第608話 体験入団

――突拍子もないテンの提案に対してナイは困惑したが、彼女の考えを聞いてナイも真面目に考え、確かに自分が王国騎士という職業をよく理解していないので実際に体験するという案は一理あると思った。そこでナイはテンの提案を受け入れ、各王国騎士団に話を通して仮入団という形で世話になる事が決まる。


王国騎士団は最近になって復活した聖女騎士団を含めると5つ存在し、まずは国王の直属の騎士団である「猛虎騎士団」他にはバッシュ王子が管理する「黒狼騎士団」リノ王女の「銀狼騎士団」アルト王子の「白狼騎士団」最後にテンが率いる「聖女騎士団」の5つで構成されている。


一応は王国騎士団以外の騎士団は存在するが、王国を代表する騎士団はこの5つであり、猛虎騎士団の団長であるロランは大将軍も兼任しており、現在は国境の守備を任されているので王都にはいない。


そこでナイは聖女騎士団を除いた3つの騎士団に仮入団する事が気まり、最初にナイが世話になるのはバッシュ王子が率いる黒狼騎士団だった。



「これからよろしくお願いします。バッシュ王子様、ドリス副団長」

「ああ、よろしく頼む……それとこれからは騎士団に在籍している間は俺の事は団長と呼べ」

「遂にこの日が来ましたわね、歓迎しますわナイさん!!」



ナイは黒狼騎士団の装着する鎧を身に付け、一週間の間だが黒狼騎士団の団員として過ごす事が決まる。一週間が経過すれば二日ほど休みを挟み、新しい騎士団に仮入団する。やく一か月を掛けてナイは三つの騎士団の仕事ぶりを学ぶ予定である。



「ドリス、お前が面倒を見てやれ。今日の所は我々の仕事を見学してもらうだけでいい。本格的に仕事を行うのは明日からでいいだろう」

「分かりましたわ!!ではナイさん、しっかりと私達の仕事ぶりを見ておいてください!!」

「あ、はい……分かりました、副団長」

「では、しっかりと私に付いて来て下さい!!」



仮入団とはいえ、ナイが騎士団に入ってくれた事にドリスは嬉しく思い、バッシュも心なしか機嫌が良さそうだった。そして今日1日はナイはドリスと共に行動し、黒狼騎士団の仕事ぶりの観察を行う。



「王国騎士団は各地区に分かれて管理を任されているのは知っていますわね?黒狼騎士団が管理するのは富豪区ですから、騎士団は定期的に富豪区の見回りを行いますわ」

「あれ?城下町は警備兵の人たちが見回りを行っているんじゃ……」

「もちろんその通りですわ。各地区には警備隊長が一人存在しますが、彼等は騎士団の配下です。彼等も功績を上げれば昇格し、王国騎士に昇格する事もありますわ」

「へえ、そうだったんですか……」



黒狼騎士団は貴族などの上流階級の人間が暮らす富豪区の管理を任されており、この場所は王都でも重要人物が多く暮らしており、いずれはこの国を継ぐ事になるバッシュ王子だからこそ管理を任されている。


貴族たちの安全を守る事でバッシュは彼等の信頼を得ており、人望も厚い。富豪区に暮らす貴族の殆どが彼を支持しており、彼以外に富豪区の管理を任せられる人間はいないとさえ言われていた。



「富豪区に暮らす人間の殆どは貴族ですが、その貴族を狙って強盗を起こそうとする人間は多いですわ」

「そういえば例の吸血鬼も貴族を相手に強盗をしていたような……」

「ええ、あの吸血鬼には私達も本当頭を悩まされていましたわ……そういえばリンダからナイさんのお陰で捕まったと聞いております。その節は助かりましたわ」

「あ、いえ……気にしないでください」

「ちなみにあの吸血鬼はアッシュ公爵の元で二度と悪さをしないように躾けられているそうですわ。何度か脱走を試みようとしたそうですが、その度にお仕置きを与えているとか……」

「へ、へえっ……」



ゴブリンキラーと認定されたゴブリンの新種が脱走して以来、闘技場の警備は以前よりも強化されており、例の吸血鬼も魔物と同じように捕まっている。現在はアッシュが直々に少年の吸血鬼を教育しているらしく、改心の余地があるのならば釈放も考えられるが、脱走を計るような性格では釈放は難しいだろう。



「ここ最近の王都は雰囲気が怪しいですわ。以前よりも事件が多く発生しているそうですし……やはり、一時的にとはいえ私達が王都を離れていたのが原因かもしれません」

「イチノへ向かった時の事ですよね」

「ええ……あの時、王都の守護が疎かになりましたわ。その間にもしかしたら外部から悪党が流れ込んでいる可能性もあります」

「悪党?」

「ナイさんは闇ギルドの事を御存じですわね?奴等は王都だけではなく、他の街にも末端の組織を存在します。もしも私達が不在の時に外部から配下を招き寄せていたら……考えるだけで恐ろしいですわね」



あくまでもドリスの勘だが、王都の勢力が一時的に離れている間に闇ギルドが外部から仲間を呼び寄せていたと考えるだけで恐ろしい。

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