第607話 白猫亭の再開

――後日、白猫亭は遂に本格的に再開した。吸血鬼の一件を反省し、再開の際には聖女騎士団の団員の何名かが宿屋の護衛として残り、これでもしも悪党が現れても彼女達に任せれば問題はなかった。


再開初日に今まで白猫亭に通っていた常連客が訪れ、酒場は大人気だった。テンの料理は味わえないのを残念がる人間も多かったが、クロネの料理も彼女に負けず劣らず、すぐに客は気に入る。



「う、美味い!!なんて美味い飯だ!!」

「良かった、黒猫酒場が潰れたと聞いていたからもうクロネさんの料理は味わえないかと思っていたぜ……」

「酒も前よりも良い物が揃っているな!!」

「はいは〜い、どんどんおかわりしてね。今日だけは開店記念で無料よ〜」

『いぇ〜いっ!!』



ヒナの言葉に酒場に訪れた客は喜び、その様子を見てナイも喜ぶ。ナイは今後は白猫亭で寝泊まりする事が決まっており、前に使っていた部屋を利用させてもらう。また、庭の方もビャク専用の犬小屋も用意してもらい、今頃はビャクも休んでいるはずだった。



「大盛況のようだね、この様子ならあたしがいなくても問題はなさそうだね」

「あ、テンさん……」

「この間は助かったよ。この店が無事に開けたのもあんたのお陰さ……今朝、正式に騎士団の許可が下りた。これで聖女騎士団は完全復活さ」



テンはナイの座る机に移動し、正式に聖女騎士団が認められた事を伝える。その報告を聞いてナイは驚いたが、とても喜ばしい事なので笑顔で頷く。



「良かったですね!!じゃあ、聖女騎士団も王国騎士団に加わるんですか?」

「まあ、一応はそうなるのかね……王妃様が居なくなったといっても聖女騎士団の残した功績は大きいからね。これで本格的にあたしたちも動けるよ」

「そっか……本当に良かったですね」

「ああ、あんたには感謝してるよ……けど、これからあんたはどうするんだい?」

「えっ?」



ナイはテンの言葉を聞いて不思議に思うが、テンは頭を搔きながらナイがこれからどのように行動するのかを問う。



「あんた、この王都へ来たのは自分のやりたい事を探すために来たんだろう?でも、今の所は特に行動はしていないじゃないかい。あんたの力なら何にだってなれるのに……」

「それは……」

「あんた、王国騎士になるように何人かに誘われているんだろう?そういうのには興味ないのかい?」



テンの言葉は事実であり、実は少し前からナイは王国騎士になるように誘う人間が居た。その相手とは銀狼騎士団の副団長のリンや、黒狼騎士団の団長と副団長のバッシュとドリスである。


先日にこの3人から手紙が届き、ナイを自分の騎士団の王国騎士になるように勧める内容だった。王国騎士は一般人が簡単になれる職業ではなく、ナイ程の実力なら瞬く間に功績を上げ、普通の王国騎士よりも上の立場にもなれるかもしれない。



「あんたが女だったらうちの騎士団にも誘ってやれたんだけどね。騎士団だから、うちは男子厳禁なのが惜しいね」

「あ、そうなんですか」

「それで、あんたはどうするつもりだい?別に王国騎士に興味がないのなら他の職業を探すのも有りだと思うよ。例えば……冒険者とかはどうだい?」

「冒険者か……」



冒険者に関してはナイは前々から興味を抱いており、魔物を討伐する事はナイも日常茶飯事なので冒険者の職業は合っているかもしれない。但し、これまでに冒険者にナイがならなかった理由は年齢に問題があるからだった。


冒険者の規定として未成年は試験を受けられないという決まりがあり、滅多な事では未成年者は冒険者にはなれない。そのためにナイは冒険者にはなれないと思っていたが、テンはギルドマスターにも顔が利くのでナイを今すぐに冒険者として推薦する事も出来るという。



「何だったらあたしがギガンの奴に話を通してあんたを冒険者にさせる事も出来るよ。まあ、あいつは頭が固いから試験は受けさせられるだろうけど……」

「え、そんな事が出来るんですか?」

「あいつには色々と借りがあるからね……それで、王国騎士か冒険者、どっちかになりたいとは思わないのかい?」

「う〜ん……」



ナイは考え込み、自分が王国騎士や冒険者になる姿を想像するが、どうにもどちらの職業も自分に本当に適した仕事なのか分からない。



「ちょっと、よく分からないですね……実際に仕事をしてみないと」

「まあ、そうだろうね……じゃあ、こういうのはどうだい?あたしが他の騎士団の奴等と話を付けるから、一回王国騎士がどういう者なのか体験してみるのはどうだい?」

「え?体験?」

「そうさ、王国騎士の事を知りたいのなら実際に騎士になるしかない。そこで一か月ほど他の騎士団に仮入団してどんな仕事なのかを体験してみな」

「ええっ!?」



テンの思いがけぬ提案にナイは驚かされるが、彼女は本気で言っており、こうしてナイは彼女の紹介で各騎士団に入団してみる事が決まった――

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