第625話 オークとの戦闘
「ウォオオンッ!!」
「プギィッ!?」
「プギャッ!?」
ビャクが咆哮を放つとオークの群れは敵の中に白狼種が混じっている事に気付き、半数近くが怯えた表情を浮かべて足を止めた。力の弱いゴブリンや野生本能が優れるボアなどの魔物は白狼種の咆哮を耳にしただけで怯えて逃げ出す。
オークはゴブリンよりも危険度は高いとはいえ、それでも白狼種と比べると力が弱い魔物である。しかし、通常ならば白狼種の咆哮を耳に擦れば逃げ出すはずのオークたちは一瞬だけ怯んだが、すぐに涎を垂らして襲い掛かってきた。
『プギィイイイッ!!』
「ウォンッ!?」
「こいつら……退かない!?」
「来ますよ、私が足止めします!!その間に二人は準備を整えてください!!」
ビャクの咆哮を受けても逃げ出そうとしないオークの群れにナイは驚くが、即座にエルマは弓を構えると彼女の得意とする魔弓術を発揮させる。
彼女が撃ち込む矢には風属性の魔力が付与され、物体に衝突すると鏃に宿した魔力が拡散し、衝撃波を発生させる。これを利用してエルマはオークを吹き飛ばし、更に地面に打ちこめば土煙を舞い上げて視界を封じる。
「プギャアッ!?」
「プギィッ……!?」
「怯んだ、仕掛けるなら今だ!!」
「ウォオンッ!!」
「やああっ!!」
ゴンザレス、ビャク、ナイの3人はエルマの攻撃で怯んだオークの群れに突っ込み、攻撃を仕掛ける。ビャクは前脚でオークを突き飛ばし、鋭い牙で倒れたオークの頭部に容赦なく食らいつく。
「ガアアッ!!」
「プギャアアッ!?」
「プギィッ!?」
ビャクに噛みつかれた仲間を見て他のオークは混乱する中、ゴンザレスは闘拳を装備した拳を振りかざし、オークの顔面を殴りつける。
「ふんっ!!」
「ブホォッ……!?」
「ぬんっ!!」
「ブフゥッ!?」
顔面を殴りつけられたオークは地面に倒れ込み、頭から血を流して立ち上がる事は出来ず、続けてゴンゾウは他のオークに腹部を殴りつける。オークは頑丈な毛皮と分厚い脂肪に覆われているので打撃系の攻撃には強いはずだが、巨人族のゴンザレスの攻撃を受けたオークは衝撃に耐え切れずに倒れ込む。
ビャクとゴンザレスの活躍を見ながらナイは旋斧と岩砕剣を両手に構え、今回は魔物が相手なので躊躇する必要はなく、剛力を発動させて二つの大剣を振りかざす。
「だりゃあああっ!!」
「プギィイイッ!?」
「プギャアッ!?」
「プギィッ……!?」
次々とナイはオークを切り裂き、今のナイの腕力ならば相手がトロールだろうと切り裂ける威力の攻撃を与える事が出来た。その様子を見てエルマは援護は必要ないかと思った時、ここで馬の悲鳴が響く。
「ヒヒンッ!?」
「ヒヒィンッ!?」
「プギィイッ……!!」
「なっ……馬をっ!?」
エルマとゴンザレスがここまでの移動に利用していた馬車の馬たちが狙われ、数体のオークが馬たちに嚙り付き、生きたまま貪り喰らう。その光景を見てエルマはもう馬たちは助ける事は出来ないと判断し、その一方でオークの行動の異常性に戸惑う。
(戦闘中に馬に嚙り付くなんて……あの涎の量、まるで何日も餌を食べて否様な飢餓状態に陥っている!?)
オークは雑食性なので相手が動物であろうと関係なく襲い掛かって肉を食べる事自体は別におかしくはない。しかし、戦闘の際中にしかも他の仲間達が殺されていく状況でオークが馬たちを喰らう光景は明らかに異常だった。
ここでエルマは襲い掛かってきたオークたちの様子を伺うと、通常のオークと比べて僅かに身体が痩せているように感じられた。エルマはマホと旅をしていた時に何度かオークと交戦したが、今回現れたオークたちは何故か普通のオークよりも痩せており、まるで何日も餌にありつけていないかのように食料を目の当たりにして喰らいつく。
「プギィッ……ブフゥッ!!」
「プギィイッ!!」
「なっ!?仲間割れまで……!?」
馬に喰らいついていたオークの1体が他のオークに突き飛ばされ、その間に馬に別のオークが嚙り付く。食料の奪い合いまで始めたオークの群れを見てエルマは明らかに異常な光景だと判断し、すぐに彼女はナイ達に注意した。
「気を付けてください、こいつらは普通ではありません!!」
「ぐぅっ……!?」
「何だ、こいつら……いくら切られても向かってくる!!」
「ウォンッ!?」
『プギイイイッ!!』
ナイ達が対峙するオークの群れは彼等にいくら傷つけられようと襲い掛かり、特にこの場で最も大きいビャクに対しては数体のオークが喰らいつこうと顎を開き、ゴンザレスの腕にも噛みつく個体も存在した。
「アガァッ!!」
「ぐおっ!?こ、こいつ……俺を喰うつもりか!?」
「ギャインッ!?」
「ビャク!?くそっ、離れろっ!!ビャクはお前等の餌じゃないぞ!!」
『プギィイイイッ……!!』
いくら血を流そうと、致命傷を負っても飢餓状態のオークは躊躇なく目の前に現れたナイ達を餌と認識し、襲い掛かる。そんなオークの群れにナイ達は焦りを抱き、いつも通りに動く事が出来なかった。
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