第623話 調合に必要な材料
「……ですが、この薬草を採取してくれた事は本当に助かりました。これで材料の1つは集まりました」
「えっ……1つ?」
「はい、先ほどは伝え切る事が出来なかったのですが、薬草の他に調合に必要な薬があるんです」
エルマによるとマホを回復させるために必要なのはオーロラ湖に沈んでいる薬草だけではなく、他にも必要な素材が存在した。ナイが採取した薬草は本来は水中に育つ植物であり、このまま持ち帰って調合に利用しても調合の段階で品質が劣化してしまうという。
「この薬草の正式な名前は星華ですが、この星華は水中に沈んでいる間は一定の成長を迎えると、そのまま育つ事はありません。この星華を完全に成長させるには地上で育てる必要があります」
「じゃあ、育てるにはどうしたらいいんですか?」
「星華を育てるには聖水と、特別な肥料が必要なんです。その肥料はある魔物から採取できます」
「その魔物は?」
「魔樹と呼ばれる植物型の魔物です」
「あっ!?もしかして前に飛行船が到着した森の中に存在した、あの魔物!?」
「その通りだ」
ナイは以前に自分が倒した「魔樹」と呼ばれる魔物の事を思い出し、この魔物を倒した時に樹木に擬態していた魔物に襲われた。エルマによると星華を育てる肥料として魔樹が体内に宿している「樹石」と呼ばれる特殊な素材が必要だという。
「魔樹を倒せば樹石が手に入ります。この樹石を使って薬湯にすれば疲労を回復させる効果を生み出す事は有名ですが、実は樹石を砕いて混ぜた腐葉土は植物の成長速度を速める効果を持っています」
「だから次は俺達は魔樹を探さなければならないんだ」
「そっか……でも、魔樹ってそんなに簡単に見つかるの?」
「ウォンッ……」
イリアに寄れば特別な魔力回復薬の調合には聖水、星華、樹石の3つを集めなければ調合できないらしく、この内の聖水はイリアが所持しており、オーロラ湖からナイが採取した星華は集まっていた。
必要な素材は樹石となり、この樹石を採取するには魔樹を探し出して倒して回収するしかない。しかし、この魔樹が生息する地域は限られており、二人も冒険者ギルドに出向いて情報を集めた所、オーロラ湖の更に西の地方に「深淵の森」と呼ばれる森が存在するとう。
「ここから西の地に深淵の森と呼ばれる王国が危険区域に指定している森が存在します。そこには凶悪な魔獣が住んでおり、その奥地には魔樹も生息すると言われています」
「深淵の森……」
「王都の冒険者でさえも滅多に立ち寄らない場所らしい。だが、老師を救うには俺達はそこに向かわないといけない」
「でも、危険過ぎるんじゃ……そうだ、他の人に協力を求めるのは?」
「いえ、駄目です……先生が倒れている事を知っているのは王国内でも一部の人間だけです」
ナイの言葉にエルマは首を振り、マホが倒れた事を知っているのは弟子である彼女達と、王都内でも数名しか知らされていない事を明かす。どうして魔導士であるマホが倒れたのに他の人間にいわないのかとナイは疑問を抱くが、色々と事情があるらしい。
「現在の王都の治安は不安定なのです。火竜との戦闘でマジク魔導士を失い、続けてゴブリンキングの出現、更に最近では獣人国と王国の関係も危ういという噂まで流れています……そんな時にマホ魔導士が倒れた事を大々的に発表すれば王国の人々はどれだけ不安を抱かれるか……」
「マホ魔導士が倒れた事は決して他の人間に知らされてはいけない。だが、ナイ……俺達はお前の事を信頼している。だから、頼む。俺達に力を貸してくれ!!」
「お願いします、ナイさん!!」
「二人とも……顔を上げてください」
「ウォンッ!!」
ナイは二人の話を聞いて当然だが協力する事を決意する。世話になったマホを見捨てる事は出来ず、彼女を治すためにもナイは全力を尽くす事を誓う。
「分かりました。そういう事なら僕も協力させてください」
「おおっ!!助かるぞ!!」
「でも、いくら何でも他の人の力は本当に借りれないんですか?バッシュ王子やドリス副団長やリン副団長……それに聖女騎士団の人たちにも事情を話せば力を貸してくれると思いますけど」
「いえ、きっと王国騎士団の方々も事情を知れば力を貸してくれるでしょう。しかし、事態は一刻を争います。だから私達だけで先に動いたんです」
エルマとゴンザレスはイリアから話を聞くと真っ先に動いたらしく、王国騎士団の者達が動き出す前に自分達がマホを救うために王都の外に出たと告げる。マホに関わる事だと二人とも冷静さを失い、気づいた時には王都の外に出向いていた。
しかし、偶然とはいえナイと合流出来た事は心強く、ここから先はナイも力を合わせて深淵の森に生息する魔樹を見つけ出し、樹石を回収する事を誓う――
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