!』

「ギアッ!?」



ゴウカは正面から突っ込んできた蟷螂に対して両手を広げ、そのまま抱きしめる。蟷螂は離れようと鎌を甲冑に幾度も叩きつけるが、ゴウカは自慢の腕力で抱きしめる。


最初は抵抗していた蟷螂だったが、徐々にゴウカの腕力には耐え切れず、必死に暴れ狂うが振りほどく事が出来ない。そのままゴウカは蟷螂を抱きしめ、遂には蟷螂の肉体から血が滲み出す。



『ふんっ!!』

「ギエエエッ!?」

「うわっ!?」

「き、気持ち悪いっ……!?」

「うえっ……」



力ずくでゴウカは蟷螂を抱きしめて圧殺すると、胴体の部分が完全にへし曲がった蟷螂は動けなくなり、倒れ込む。蟷螂の血が散らばった光景を見てナイ達は距離を取るが、当のゴウカ本人は血塗れになりながらも嬉しそうな声を上げた。



『はははっ!!俺に挑むには少々力不足だったな!!』

「す、凄い……あの凶悪な昆虫種を力だけで倒すなんて」

「なんて強さだ……」

『ありがとう、助かった』

「え?あ、いえ……気にしないでください」



皆がゴウカの力に驚く中、マリンだけはナイの服の袖を引いて水晶板を見せつける。彼女はナイが自分に警告してくれた事に感謝し、握手を行う。


心眼が上手く発動した事でナイは事前に危険に気づく事が出来たが、ここで彼は刺剣の事を思い出し、先ほど弾かれた刺剣を探す。



(えっと、何処に落ちたのかな……あ、あった)



大切な養父の形見なのでナイは刺剣を回収しようとした時、彼が落ちている刺剣に手を伸ばしかけた瞬間、上の方から物音が聞こえた。嫌な予感を抱きながらもナイは頭上を見上げると、今度は巨大な蜘蛛が樹木の枝に巣を張り、ナイに向けて糸を放つ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る